第117話八百万 夜の部 火竜の内臓にレバー

 八百万 夜の部 

 

 唐突だが僕はレバーが食べられない、独特の血の匂いと舌に纏わりつく感じが苦手で吐き出してしまう。 

 

 そんな僕が生レバーを食べたのは、日本で禁止される直前、焼肉屋さん両親と行き、食べれなくなってしまう前の食べ納めにいき、その時生レバーは食べた事ないだろ?と言われなんとなしに試してみた結果、これがなんと美味いのだ。 

 

 焼いた時のべったりとした食感もなく、噛めばサクサクと歯切れよく心地よくも匂いも臭くなく、薬味がまた絶妙で美味い! 

 

 焼いた時あれだけ食べれなかったものがこんなにも美味しいなんて!?とお替わりまでして沢山食べ、虜になるも日本ではもう食べる事が出来なくなってしまった。 

 

 だが生レバー諦められない人たちが世の中にはたくさんいた。 

 

 試行錯誤の末、低温調理して火を通し販売する店も出て来るも、やはり価格は昔に比べ高くとても庶民の味方の値段帯ではなくなり、また低温調理で販売してくれる店も限られる為昔の様にどこの焼き肉屋、飲み屋でもある定番メニューではなくなってしまった。 

 

 他にも馬レバー、馬は体温が高いためウィルス、寄生虫の類が死滅する為に、今現在でも馬の生レバーを刺しで提供している店は存在するも、やはり馬肉専門店など限られていて、値段もそれなりの値段がする。 

 

 他にも馬は牛では禁止されている脊髄なども食べる事が可能で馬白子の名で知られている。 

 

 やはり、今の状況が精一杯なのか?低温調理したもの、馬のレバー、価格帯が高くとも生レバーを食べる為だけにその店に訪れる、そんな状況しか残ってないのか?昔の様に安価でどこの店でも、ちょっとした飲み屋なんかでも食べられる日はもうこないのか? 

 

 僕が動画などで見て探した結果、実際に食べた事がある訳ではないのだが、牛レバーに似て非なる物であり、安価で手に入り、流通次第ではどこの店でも取り扱えそうな、そんな食材が存在する! 

 

 その食材の名は!!  そう エイ である。 

 

 そう釣り人達に外道と言われ忌み嫌われ、死ぬとサメと同様にアンモニアによる腐敗が始まり、一見あまり食用にならないのでは?とおもわれるエイ。 

 

 所がどっこい、エイの肝は食べた人間の感想によると非常に美味で馬レバーの刺しを思い出させるものであると言う人もいる。 

 

 アンモニアの腐敗が始まる前の、身はから揚げにしても非常に美味でまた刺身などもかなり好まれる味なのである。 

 

 外道として扱われ市場でも値段がつかないのなら、現代の運送技術の本新鮮な状態もしくは調理前まで生きた状態で店まで運ばれれば、これ以上にない名物の完成なのではないのだろうか? 

 

 そして様々なASMR動画などで、人が物を食べる動画を色々見て僕が思ったのは、現代の食の楽園は隣国、韓国の事を言うのかもしれない。 

 

 テっちゃん、マルチョウ、シマチョウをパリパリに焼いて脂の美味さを楽しんだり、日本では禁止されているレバーや牛の脊髄が安全に食べれたり、エイのレバーや刺身なども売っていて、骨髄なども焼いたり煮たりして食べられ、また中国の様に豚足や牛の足、しっぽなどもとろとろになるまで煮込み食す。 

 

 これらだけでも日本では食べられない物のオンパレードである。 

 

 フードロス問題など色々な問題が世の中にはあるが、今まで食べてこなかった大外の皮を食すことや美味ではないと言われてきた魚、外道扱いされてきた魚、例えるならエイの肝や刺身など、現代の調理法があるからこそ、昔から食べられてこなかった物達、見向きもしなかった部位や魚などに現代だからこそ目を向けるべくなのかもしれない。 

 

 そしてここは異世界 定食屋八百万、神の加護の本、寄生虫や食あたりなどが存在しないのが、店主八意斗真の特別なスキルの一つでもある。 

 

 斗真が調理する限り、超巨大な魔物が即死してしまう猛毒の食べ物でも安全に食べれて消化できてしまう。 

 

 そしてここは異世界、現代の様に牛、馬、豚、鳥、魚のレバーに限らず、火竜に地龍、ワイバーン等様々な魔物が存在し、そしてその数だけ内臓なども存在する。 

 

 幻想種などの超超レアな魔物、肉はもちろん内臓もレア中のレアである。 

 

 中には現代の人間が生み出したフォアグラの様なものまで自然界で存在し、人間がわざわざ無理やりにフォアグラを作るまでもなく、内臓に旨味を貯めこむ魔物も存在する。 

 

 魔物達の中には肥満になり太る魔物も存在するが、龍種の様に体系維持の為余計な脂肪を魔力に変えカロリー消費する魔物も多く、そういった魔物は大抵が内臓も肉も非常に美味だったり、日本の和牛の様に差しの脂がない赤身の肉なのに、妙に脂のこってり感を感じたりと濃厚であり、ナッツの様にクリーミーでもあり美味だったりする。 

 

 今日は火竜の内臓が提供される日である。 

 

