第139話オールウェイ・フォン・サウザントと内臓
オールウェイ・フォン・サウザント
王都を中心に王都絶対主義の貴族の一人であり、サウザント家の人間である。
ブリタニア国で数少ない、領地もちの貴族でもある。
ブリタニアは王都を含めなければ、12の州に分かれており州を高位貴族が、その高位貴族が指名した中級から下級貴族が都市、街、村を管理する形になっている。
だが殆どの高位貴族は、州まるごと自分で管理するので下級貴族に任命して都市などを任せる事は珍しく、その変わりに補佐として自分の側近として貴族たちをまとめ上げたりするのである。
王都こそ国の象徴!と豪語する王都絶対主義の貴族たち、その筆頭貴族でもあったはずのオールウェイ、今では隣のウェールズに拠点を移し、すっかり住人として溶け込んでいた。
八百万 夜の部
内臓をメインで出す夜の部、最初こそ色んな住人が内臓なんて誰が食うかよ!?って思っていた。
その思いは貴族だったら猶更強いものだっただろう。
貴族に内臓を食えだと!?下位と呼ばれる素材ですら口にする必要がない貴族に、よりによってまっさきに捨てる様な内臓を食えだと!!??八百万はあの貧民食い否貧民も食わないイールを美味に仕上げた。
だからといって内臓を食えと言われて食える人間が何人いる?私達の世界の人間の認識では内臓=クソ袋、そう排泄すべきクソが詰まっていた、その内臓を食えと言うのか!?
多くの人間が、いくらなんでもそれは・・・・・と引いた事だろう。
丁寧に処理がされているとか、臭みが全然ないとか、そんな事が問題じゃないのだ。
獣が真っ先に食うのが内臓?栄養が多いのが内臓?そうだな、確かにそうかもしれない、でもな我々の歴史では飢饉や大戦争時代ですら内臓は食わなかった人間達なのだ。
わかるか?食うものが少なかった飢饉や食料が少ないと言われていた時代ですら食わなかったのが内臓なのだ。
それだけ肉に余裕があったといってもいい、狩りにいってくれる冒険者や狩人が戦争でいなくなった時だって結局は戦闘員じゃない人間達で寄り集まって肉を手に入れた。
そんな時ですら、もったいないから内臓を食おうなんて言う奴はいなかった。
そんな時ですら、内臓を食う事無く肉を食う事が出来た。
もちろん、食う国もあると聞いた事もある。
八百万 初期の段階から大量の内臓をいただき。
それこそ最初の頃などは魔道具もなく、丁寧に処理をするも一人ではかなりの大仕事だったので、商業ギルドから人員をかりて下処理をしていた程である。
もつ煮込み、初めて食べる人にも抵抗がない様に、丹念に丹念に煮られ、灰汁や臭みなんかも抜き、子供から大人まで米と一緒に食べたくなる、斗真渾身の一杯。
それこそ匂いは悪くなかった。
野菜も豊富でネギなんかも入っている。
目の前に出されて硬直しているも、周りからは美味いと雄たけびが段々聞こえて来る。
内臓が美味いだと!?でもそう言われたらなおの事確認したくなってくる。
ごくりと喉をならし、モツを一掴み口にいれるとふるふる、くにくにとして臭くはない、だが風味、独特の風味がある!なるほどこれが内臓の特有の旨味か??かなり独特だが悪くはない。
煮込まれた汁、これが美味い!もつの味わいがしつつも、こっちはさっぱりして野菜の旨味も感じる。
なるほど!汁物!こりゃ悪くない!悪くない所か、これなら俄然飯が食える!
驚きに驚き、散々嫌な顔をしたからこそ、食べて見ての肩透かし、意外と簡単に受け入れてしまった。
てっちゃん、大腸、まさに苦手としていた大本の部分、これが予想以上に美味い!筒の状態でごろっとしている内側に脂がつまっていて焼くと甘い脂が滝の様に溢れ出る。
これが味噌のタレとよく合う!!米だ!米が食いたい!あと漬物も頼む!
鉄板で表面をカリカリのパリパリになるまで脂で揚げ焼き状態にして食べると、噛むごとにザクザックとパイ生地の様に音が鳴る!そして柔らかくムチムチの内側と脂の味!ああっなんだこれ!?滅茶苦茶美味い!冗談だろ!!冗談みたいな味だ!マジで美味い!マジで美味いんだよ!!内臓が!あのクソ袋がだぞ!?なんでこんなにも美味いんだよ!嫌な臭いも風味も何もない、どこか高級感なんかも感じる。
俺は頭も舌もどうにかなっちまったかと思った。
そこに斗真の国の美味い日本酒!獺祭!これを飲むともう!!!なんだこの酒!!!美味いなんてもんじゃない!美味すぎる!あれだけ脂っこかった口周りがすっきりして、新鮮な森の中に入ったような、森にいて雨がふって木々から濃厚な山の香りが解き放たれた時の様な綺麗な香りが鼻を抜ける!
