第115話八百万 夜の部 シロコロホルモン
八百万 夜の部
八百万 夜の部は魔物の内臓を出す事で有名、鉄板の上で内臓類を焼いてタレで味付けしたものや、串焼きから刺身まで幅広く、八百万で仕入れる魔物によって内臓も超高級で薬師や錬金術師が秘薬を調合するのに大金を払う部分なども、料理として提供される。
それでいて値段は安価なのだから、高級な魔物の内臓が出た日なんかは、まさに笑いが止まらない程美味い内臓にありつける。
クセの強い内臓、旨味の強い内臓を食らって、透明で米で作られた酒、日本酒でグぃっと喉に流し込むと喉から自然とくぁああああっと声が漏れ出る。
斗真の旦那の世界、日本でしか手に入らない日本酒、旦那曰く安いものから高いものまでさまざまな種類があるというのだが、振る舞い酒の様に出される最初の安い酒、これがまず美味い!あっちの世界ではこれが一般的、普通に飲まれる酒と聞いて驚きが隠せない。
酒といったら濁ってるもんだと思っていたし、色々と不純物というか酒かすみたいなもんが混ざってるもんだ。
昔から水が悪い土地なんかでは、変わりに酒を飲む、大人も子供も飯も貧相だから酒から得られる栄養が生命線だったりしてな、酒を薄める事で罪に問われた人間もいたくらいだ。
その酒がこんなに飲みやすくてまさに甘露って奴だ。
安酒でこんなに美味いなら高い酒なんてどんな味がするんだ?なんて思ったもんだ。
今日は内臓のいいのを出すから、酒もちょっとお高めのお酒を出すなんて言われた日には、みんな大興奮で料理と酒が出て来るのを待つんだ。
てっちゃんって内臓の言わば「あれ」がつまっていた腸が筒のまんま、ある程度の長さを保ったままもってこられる。
おいおい、もうちょっと一口大に切るとかなんかしなくていいのか?と思いながらも客席前の鉄板でそいつを焼いていく。
綺麗に洗って下処理もしたからといっても、腹にこれがそのまま入っていたと思うとちょっと抵抗がある。
焼かれて脂が溢れ出る。
炭と違って鉄板の上だから出た脂で焼いているのか揚がっているのか?って感じで皮がザクザクの状態になるまで辛抱強く焼くわけだ。
そろそろ焼けたかなって時に、醬油ベースの焼肉タレ、辛みそベースのタレ、お好みのタレにつけて食べる。
さっとつけて小葱なんかもちらして、パクっとやると、うん?ざっくりさくさくと簡単に千切れた。
もっとむちむちで素手なんか使って噛みちぎらなけりゃいけない程弾力あるかと思ったが、からりと揚がった為か簡単に千切れた。
噛むと冗談だろ?ってくらいの脂が飛び出て来る!油断してると口から汁が飛び出るくらいだ!
筒状の中には、内臓脂がみっちりはいっていたのか甘くとろける脂と焼肉のタレがまざりあって甘く美味い!外側はパイ生地みたいにパリパリの脂はぶしゃあ!と飛び出るほどだ!
