第95話様々な魔物のタンの盛り合わせ定食

 八百万 

 

 八百万には様々な魔物の食材がアーサー公爵様や王家から届けられるのはもちろん、この間のオグレスの様に冒険者さんや漁港のある街から海産物の支援もあったりと、毎日食材が大量に送られてくる。 

 

 初めの頃はそうんな事もなかったのだが、いつの間にか常連さんの間で獲物をもってくると調理してくれるって話が膨らんで、冒険者さんから食材が送られる様になり、この国に長く根付いてほしいとの王家とアーサーさんの願いから、毎月の食材の提供が始まり、グラナダ領や漁港の街で生魚を扱えるようにとアイテムボックスに異物除去や毒除去、細菌の除去などの神の加護をかけたら、偶然まさかの成功して、それ以来感謝のしるしに海のある街から網にかかったけどお金にならない様な、未利用魚を率先的にもらいつつ他にも新鮮な魚貝が届けられたりと良好な関係を築いている。 

 

 ほとんどタダ同然で手に入る食材を他の店に邪魔にならない程度の格安値段で売るのが八百万の特徴だ。 

 

 他店に気は使っているけど、それでもやはり価格破壊的に安くなる高級食材、龍種の地龍などステーキで食べ様なら金貨3枚はするところを、八百万だと銀貨5枚!金貨1枚にもならないのである。 

 

 それでいて銀貨一枚足す事で、ステーキのお替わりが出来るなど、さっきの価格破壊はしない宣言はどこいったのか?の如く安い!安すぎるのである! 

 

 ギムレッドさんにも他の店に迷惑にならないか相談したところ、素材自体をプレゼントしているのが自ら獲物をとってきた冒険者達である手前、他の店並みに八百万が値段をあげたらぼったくりになってしまう、手間賃や技術料で値段をあげるにも、斗真自身は本職の料理人と現代日本の料理人の様に胸を張れるか?と言われると、魔法や神様の加護や特別な魔道具などのマジカルパワーに助けられているので、本職のプロの様な技術料はもらえないと考えている。 

 

 八百万とは冒険者や色んな人から素材がタダで送られてきて、そのおかげで採算度外視で無茶な経営も出来ている奇妙なバランスで出来上がっている定食屋なのだ。 

 

 他の店の料理人は八百万の事をどう思っているかと言うと、冒険者自ら獲物をとってきて調理してくれと頼まれるのは料理人にとっては嬉しい事であり、羨ましい事でもある。 

 

 粗末な調理で、手に入る食材のレア度だけで流行っている店だったら、料理人達も怒りクレームを商業ギルドにだしたかもしれないが、八百万で食事をしてみると、食材を生かして綺麗に丁寧に調理されていて、素材だけで出せる味を超えているので文句の言いようもない。 

 

 一つ不満があるとしたら、斗真が料理人として自信がない事、他の料理人に比べて自分なんてといった考えがある事が少し気に入らないくらいで、周りからみたら斗真は立派な料理人に見えるのだ。 

 

 斗真的には現代人で料理にちょっとでも興味があり、魔法や神の加護、魔道具などここまでお膳立てされていれば誰でも作れるものだと考えている。 

 

 それに動画やインターネットでレシピも勉強しているので、やはり自分的にはプロとはとても言えないと考えているのだ。 

 

 こうした奇妙なすれ違いもありつつも、八百万はみんなに見守られ認められながら営業している。 

 

 ウェールズ料理店 フランチェスカの料理長兼オーナー アステリオス・フランチェスカ 

 

 うちの店でも内臓を扱うべきか・・・・・・・だが!・・・・・ううむ。 

 

 八百万の内臓料理、それは料理人にとって未知の世界だった。 

 

 不浄な部位、食べないものとして育った人間にとってまったくの未知の料理。 

 

 だって腸だぞ!?クソが詰まっていた部分を好き好んで食べようと思うだろうか?そもそもが普通の肉の部分ですら余らせる事もあったくらいなのに?心臓や肺、肝臓や胃!食うと思うか?美味いと思うか?しかも肝臓、レバーや心臓なんかは丁寧に処理しないと魔物の血が臭くてとても食えない! 