 店が広くなったのにも関わらず、今日に限っては客で満杯であり、その状況をみても入ってくる客も多く、中には持ち帰り出来ない?なんて聞いてくる人もいるくらい多い。 

 

 内臓が豪華だと酒も名酒が出される。 

 

 今回出された名酒は、福寿 純米吟醸 兵庫県を代表する名酒でノーベル賞公式行事の提供酒でもある。 

 

 日本酒が美味い事は、八百万の夜の常連ならみんな知っている。 

 

 それでもたまにこうして名酒が振舞われると、日本酒とはどこまで?その世界観を広げるのか?もうこれ以上はないだろう、なんて思う事すらあるのに、それを軽く超えたり、また名酒達によって演劇の舞台の様に味であらわされる表現は変わり、また米から作られているからこそ、どんな肉、魚料理とも相反する事なく、大和撫子の様に寄り添う、万能なる命の水。 

 

 福寿はまさに福をもたらす、幸せの味に華のあるその味わいに春を感じつつも、六甲山の様な雄大な山々の息吹も感じる清々しさ、気持ちよくも身が清められていくその快感は何にも代えがたく、日本食と調和する。 

 

 酒とは時に料理と調和し身を潜め、時には驚くほど存在感を放ち、まさに千変万化!これが火竜の肉とも内臓ともとても合う!! 

 

 火竜のマルチョウ、薄く薄く切られた、そのひらひらと大きな一枚肉を炙る程度焼いて噛めば、どこか?野菜のニュアンスを感じながらも噛み締め溢れ出る肉の味と脂、タレでも美味いが、塩だけでも顔のパーツが中心に集中する程美味い!!! 

 

 そして今回のメインの一つ火竜のレバー、これを炙る程度焼くと、とろ~りとねっとり感もありながら血生臭い事はなく、頭の中ではてなの文字が浮かび上がる。 

 

 牛や豚のレバーは焼いた時のべとべと感と血の臭さが駄目だったのに、火竜のレバーの舌に張り付く感じは甘くとろりとしてカシューナッツのクリーミーさやピスタチオのペースト、アボガドの濃厚さにも似ていて、それらのどれよりもクリーミーで濃厚!米!とはいはないが、確実にパンなんかと一緒に食べると最高に美味いはずだ! 

 

 そこに福寿をクィっとやれば、口の中に広がっていた脂っぽさが、ささ~っと流れていき、ぽつぽつと舌の上で花々が花火の様に咲、消えてゆく。 

 

 いつも美味くて美味くて、叫び出すほど美味くて、うめぇ!!!とあっちこっちで声があがるはずの八百万。 

 

 歴戦の猛者達が、邪神や悪心など神々とすら渡り合った事のある奴らですら、若干青ざめて引くほど、美味いのである。 

 

 その美味いの一言が出ない、開いた口が塞がらないとはまさにこの事、火竜のマルチョウやレバーをコースの様に食べ進め、最後に福寿を決めると、その後の店の客の感想は笑い声でもなんでもなく、ただただ絶句して陶酔するただそれだけだった。 

 

 黙って食い、飲んでいる奴らの脳内はもうパニック状態である。 

 

 ただもう喋る暇があるなら、その分いま出されている皿の料理を食わねばならない、飲まねばならない、それらの信号が脳内に響きわたり、きっと次はいつになるか分からない事から、感想なんぞ言ってる暇、談笑なんぞしている暇があるなら、ただただ欲望のままに食え!そう体が動いている。 

 

 誰が焼いたか分からないけど、自分の中で焼けたと合図が出れば、他の奴の肉でも食う!箸が乱雑に入り乱れ剣で打ち合いでもしているかのように争い肉を掴む。 

 

 山盛りに出された内臓達が次々に焼かれ、瞬く間に消費され、どれがどこの部位なんて関係ない、確認する前にとりあえず食う!そして福寿で洗い流す。 

 

 ただこれだけのなのに、王族でも食べれない超高級のコース料理を思うがまま貪っているかのような、満足感と解放感、快感の波が押し寄せる。 

 

 食欲ある者ならこの快感の波には抗えず、ただ只管にそして段々と乱暴に、争う様に、競い合う様に食べ進める、貪り始める。 

 

 店を壊さない程度に放たれる小魔法での牽制や小細工の妨害、フェイントで飛んでくる拳、静かにそして激しさをましながら肉の取り合いが激化していく。 

 

 最後のレバーが中を舞う、無数の箸がそのレバー目掛けて伸び進み。 

 

 最終的には勝者の箸に挟まり、一瞬のうちに口に運ばれると、やっとの事静かだった店に声が鳴り響く。 

 

 「「「「「「「あああああああああああああああああああああああ!!!!」」」」」」 

 

 その叫び声のあとに続く、各々の呪いの言葉、「最後の一切れが!」「俺まだそれ食ってない!」「私が焼いたのに!」「お前多く食いすぎだぞ!」「殺す!」 

 

 まだまだ飛んでくる無数の恨めしい声なんてどこ吹く風、で最後のレバーを咀嚼して飲み込み、酒を飲み、にっこり。  

 

 「うみゃい!!!」 

 

 その一言が響き、また八百万にいつもの喧騒が戻ってきたのだった。

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