第31話アーサー 嵐の後の昼食 従者部隊序列3位 クラウス

 -アーサー・フォン・ドラゴンー 

 

 昼食を食べに来た私達、ガウェインとグラナダ嬢は思いのほか、重い話を聞いていた、今まで商業ギルドに任せていた施設は、我が公爵家と、王家、ほとんど王家が運営に絡む事になるらしい、確かにあれだけ超常の建物だ、一公爵家が扱うより、国が管理していると言った方がいいだろう。 

 

 ウェールズの5大英雄が、我が国の守護者クラウス殿に叱られていた、これは他人事ではなく、私自身も怒られているのだと感じた、圧倒的情報不足、国王様がラウンズに稀人探しをさせたのも多分わざとだ、あのお方は影からの情報でウェールズに稀人が現れたのを知りつつも、誰にも言わず、こんな回りくどい事をしたのは、私達がSSSランク冒険者に頼りすぎている事、そのSSSランクが実質前線を離れ、昔の研ぎ澄まされていた状態じゃなく、実力が落ちている事を暗に伝えたかったのだと思う。 

 

 もし王家が本気なら、クラウスさんは無理にでも斗真殿をさらって王都に帰った事だろう、だが稀人である斗真殿自身がそれを望まない事もわかっていて、クラウス様に叱ってもらったのだろう、また付け加えるなら、斗真さん自身にも自分が特別な人間なんだと理解してもらう為にとった事でもあると思う。 

 

 クラウスさんとギムレットさんは引き継ぎの為、宿全体の把握をしにいき、この場にナンバー6ルーナが傍にいる状態だ。 

 

 「はいはいはい!湿っぽいのは終わり!昼営業はなくなったけど、夜にお詫びの一杯お客さんにサービスするから、それの準備もしなきゃね!アーサーさん達は食べていきますよね、もらったキングサファイアシュリンプ、美味しく調理できたんです、それにグラナダ領で捕れたグラナダ鉄砲貝の身も大きくて食べ応えありますよ!」 

 

 「そうだな、俺達だけでなんか申し訳ないがいただこう」 

  

 「そうだな!腹減っちまったよ~」 

 

 「グラナダ領で捕れた鉄砲貝とは嬉しいな!」 

 

 ねねは俺にべったりとくっついて離れない・・・・・ねね大丈夫だよ、だからちょっと離れようかといったら食い気味、嫌!!と断られた、半分抱っこしながら、まぁお膳をもっていくだけなので、リリが運んでくれた、リリもリリで離れたと思ったら、俺の側にすぐにくっついてきた、俺が迷惑ならもう会う事もないって言った事が結構ショックだったみたいだ、ごめんよ。 

 

 「うぉ!こりゃボリュームあるな!美味そうだ!!卵のこれはタレか?こいつは珍しい!アーサーお前の好物だろ、お前から食べてみろよ」 

 

 「そうか、同じに見えて味が違うのかこのタレ、どれ順番に左からつけて、もぐもぐ!ごくん!はぁ~これはやばいな!!さくさくぷりぷり、それでいて卵のタレがまた豪華に絡む!こっちは・・・・ぷりりと辛いが良い辛さだ!なんだ!癖になるぞこれ!もぐもぐ美味い!」 

 

 「うっは~美味そう、俺も、タレはじゃあ右の・・・・もぐもぐ!うん!甘くてちょっと辛いけどこれもいいな!これ卵だけでもご馳走じゃないか?豪華だぜこれは!」 

 

 「私はもちろんグラナダ鉄砲貝からいただこう!もぐもぐもぐ!うん!貝の旨味が溢れ出る!!ぷっつりと噛み切れて、じゅわじゅわと旨味が溢れ出る!生も美味いが生では味わえない、鼻を抜ける香!香ばしい衣とあって美味い!これが食えない客たちはなんて可哀そうなんだ!!」 

 

 「付け合わせの漬物が、またさっぱりとしていて、これはナスと黒いプルプルしたものに甘いタレがかかってるの?これもまた米が進むな!」 

 

 今日の付け合わせは、ナスの素揚げとこんにゃくの田楽なんだ、甘味噌でたべると美味いんだ。 

 

 「八百万はメインも美味いけど、付け合わせの漬物や煮物もまた美味いんだよなぁ、体に良い物を食べている感じになる」 

 

 「わかる!味も極端にしおっからいものとかなく丁度いいんだよな!」 

 

 「話の流れ的に、斗真殿が店を閉めると言った時は正直ひやりとした、もうこの飯が食えなくなると思うと、これからの長い人生どれだけ無為な時間になるか、考えただけで残酷だ、それに折角異国なんかよりも遠くからの来訪者だ、交友を深めれるならそれに越した事はない」 

 

 「う~むグラナダ領からもここの施設には沢山のお客さんが来るだろう、我がウェールズだけ一方的にお客様で溢れるのは、健全なのだろうか?何かグラナダ領にも得になる事がないと、申し訳ない気がする」 

 

 「グラナダにはグラナダでしかとれない魚や貝など魚介が豊富だ、八百万ではイールの日があるんだろ?グラナダの魚介を使った料理を出す日でもあれば、客はある程度興味を持つのではないか?」 

 

 「いいかもしれないな、実際にグラナダ鉄砲貝は有名だし、身もでかくて旨味も抜群だ、腹痛に苦しむのがわかっていても生で食うのがやめられないって奴等がいるくらいだ、でも斗真殿の能力なら腹痛になんぞならなくて、安全に腹いっぱい食える、まさに食い放題だ!」 

 

 「これからは定期的にグラナダの魚介を八百万にもってこよう!斗真殿頼まれてくれるか?」 

 

