第98話大寒波と痛風鍋

 ここは八百万 

 

 異世界の食材、未知の食材を地球の現代の調理法で調理し、格安または採算度外視でお客様に提供する無茶苦茶な定食屋。 

 

 ウェールズと言う異世界の大都市の端に店を構えていたが、異世界人八意斗真の拡張魔法により、城壁を外に追い出し、広い宿の空間、アスレチック広場、元々ある庭園、モンスターレース場や大型魔物の解体場、放牧に予備スペースなどを確保した、とんでもない定食屋である。 

 

 斗真の能力により街の区画整理、道の計算された広さ、雑多に追加で建てられた建物も都市全体を整理し、更には余裕をもって未開発区画を確保するなど他の街に比べかなり整っている大都市である。 

 

 そんなウェールズを襲ったのは、恐ろしい程の寒さ、大寒波である。 

 

 寒い寒いといってもウェールズで雪が積もる事は稀も稀、それこそあたり一面雪景色なんて、他の街のレアなダンジョンでしか見た事がない程、雪とは無縁だった国。 

 

 そんな街に深々と降る大粒の雪、時には風にあおられ吹雪となり街の住人は足止めを食らう事、仕事が休みになるなど暇を持て余す事になる。 

 

 こうなってくると朝から家にいるか?宿にいるか?職場まで出て帰れずにいるか?なんとか帰って家で過ごすかの選択しになってくるのだが、どこにいようとも腹は減る。 

 

 ここぞとばかりに八百万に飛び込む客は多く、これを機に定食屋 八百万もいつもの客数以上お客様を非難させることが出来る様に店を少し拡張して席を確保。 

 

 避難してくるお客様の居場所を確保したのである。 

 

 そうしてこんな時だからこそ、悲観せずむしろ雪を楽しみたいと、今日は昼から酒を解禁そして提供されるのは鍋。 

 

 グラナダの大粒でぶりんぶりんのカキ、八百万特製のアングラーの肝を使ったアンキモ、白雪タラの白子を使った鍋に生カキ、焼きカキ、カキフライ、カキのグラタンに色々な魚のかぶと焼きに煮つけ、エラや胃の煮つけやポン酢和え、血合いや心臓、肝臓の煮つけ、鯛系の魚の皮をパリパリに揚げたものなどが豪華に並ぶ。 

 

 ニーア 

 

 「大寒波っつってもさ、ここって宿ともつながってるから実質要塞みたいなもんだよな、家の中はあったかいしさ!しかも昼から酒飲めるなんて!久しぶりだな!今更他の店で酒なんて飲めないし、むしろラッキーだな!」 

 

 クリスタ 

 

 「そういってグデグデになるまで飲まないでよ?でもこの鍋も魚の煮つけも日本酒にあうのよねぇ~、しかもこの魚の内臓の煮つけ!すっごく美味しいわ!色んな魚の出汁が出てる感じ!これでご飯もあるんだから、閉じこもるにはぴったりよね」 

 

 ルーカス 

 

 「それにしても、本当に魚の内臓を調理するとはなぁ、しかも味も悪くない所かうめぇ!酒にも合う!どれも臭みなく綺麗に処理してやがる!魚の内臓料理なんて味わえるのは世界広しといえど、ここだけだぞ多分」 

 

 フィガロ 

 

 「肉の内臓が安全に食えるのもここだけだぞ、他の店も真似しようとしたけど不十分の下処理で美味くなかったり匂いが酷かったりとかあったからな、斗真にいわれてギムレッドが解毒の魔道具用意してなきゃ酷い目にあってたかもしれない客も多いと言う。斗真が神の加護もちって事も終始徹底して噂を流して斗真だからこそ美味く安全に食えるって街の人間にはしっかり伝えたからなぁ、いまでこそ魔道具で除菌や寄生虫の除去など可能になったが、八百万に味で勝てないって挑戦する店が減っちまってなぁ」 

 

 ギムレッド 

 

 「安全に食べれる様に魔道具が設計されたのに、魔道具が発売される前の方が内臓料理の挑戦者が多かったってのも皮肉な話ですよね。まぁ魔道具もそれなりの値段しますし、内臓を仕入れようにも、ルーカスさんとフィガロさんの所の内臓は八百万が独占してますしね」 

 

 フィガロ

 

 「嫌、俺んところもルーカスの所も今じゃ内臓に値段付けて売ってるぞ、下処理も学んだし除菌の魔道具も譲ってもらったかなら、料理店より個人や主婦の方が今じゃ内臓買っていく奴らが多い、うちの店の内臓も安全に食えるようになったからな。斗真の店に渡してるのは魔物の頭くらいのもんだ。手足も美味いとしっかり勉強したからな」 

