第118話八百万 夜の部 メニュー事情にべじ郎

 八百万 夜の部 

 

 ここ最近は夜の部の話が続いてるが、まぁなんて事はない、この世界では使われない内臓を一手に引き受けて調理し、またマジックバックに大量に保存しているのが八百万だけだという事だ。 

 

 夜に出されるメニューはもつを煮込んだ、モツ煮、醬油ベースの物と味噌ベースの物があり、こんにゃくとネギがちらされて、このスープだけでも美味い!八百万に通いなれた俺達は安く済ませるなら、モツ煮と米だけでも腹いっぱいくえる。 

 

 色々な内臓の串物もあれば、鉄板で直接焼いてくれる物もある。 

 

 んでもって八百万といったら!刺身だ!。 

 

 レバ刺し、ハツ刺し、センマイ刺し、たたき、ユッケ、霜降り、赤身。 

 

 ユッケなんか生の卵の黄身とタレを和えて食べるんだぜ、卵は高価だ、でもそれだけじゃなく生でなんてどろどろで気持ち悪いって言う人間もいるし、高確率で腹を壊すし、そもそも生の卵なんて飲む位しか思いつかないだろ? 

 

 その生の卵の黄身、これを肉に和えるわけだが、食ってみるとまずこれが美味い!まろやかでクリーミーで濃厚で!気持ち悪いのはどうした!?と思わせる程問題なく、美味い! 

 

 なるほど、じゅるじゅるして苦手なのは白身の方だったんだなと気づき、醬油やタレなんかと卵の黄身は混ぜれば濃厚で美味いんだと言う事を知った。 

 

 レバ刺しは前回も言った通り、取り合いになる程美味かった。 

 

 しかも極上の火竜のレバー!錬金術や薬作りでは最高級の素材、食えば寿命が延びるなんで言われたり、傷が直ちに治るなんて言われるいわば霊薬に位置する存在、焼くまでもなく極上に美味かった!歯ざわり舌ざわり、滑らかで濃厚で!ねっとりした旨味の爆弾が口に広がって、薬味やタレなんかと喧嘩せずむしろパワーアップする旨味! 

 

 思い出しただけで震える。 

 

 他にもシマチョウとマルチョウの筒焼き!噛んだ瞬間周囲にどんな食感か音で伝えるサックサクのパリパリ感、溢れ出る脂は甘くサラサラで醬油や味噌タレとの相性は抜群!これと酒だけで只管腹いっぱいにしたいと思わせる一品だ。 

 

 魚の刺身もちらほら出る。 

 

 ヴァサゴの姿揚げ、骨ごとバリバリ食えて酒の肴に間違いなく合う。 

 

 昼の定食で出た、味噌煮、とろサバの味噌煮なんかも夜だと普通に出る。 

 

 これはもう米案件だ、とろっとろのハラミの脂乗った所が濃い甘い味噌と絡む、ここに米をがっつくわけだ。 

 

 んぐんぐと喉を通る米とサバの美味さ!贅沢なもんだ。 

 

 肉ばかりの話になっているが、野菜がメインの日もある。 

 

 斗真の旦那が言うには、異世界のつまり俺達の世界だな、俺達の世界の野菜は美味い野菜が多いと言う。 

 

 そういわれてもなぁ、ってなもんでみんなあまり興味がない感じだった。 

 

 王玉タマネギ、俺達の世界では当たり前の玉ねぎだが、普通の物より美味いのは確かだ。 

 

 その王玉タマネギを薄くスライスして、オリーブオイルもしくはごま油と醬油を垂らす、日本酒とみりんを少々たしてもいい。 

 

 そのまま混ぜて、サラダとして出される。 

 

 タマネギだけ!?なめてんのか!?とおもいつつも、一口、しゃくしゃくの玉ねぎほんのり甘く辛みもじんわりで油と醬油でいい味になってやがる!?こんな簡単でいいのか?美味い!美味いんだけど!声に出したくない!こんな簡単にいかにもササっと作りましたって料理に声をあげて美味い!なんて言ってみろ!普段俺達は何くってたんだ?なんて思われるぞ!でも簡単なこんな物がエールとも日本酒とも滅茶苦茶あって美味い!悔しいが美味い! 

 

 厚めに輪切りにした王玉タマネギをただ鉄板の上で焼く。 

 

 火が通っていくと薄く透明になっていく玉ねぎ、そのに八百万特製の焼肉のタレをじゅわっとかける。 

 

 しゃくしゃくの玉ねぎ、あまさが飛び出る!?なんでただ焼いただけでこんなにも美味い!?タレと絡まって玉ねぎ甘味、味とタレが混ざって口いっぱいに広がる。 

 

 駄目だ!もう我慢できないっと白飯を口いっぱいに頬張るともう色んな味で濃い口になった口の中に受け止める米と言う軍隊が入ってくる。 

 

 米!米自体だってほんのり甘くてほくほくで美味い事はわかってる。 

 

 でも濃い味のおかずと一緒に食うと、ただ白飯食うよりも何倍も何十倍も美味いんだ! 