樹海の様な新鮮な空気溢れる森で深呼吸した様な清々しさ!その森の雨露を集めた様な清い水の様な飲みやすさ!それでも酒のアルコール感とコクはしっかりとしている。
おいおいおいおい!これが斗真の世界の酒!?精霊酒や妖精酒に近い幻想酒を飲んでるような気分になる。
串焼き、まずはハツ、心臓をいただく。
うん?こりこりのザックリ感、血の臭さがもっとするとおもったが、普通の肉とはまた完全にちがった味わい、なるほどこれは癖になる、それにこれは米よりも酒案件だ。
また一口獺祭を煽ると、ぬぅうおおおお!なんだ!さっきの森の抜ける感覚とは全然違う!なんだ!?ごくごく自然な甘味を感じる!果物だ!私の知らない果物がこの酒の中にはある!ふもおおおおお!花だ!花が咲いた様な風味!これは魔法か!?
レバー、焼いたと言うよりも高温の油でしゃぶしゃぶしたものらしい。
表面には火が入っているが、口に入れると濃厚にとろりとしたに纏わりつき、これも独特の味だが嫌ではないぞ!美味いな!中心部分が生なのか!なんだこの絵も知れぬ贅沢感!そして獺祭!山だ!山の清流の様に川遊びをしていた時の様な涼やかな感覚!
ゆっくり胃が熱くなりつつも、心地がいい!
ハチノス?みて直ぐにわかる。
こりこりざくざく!センマイとハチノス、この二つは味や脂と言うよりも食感を楽しむ感じか!噛むゴリゴリ感が妙に心地よく癖になる。
そしてまた酒!んおおおおおお!甘味!とろりとした酒の甘味!それでいて飲みやすく!幾度顔を変えれば気がすむのか!?仙人が飲むという濁ったどろっとした酒をどこかほうふつさせるが、それよりも全然サラサラとした感じだ。
シビレ、乳腺、リードヴォーといっていたが、うぐ!強い脂の旨味!ぷるぷるとしてふわふわとして噛み応えはちゃんとある!ほっほ~これも贅沢な味!旨味がちゃんとする!
舌、タン!これも最初はうって思ってしまった。
だが一口食うと、なんだ?ザクザクとした食感に上品な甘味の油!肉とは全然違う!なんだこの旨味!極上な美味さの一つだぞ!!肉の食感もいい!このザックリとした歯触りが肉とは思えず楽しいのと、肉ってのは失敗すればもそもそとみりみりとした歯の入りにくい硬い肉になるが、これはそういった肉とは別物の食感に脂の味だ!
頬肉!二個しか頬がない通り、希少な部分だけあってほろほろと柔らかく肉の味がまた濃い!美味い肉のお手本みたいな肉だ!
そして次にだされたのは「足」!豚足というのだとか?焼いたのと、煮込まれたのと二つ。
香ばしい焼き加減にむっちりした皮の味!美味すぎる!なんだこれは!!!??あまりの味の衝撃に一人おおげさにのけぞって戻ってくる。
もう一つは煮込まれた奴!んぶるうううううううああああああああああああ!!!なんだこれは!過去最高のとろとろぷるぷる!むっちり感!抵抗のあるむっちり感がまた美味い!憑りつかれる!病みつきになる!なんだこのぷるぷる感!舌や口、喉が快感でとろとろになって行くかの様にじゅるじゅると食べれてしまう。
いやいやいや美味すぎる!これは美味すぎる!モツ煮から始まり串焼きに色々な部位、どれもが美味かった!まさに異空間!亜空間!味のアナザーディメンション!次元の違う旨味の波!寄せては返す振り子がの様にぶれぶれる体!
そして最後の豚足!これこそが宇宙が鳴動する美味さ!口の中で広がる銀河と銀河が砕ける様!ギャラクシアンエクスプロージュン!!!
毛穴からトータス松本が出て来たと錯覚する美味さ!!!ガッツだぜ!
そして獺祭!なんだこの酒!見た目が水の如く綺麗で旨味も風味もころころ変わり、何より飲みやすく、こんなもん人間が本当に作れるのか?この領域まで酒とは昇華できるものなのか!?人間が人間を喜ばせる。
それはどこまでも気高く高貴な事なのではないか?
多くの人間はまだ内臓が美味い事を知らない、もしくは美味いと言われている事に見て見ぬふりをしているのかもしれない。
だが知らないと言う事は罪なのだ。
生きていれば、食していれば絶対にある趣味嗜好、好き嫌い、その味を受け入れられない事を嫌いと言うが、それはある意味でその食材、料理、野菜の旨味を感じとれないと言う事である。
酒を飲めないという事は、酒が繰り広げる旨味の世界を丸ごと知る事ができないと言う事だ。
多くの人間はそれでいいと、それが自分の味覚なのだからと文句を言う事はないだろう。
だが私は違う、私が食べれないものを隣で美味そうに食べられると、それが妙に羨ましく感じるのだ。
私の知らない旨味の世界を私が食べれない苦手にしているものを美味そうに食うこいつは、私よりも味の世界感が広いのかと思うと妙に羨ましく悔しくなる。
そして定期的に苦手なものにチャレンジするのだが、中々美味しく食べる事は難しい。
しかもその食べ物が中途半端に揚げたら食べられるとか、生なら食べられるとかだと、なおさら何故俺はオーソドックスの焼いただけのものは食べられないのだろうと首をかしげる事も多い。
半端に味をしっているからこそ、違う調理法で苦手としているその食べ方をチャレンジしてみようなんて思ったりしていしまう。
さて、まだまだ内臓はこの街で完全に受け入れられたとは言えない。
いつ世界が嫌いな食べ物、苦手な食べ物を食べる人間を羨ましいと思う世界観に変るか、それはいつ訪れるかわからない。
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