 

 ルーカス

 

 「うちは白子や卵、肝なんかは下処理して除菌して売る様になったが、血合いやエラ、心臓に胃なんかは買ってく奴もいないから殆どが斗真の所行きだな。内臓も処理しないで丸ごと引き渡すか、捌いて頭、血合い、胃、心臓、種類によっては卵や肝なんかもそのまま斗真の店に渡してる。それにしてもこんなに美味くなるとはなぁ」 

 

 外の窓を眺めると、世界は一面真っ白な世界、雪が降り積もっていく。 

 

 極寒の外の世界を眺めながら、暖かな店で鍋をつつき、酒をのむ、眠くなったら座敷になっている所で寝転がるか、いっそ宿の方の部屋をかりてもいい、なんなら上階にある景色のいい風呂に入りながら酒を楽しみ、部屋を借りるのもありだ。 

 

 下手に家にいるよりも断然に暖かい八百万、その安全圏から猛威を振るう外を優雅に眺める、戯れにちょっと風にあたるのもいい。 

 

 寒い寒いといい店に戻ってまた一杯やるのだ。 

 

 「どいつもこいつも腹が減ってはなんとやら、考える事はみんな一緒か」 

 

 「嫌、今日はいつもより店も広いし、客も多い、大方宿にこもっても布団でもかぶってなきゃ寒さを凌げない連中が逃げて来たんだろ」 

 

 「安宿は隙間風もつらいからなぁ」 

 

 「それにしても斗真の旦那も流石!わかってるね!この寒さに鍋なんてさ!しかもカキに肝に白子!これってあれだろ?グラナダのねぇさんが自慢してたやつだろ!」 

 

 「そうそう!うめぇのなんの!でもスープまで飲み切っちゃ駄目なんだぜ!米か麺かうどんか〆って奴があるらしい!」 

 

 「野菜もうめぇし、魚の内臓の煮つけ!こいつがまたうめぇ!胃のポン酢和えとかもこりこりでうめぇ!そこに日本酒をっと!かぁあああ最高!」 

 

 「まだ心臓や胃、肝なんかは食えるってのもわかるさ、何せ肉の方でもモツで食ってるわけだからよ、でもよぉ、まさかエラや浮袋なんかまで食えると思うか?考えるか?」 

 

 「ちょっとまえなら考えられないねぇ、肝は海辺の町では食う奴もいるって聞くけどよぉ、どの魚の肝が食えてどの魚の肝が食えないのかなんかわからねぇもんよ」 

 

 「ああ、魚の肝は食えるって何でも食ってた海辺の漁師が毒肝食って死んだなんて話もあるくらいだしな」 

 

 「身は大丈夫でも内臓は毒で食えないなんて話結構聞くもんな?斗真の旦那は加護もちだから気にしなくてもいいかもしれんが」 

 

 「よくよく考えりゃあ、毒を無効化して腹痛の元や、なんなら魚の小骨まで除去するってとんでもねぇ話じゃねぇか?」 

 

 「わかってないだけで他にも神の加護があるんじゃないかって話だぜ?確かに八百万に通ってる奴らで病気になったって話聞かないし、むしろ肩こりや腰回りや弱った骨や関節痛なんかがなくなって、元気になった!なんて話の方が多いな、特に爺さん婆さんたちから」 

 

 「バフ効果があるってのは実証さえたんだっけか?八百万で飯食う様になってからのランクアップや狩りの安定、稼ぎの安定なんて話も結構聞くしな」 

 

 「うめぇだけじゃなくバフ効果まであったら、この店やべぇな、でも二日酔いの奴なんかはいたりするから、どんなもんだろうな?」 

 

 「ああ、風邪ひいたーなんて話も聞くし、実際どうなんだろうな??」 

 

 「一時期病人や怪我人が押し寄せた事もあったな」 

 

 「あ~!あった!斗真の旦那の飯食って病気や怪我が治った話!」 

 

 「おい!その話はやめとけ!国のお偉方や色んな所でその話は止めてんだよ。考えてもみろ、飯食って四肢の欠損が治ったなんて話でまわったら、他国がなんていうか」 

 

 「戦争が起きるな・・・」 

 

 「それにどっかの遠い国にも神の、食の使徒とか言う、料理で人を治しちまうどえらい聖人様がいるとか」 

 

 「他国の事はしらねぇけど、斗真の旦那の能力について完全に知ってるのは王家やニーアさんくらいじゃないか?斗真の旦那自身把握しきれてないって話聞いた事もあったしな」 

 

 「深く触れてはいけない事もある・・・・」 

 

 

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