 

 塩と米だけでも滅茶苦茶美味いのはもちろん、味噌、醬油、この二つとの味の相性が抜群すぎる!なんじゃこいつら!?どんな経緯で生まれて来たんじゃ!?神の気まぐれも流石に都合が良すぎだろ!運命?運命なのか!?米と言う作物に愛される為に在るかのような塩、味噌、醬油、そして米から作られて酒は、肉にも魚にも寄り添い決して邪魔せず、また魚介類特有の生臭さを時には生かし、時には洗い流す。 

 

 米、あまりにも都合が良すぎる食べ物、そして酒の原料。 

 

 米とは穀物だが、欧米では野菜として位置づけられる。 

 

 主には主食としてではなく付け合わせ、ガルニチュールとして扱われる。 

 

 夜の部では頻繁に野菜炒めが出されるのだが、俺達の世界では野菜を炒めただけのものに金なんか払う奴はいない、サラダならわからんでもないが。 

 

 でも八百万、夜の部では当たり前の様に野菜炒めが注文で飛んでくる。 

 

 ノーマルのものから、辛めの物、脂少な目、多め、鬼油なんてものもある。 

 

 斗真の旦那が言うには、べじ郎とか?二郎とかいうのが元祖なのだとか? 

 

 王玉タマネギに月光人参、サファイアピーマン、白雪キャベツがメインなんだが、言えばなんの野菜の炒めでもやってくれるし、具材持ち込みなら銅貨5枚で米に味噌汁に漬物までつけてくれる。 

 

 最初の頃は普通の野菜炒めが人気だった。 

 

 野菜の味が感じられて、なんでだ?いつも食ってるはずなのに?知ってる味のはずなのに?これがどうしようもなく美味く、あれ?野菜ってこんなに美味かったか?なんだよまるでご馳走みたいな美味さなんだけど?なんて驚いてさ、次に人気になったのはやっぱり肉入りの野菜炒めだった。 

 

 なんだかんだで、やっぱりみんな肉が好き、結局は肉入り野菜炒めが流行った。 

 

 それで終わるかと思ったんだ。 

 

 所が次には肉の変わりに油揚げ、豆腐?大豆?豆でつくったあれをなんか色々やって作った奴、油揚げの野菜炒めが流行った。 

 

 俺達は肉!魚!そしてちょっと野菜、果物、って感じの食生活から、いつの間にか肉も魚も野菜もバランスよく食う生活になった。 

 

 だが、考えてみるとそれも八百万が出来たからであり、前まではどこの店にいっても野菜はサラダくらいの選択肢くらいしかなたっか。 

 

 要はあれだ、自分で選べる幅が広がったんだな。 

 

 今めちゃめちゃ人気があるのは、野菜炒めに背油が散らされてる野菜炒め!これが人気だ。 

 

 昼の部よりも先に夜の部で出されるなんてのは結構珍しい事で、またこの脂がうめぇ! 

 

 中には鬼油の上、脂かたまりで!なんて猛者もいて、野菜炒めの上に布団か座布団か?ってはんぺんみたいな脂の塊がごろんとそのまま乗ってるのを食ってる奴もいる。 

 

 中には脂が苦手で気持ち悪いって奴も、一定数はいるんだ。 

 

 ところが斗真の旦那の脂身は、なんでかわからんが気持ち悪いって感覚にならずに寧ろ美味さと快感を引き出すような食感だったり味だったりする。 

 

 どんな魔法を使ってるのかわからないが、苦手とか太るとか嫌ってたやつが、一口食って、え!?いいじゃんこれ!?はまっちゃうかも?なんて言うくらいだ。  

 

 てなわけで、こんな感じのメニューが今の夜の部のメニューだったり、野菜事情だったりする。 

 

 最近じゃあ、斗真の旦那がリンネちゃんやねねちゃんをおんぶに抱っこしながら、店の常連もわかっててゆっくり料理がくるのを待つ。 

 

 近所の赤ん坊抱えた夫婦なんかも食べに来たりして、リリちゃんやねねちゃんがリンネちゃんと一緒に面倒見てくれるもんだから、子供づれの夫婦の方々は足伸ばしにどうぞなんてもんで、赤ん坊抱えた夫婦が多い。 

 

 しかも自分達で料理作るより、八百万で飯食った方が安いなら、自炊するって奴や節約して自分達で飯作るって奴は減るわな。 

 

 宿も温泉も遊技場も家族割や無料で楽しめるものもある。 

 

 八百万は店主の旦那もそうだが、周りの客も大らかで、なんだかああ街、都市全体で共同生活してるんだな、なんて思わせてくれるそんな店だ。

 

 

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