八百万に慣れ親しんだ人間なら思わずここで米を口に掻っ込みたくなる事だろう。
米もいいが今は酒だな!八百万の名酒と言えば、獺祭、久保田、上善如水、青蘭、八海山、安い所なら鬼ころしなどだな、たまに氷結酒の銀河鉄道をだしてくれるがあれも美味い!。
安からろう悪かろうなんて、安いもんは往々にして品質や味が悪い事で有名だが、斗真の旦那の日本酒にはその言葉は当てはまらない、むしろ安かろう美味かろう!と堂々と言える酒たちが斗真の旦那の国には勢ぞろいしているからだ。
今日の酒は亀泉、なんでも高知とかいう所の酒なのだとか?いつもなら地名なんて言われても覚えない俺らも、酒の産地と言われるとついつい覚えちまう。
この酒がなんと銀貨一枚と銅貨8枚で大瓶一本買えるってんだから、とんでもねぇ世界だ。
こっちじゃ濁ったエールをコップ一杯で銅貨5枚、あっちの世界じゃコップ4杯分で大瓶一本!しかも美味いときたもんだ!こりゃたまんないぜ。
安いうえに美味い!これでこの酒を造ってる人たちが食えていけてるのか不安になる程、安くて美味い!度数も丁度いい、これくらいなら子供にも飲ませれるな。
俺達にとって斗真の旦那の世界は異世界だ、そんな異世界の酒だから強さもどんなもんかと思って飲んでみれば、確かにガツンとくる酒の強さではないが、豊かで味に花がある、腰をすえてグぃっと飲むのにいい酒だ。
そんなに強くないから大瓶一本飲み終えれば、丁度良く気持ちよく酔っぱらうぐらいの感じだな。
てっちゃん、シロコロホルモンの筒の長い状態奴にまたタレを付けて、ザクザクザクっと頂くと、脂がびゃびゃっと溢れ出る!タレと脂が絡まり濃厚な味をごくんと飲みこみ、そんでもってそこに酒をぐぃっと飲むと・・・・・はぁうめぇ・・・・こんな世界もある、安くて美味い、こんな極上な世界もある。
決して貴族や王族なんかには出さない内臓、下町で、八百万でしか食べれない、このまさに街の飲み屋でございって場所でしか食べれない特別な味、そして酒。
こんなに美味いもんが売っているのに昼の部だけで、夜の部はまだ勇気がでないと一歩引いてる奴らを思い出して笑みがこぼれる。
周りをみえれば、Sランクはもちろんどいつもこいつも凶悪な異名をもつ曲者ぞろいから、街で有名なかわいい冒険者、いけすかねぇ顔のいい評判の冒険者、情報屋に料理人、がんこな鍛冶屋に一座の芸人、騎士団の団長、星座団の奴らなど、ちょっと前まではそりのその字も合わない、くそったれ共が、今じゃ斗真の旦那の料理の前で笑いながら談笑して酒を飲む、口を開けばあれがうめぇ、これがうめぇ、今度はあれを狩ってこよう、とってこよう。
そんな話で溢れかえり、いつも殴り合って顔に青あざ作ってたやつらが、肩組んで酒を飲み、気が乗れば歌が流れ、踊り子でもねえのに踊りはしゃぎ、また笑う。
ここはウェールズで一番の定食屋であり、飲み屋であり、危険地帯であり、高貴も薄汚れてるのも上も下も関係なく入り乱れる。
街の外れの下町代表みたいな飯屋、それが八百万だ。
酒もほどほどに大風呂で汗をながして、また戻ってくる奴、強い酒を飲んで八百万安宿別館で酔い寝潰れる奴、広くなった座敷の隅で寝こけてる奴、色んな奴らがいる。
更に不思議なのは、酒っての二日酔いが付いて回るもんだ。
確かに八百万でも無茶すれば酷い二日酔いなる事もある。
でも他の店とはやっぱりちがうんだなぁ、気持ち悪くなって吐いたら、体に溜まった悪い気やなんかも一緒に吐き出してるのか?ってくらいなぜか清々しいほどすっきりしたり、体調がよくなったり、怪我が綺麗に治ってたり、古傷がきえたり、慢性的な腰の痛みがなくなったり、アル中のじじぃも震えがとまってしゃっきりして仕事を始めたなんて話もある。
斗真の旦那のことだから、きっと何かあるんだろうなぁ~とか思いつつも、だぁ~れも何も言わない、この間なんて不治の病の貴族の嬢ちゃんファウスト家のお嬢ちゃんが八百万で食事してから完全回復したなんて話も出たが、なぁ~に俺達は何もしらねぇ、きっと奇跡が起きたんだろうな、なんて、病人が何人かきて元気になって帰っていった事もあったが、八百万じゃそんなもん日常みてぇなもんだ。
こんなんでいちいち驚いてたら、ウェールズの人間なんてやってられねぇわけよ!!
そんな訳で何が言いたいかっていうとな?この長めのパリパリシロコロホルモン、そしてその中から溢れる脂の美味さ、それを知らない奴らは、ああなんて可哀そうなやつらなんだろうって話さ。
男は笑って酒を飲み、料理に舌鼓を打つ。
ここは八百万、異世界と現代日本がつながった。
素人料理人、八意斗真が営む定食屋、異世界定食屋の八百万でございます。
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