第116話八百万 夜の部 豚足

 現代の動画、大食いからASMRやお店の紹介、料理の紹介、チャレンジ料理、素人の簡単料理、外来生物などを率先的に食べる野食や害獣を駆除して食べるなど様々な食事に関する動画が存在する。 

 

 ここで浮き彫りになったのが、よその国ではどんな料理が好まれ、食べられているか。 

 

 以前に日本料理は、煮込み料理が弱いと言ったが、海外で何気なく料理を食べる動画で見られるのは、肉を驚くほど軟らかく煮る事である。 

 

 以前も言った様に海外では皮つきのお肉が簡単に手に入る。 

 

 まずは毛をバーナーで炙り黒く焦げが出来る程炙り、冷水中でたわしでごしごしと焦げを落とし、一度じっくり煮る。 

 

 ここまでが下ごしらえで次からが調理工程になる。 

 

 一度焼いたりした事で香りが出た野菜たちとは別に、調味料を投入してスープを準備すれば、後は様々なスパイスが煮られたスープに肉を静め煮るだけの一見簡単な料理なのだが、日本にはまず丸焼きや肉をそのまま煮るといった文化がない。 

 

 あるとしても細かく切った肉やつみれ状にした肉、ホルモン、魚の煮つけなどが主で、動物の手足を処理してそのまま煮て食べる又は頭を煮て食べるなどの行為がほとんどない。 

 

 中国、韓国ではあたりまえに外皮つきの豚すね肉や牛の足の輪切り、豚や牛のしっぽ、鳥の足などが売られていて、十分に煮込まれ売られている。 

 

 脅威なのはその煮込み具合だ。 

 

 動画の主は当たり前の様に食べているが、その肉を何気なく持ち上げた瞬間にズルリと熟した桃の皮の様に骨と肉が離れる姿は、脳内に一体どれほど柔らかいのか?と疑問に思わせ、そして噛むまでもなく、じゅるりとまるで麺でも食べるかの様に飲み込まれる柔らかい肉と脂、コラーゲンでぷるぷるもちもちの皮は思わず喉を鳴らし、くぎ付けにする程私の脳内を支配した。 

 

 日本で唯一似た、そんな遠からずも近いものを食べたいと言うのなら、あげられる料理は一つ、豚足である。 

 

 八百万 夜の部 

 

 内臓料理がメインの酒場といってもいい、冒険者達の夜のたまり場。 

 

 店主の斗真は最近、あれでもない、これでもないと魔物の手足を煮込んでいる。 

 

 動画?というもので見た料理の再現がしたいらしいのだが、煮込みが足りないのか?スパイスがあってないのか?納得のいく煮込みが出来なくて只管魔物の手足を煮込んでいる。 

 

 それはいいのだが、そんなもんを見せられているとこっちとしても、その煮込みが気になってくるのが人ってなもんで。 

 

 珍しくシーっんと静まり返った八百万で、斗真がコトコト煮ている鍋とにらめっこしているのを大勢の冒険者が出されたつまみと酒片手に無言で見つめていると不思議な空間が出来上がっていた。 

 

 てな訳でまずはエールから、日本ってのはとんでもない国でエールにまで種類がある。 

 

 地ビールっていうらしいが、これまた種類が半端ない!エールにそんなに種類?味の違いがあるのか?って最初こそみんなが疑ったもんさ、でもあるんだなぁ味の違いが、エール、ラガーくらいなら大体わかるが、そこにビルスナーやペールエール、フルーツビールなどまあとにかく種類がある、そうなってくると今度は街や村ごとに作るビールやエールの味が違うんだわ。 

 

 確かにこっちの世界でも街ごとにエールの美味い不味いはある。 

 

 とにかくこっちの世界より、より細かくわけられたエールやらラガーを売っているのが八百万ってなわけだ。 

 

 俺のお気に入りは独歩ビール、マスカットビルス!こいつがうめぇ!香りもいい!のど越しもいい!快感もありつつ、どこかワインの様な上品さや華やかさもあり、とにかく気持ちが良くなっちまう!ぐっぐっぐっと飲んで息が切れちまうほど飲み込み、ハァハァハァと息継ぎしながら美味い!!!って叫びたくなる。 

 

 酒からだけじゃなく、脳からも快楽物質が出てるのがわかる。 

 

 この味!こののど越し!この快感!そんしてはぁ~!と息を吐いた時の気持ちよさ!まさにたまらねぇって感じだ。 

 

 それにしても、この匂い・・・・・斗真の旦那は魔物の手足を煮込んでるっていってたけど、何をそんなに夢中になってるんだ?煮るって茹でたお湯で煮るあれだろ?「魔物、動物の手足を煮込んでいる」何、言葉にすりゃ簡単に聞こえる。 

 

 でも?そうでもだ、家系や鳥ラーメンの時みたいな、野性味のある強烈な豚臭さや鳥の濃厚そうな、いかにも美味そうって感じの匂いとは違って、シチュー・・・・そうシチューを煮込んでいる様な色んな匂い、いい匂いがとにかくすんだよ! 