 

 でも八百万のレバーやハツは美味いのだ!丁寧に処理がされている。 

 

 なるほどと思い、商業ギルドで売っている、八百万の内臓の食べ方や、処理の仕方の手引書を購入して真似してみると、これが丁寧に書かれていて簡単にまねする事が出来た。 

 

 食の大都市 ウェールズと言われる様になった今ですら、内臓を扱わないのはやはり八百万と比べられるのが怖いと思う料理人が多いからだろう。 

 

 30、40といい年の料理人が、今更新しい事に挑戦して客を落胆させる事が怖いのだ。 

 

 料理人なら誰でも経験をしたことがある、○○の方が美味いと言う客の声、毎日が戦いの日々でどれだけ不味いと罵られても、明日を生きるために店を開かなきゃいけない日々、どれだけ打ちのめされても、ボロボロになろうとも、この商売で生きていこうと考えたら店は開けなければならない。 

 

 決して自分で塩振って焼いた方が美味いわ、なんて言葉に負けるわけにはいかないのだ。 

 

 新しい味を楽しむ事もある、わくわくする事もある、料理が楽しくて仕方ない時もある、自分で超絶美味い料理が完成したと思う時もある。 

 

 そうして一日ずつ、時には打ちのめされ、時には笑い、時には泣き、それでも立ち上がり食材と戦い、客と戦い、売り上げと戦い、味と戦い抜いた料理人達に新たに臓物という風を八百万が旋風を巻きをおこす。 

 

 料理人として、この新しい風に乗り遅れるわけにはいかんのじゃい!!!

 

 今日の定食は、様々な魔物の舌、タン定食。 

 

 こりこり、ザクザクのものもあれば、しっとりとろける極上の肉もある!魔物の舌によって味も食感も全然違う!極上の肉の様にとろける肉感のものもあれば、食感が楽しく味もパワフルなものやタレと合い、米を誘うものもある! 

 

 こんなにも違いがある事を俺は今まで知らなかったのか!?という衝撃と、こんなに美味いものなのか!という二重の衝撃に足元がふらつく。 

 

 サトイモの煮っころがしの美味さ!オクラの塩づけの美味さ!きんぴらにヒジキにサラダに厚焼き玉子!どこか故郷を思わせる味に安心しながらも、タンと言うステーキが贅沢に山盛りに並べられている皿に豪快に箸を突っ込む、口に運ぶ、そしてその肉を味わっていると、どうしようもなく欲しくなってくる米! 

 

 タンを味わい、米を掻っ込むともうこれ以上はないんじゃないかと言う味の組み合わせに、しかめっ面も思わず笑顔になる。 

 

 これで肉も米もお替わり自由なのだから、コスト面では八百万には勝てないだろう。 

 

 特にこのとろけるタン!このタンはなんの魔物の舌なんだ!?ザクザクザクっと噛みちぎるとサぁ~っと流れる上品な脂、食感と反比例して軽快に消えていく肉の旨味! 

 

 濃厚なニンニクのタレとも相性はいいし、玉ねぎの甘さと奥深さがあるタレともいい味になる!軽く塩だけでも十分に美味い! 

 

 そして味噌汁!この味噌汁の中に入っているネギとわかめ!これがまたいい! 

 

 味噌だけのスープを味わってみるのもいいが、わかめとねぎが口に入ると段違いで味わいが良くなる! 

 

 口の中がすっきりとして、また肉を食いたくなる! 

 

 ハフハフ!ガツガツ!グァツグァツ!もにもに!むしゃむしゃ! 

 

 ふぅと一息入れ、水を飲むとこれがまた染みる様に美味い!水がこんなに美味くなったのはいつからだろうか?昔は濁っている水でも平気で飲んだし、腹をそれでよく壊したもんだ。 

 

 水の変わりに酒を飲むなんて当たり前で、それが今ではこんなに冷えてて、清らかでごくごく飲んでも喉になにも引っかからない水!こんなに清々しい水を飲める様になったのも八百万が出来てからだ、そうだつい最近の事だ。 

 

 いまじゃあ、水でも飲んでろ!なんて言っても、こんなに美味い水が出て来るんだから、いい世の中になったもんだ。 

 

 それにしても八百万の水は、ひと際美味いのは何かあるのだろうか?とても神聖で澄んだものを飲んだかのように清らかな気持ちになる。 

 

 八百万にきて、自分の店との違いに打ちのめされるのだが、それ以上に客としてもてなされている感じが強いのだ。 

 

 丁寧に丁寧に客が喜ぶ様にとした、おもてないしの感じ、客を第一に考えている姿勢、これが斗真殿の店!客をもてなす世界観! 

 

 味のテーマパークとでも言うかのような、定食を味わい、満足して店を出る。 

 

 アステリオスは八百万に打ちのめされるが、心の中は決してネガティブなもので埋まっているのではなく。 

 

 むしろ癒され元気づけられたかのような、活力を与えられた様な気持ちでいっぱいになる。 

 

 自分も負けてられない、俺たちはいつだって何歳になったって挑戦の毎日なんだ! 

 

 闘志に燃えるアステリオス、彼の戦いは続く。

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