 

 声かけたいが、珍しく旦那が頭ひねって料理してると、こっちもなにしてるんだい?なんて気軽に声かけれねぇ、でもそれも時間の問題だ。 

 

 開店直後からいる奴らは、もうそろそろ我慢できずに斗真の旦那に何をそんなに難しそうな顔で作ってんのか聞くはずだ。 

 

 そうすると、出て来るわ出て来るわ!豚!牛!羊に?山羊か?すね肉、もも肉の斗真の旦那が納得いかなかった煮込み肉が、「格安だよ~」と運ばれてくる。 

 

 それを我先に、俺にも!こっちにも!こっちにも多めにくれ!なんて鳥のヒナになったみたいに口パクパクさせて求めるんだ。 

 

 俺の所にもきた!ぶるんぶるんに煮込まれてる豚のすね肉!もも肉も!味噌ダレと醬油ダレと薬味がかかって、こいつは美味そうじゃねぇか! 

 

 足先なんか素手で持っちまってさ、がぶりと大口で噛みつくともう!口の中でブルンブルン!!のバインバイン!!!にムチムチと跳ね返りまくってさ!湯の温度ではとけなかったのか脂とゼラチンが口の中で、タレと混ざり大戦争!皮のむっちりと脂のとろとろ、肉のしっかり繊維がバチバチの大抗争繰り広げて、存在感をだしながらも圧倒今に喉の奥にごくんっと消えていく!んぁ?飲み物か?飲み物だったのか!?口の中での滞在時間短すぎる!!あっという間に消える様に流れていっちまった。 

 

 なんじゃい!これ!うますぎじゃろがい!これで納得いかないってどうなってんねん!おかしくなってしもうたんか!? 

 

 焼いた骨付き肉とは別も別!じゅるじゅるとろんとろんのオンパレード!そこに濃いタレとあっしもいるぜ!と薬味の絶妙さが口に残る! 

 

 手足煮ただけ?二度と!二度と!!煮ただけ!なんて言うな!俺らが普通にいわれるがまま煮ても、こんな料理にはならねぇよ!煮ただけ、そんな吐き捨てる様に「煮ただけ」なんて切り捨てていい料理じゃねぇ!見ろ!見ろ!見ろ!どいつもこいつも幸せそうな顔で肉にかぶりつき!あまりの美味さにため息吐きながら酒を飲む! 

 

 んひゃぁ~!このむっちりした感じが舌でとろける脂とタレ!絶妙とはこの事を言う!骨にむしゃぶりつくのがまたいいんだよ!この肉を食ってる感じ!贅沢だぜこれは! 

 

 この野生って感じを感じながらも人間の料理の技術力を感じる、矛盾した肉を口いっぱいに食った後に、果物の香り薫エールを飲む!俺は八百万がこの世の桃源郷だって言われたって驚かないね!日本酒!焼酎!火酒に近い泡盛!他にもブランデー!ウィスキー!ワイン!リキュール!酒飲みには本当に桃源郷だが、飯食いにも桃源郷なんだよな。 

 

 夜の部は比較的に美味いもんがなんでも出るが、昼に出せないもんを積極的にだす兆候がある。 

 

 ここで一つの問題にぶち当たる。 

 

 次回もこの豚足?牛足?なんでもいい!このとろける肉をだしてくれるか?って所と、斗真の旦那が納得のいく本気レベルの足肉を煮た料理はどんだけうまいんだ!?って話だ。 

 

 いま出されてるこれは、納得は完全にいかないまでもまぁお客さんに出しても問題ないだろ?くらいのレベルだろ?これが完成して、よっしゃお客さんに出しても良し!って太鼓判押されるレベルのもんが出た日には、取り合いはもちろん戦争になりそうだな。 

 

 全員分用意してくれればいいんだが、あまりにも美味すぎると、理性があっても隣の皿から分捕っちまうのが冒険者の野生だからなぁ。  

 

 俺はまた肉にかぶりつき、笑顔で酒を掻っ込む。

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