 「もちろんですよ!こんな美味しい貝、いっぱい仕入れられるなら、宣伝くらいお安い御用です。グラナダの街でもお祭りとか何かイベントをやるなら、グラナダの魚介祭りやってる間、街の方でもお祭りがあるみたいですよ~って声かければ、興味もっていく冒険者や商人、普通の人でも遊びにいく人がいるかもしれませんね」 

 

 「なるほど、祭りの開催期間の告知か、それはいいかもしれない」 

 

 「自分達の利益だけを考えてたら出ない発想だ、ここで飯を食うだけで中々にアイディアが出るものだ、はっはっはっは」 

 

 「一方的ではなく、互いに発展していくって言う事は大切な事だ、やはり斗真殿はこの世界に必要な御仁だ」 

  

 俺が移動出来て、スキルにまかせて建築物の整理や、公共機関の立派な建物や建築物の補強や増加など手をかしてあげれれば一番いいのかもしれないけど、今はまだ動けないし、いつ動けるかもわからない、軽率に動くわけにはいかないし、迷惑がかかるから

  

  -従者部隊序列3位 クラウスー 

 

 彼は未だに夢に見る、呪われる前の自分を、呪われて全力を出せなくなった自分を、そんな自分を自分自身で呪い、憎み、怒り、悲しみ、泣き、力ある者だったのに全力で立ち向かっても零れ落ちていく、守り切れない命達に絶望して、また泣き、全盛期の力の半分も出せない事に己を呪い歯がみした。 

 

 何故俺はこんな姿でいる!!なんで俺は肝心な時に力が出せない!!足りない!! 

 

 本来なら俺が前に出て守るはずの命達が俺を守っている、こんな事はあってはならないのだ!そこをどけ!!死ぬならまず私からなのだ!!歳をとって老成すれば、全盛期とは負けず力や技が研ぎ澄まされる事だろう、だが呪いによって削がれた力は戻らず、無様に前線から落とされるだけ。 

 

 邪神討伐戦、沢山の同朋達が死んでいく、手の肉が裂け骨が見えその骨がチリチリと砕けていく痛みの中でも全力で防御し、仲間を守った、多くの仲間が俺を称えた、やめろ!俺を称えるな!本当なら呪われてさえいなければ、全て守れたはずなんだ!戦闘の長期化は俺の判断力をどんどん鈍らせ、今も守れる命の多くが、私のたった一つの簡単なミスで失われていく、そうたった一つ思考を遅らせただけで、何人死んだ!10人か?100人か?それほど簡単に人が死んでいく、邪神との闘いで何故俺は今もこの姿なのか、傲慢だった若い自分が目に映る。 

 

 20代の俺は戦いを軽く見ていた、どんなに鋭く気を巡らせていても、所詮は人間一瞬の判断で人は死ぬ、それがあたりまえなのだ、ふざけるな!俺のせいじゃない!お前らが弱いから死んだのではないか!それを俺の、俺が守り切れなかったから?ふざけるな!どこまでも甘えやがる!そう吐き捨てたい中、俺の脳裏に映るのは、俺の些細なミスで死んでいった者達、、戦場でふざけた、気を抜いた、敵に気付きながらこの距離なら大丈夫だと、仲間に伝える事すらしなかった。 

 

 まさに大丈夫だろう?問題ないだろう?きっと相手は敵だけど襲ってこないだろう?理性のない獣である魔物が近くにいても強襲されないだろう?まぁ最悪襲われても、自分はなんとかなるだろう。 

 

 まさにその通り、自分の身を守る事はできた、それで?仲間は?友達は?戦友は?守るべき対象は?。 

 

 俺がミスれば仲間が死ぬ、大切な人が死ぬ、敵を一人逃せば、次は二人で、その次は4人で、8人で16人で32人で64人で128人で、俺が死ぬまで諦めない、俺が殺せないなら、家族を友人を親を親戚を、笑えて来るぜ、その憎悪はどこからくるんだい?まったく関係ない人が街の人が殺される、その度に敵はいった、この街にはクラウスが住んでいるから何度でも殺しにくる、俺が死んでも殺しに来る、俺がクラウスに殺されても俺の仲間が、友が、お前らを殺しに来る、もうこの街に安寧はない。 

 

 そういった男がいた、震えあがるほどの憎悪、ただ一緒の街に住んでいただけで俺の関係者とみなして殺す、狂気の集団、恐怖に震えた俺は・・・・・。 

 

 そいつの関わり合いになった全てを同じように殺してやった、村を街を集落を国から俺の討伐に訪れた騎士団も貴族も子供も年寄りも何もかも力の限り、憎しみの限り、全身全霊をもって殺した。 

 

 別れはいつからだっただろう?最後に5人のガキ共を修行をつけていた時だったか?俺は街で暮らす事も国に所属する事もなく、俺を憎しんだそいつが生まれた国というだけで、一国を滅ぼし、魔物の異常繁殖により侵入禁止の地域で生活するようになった。 

 

 大切な者が出来れば人はそれを守るために弱くなる、どんなに平和に安寧に生きようと、この世界では人が簡単に死ぬ、そして強者の俺にミスなど許されないのだ、俺のミスで俺に関わって何人死んだ、守る事も出来ずに何人死んだ!躯の山が脳裏に浮かぶ、これは俺のミスの証、異変に気づけないものから弱い者から順に死んでいく、その運命を変えれるのが強者であり俺の務めだったはずなのに、俺の油断で、甘い考えで、危険と分かっていながら下した軽い決断で、俺の脳内には躯で埋まっている。 

 

 「まだ餓鬼の癖に、なんて目をする子なんだ、哀れな子・・・・だけど執行させてもらうよ・・・・汝の罪を受け入れなさい」 

 

 目の前に現れた、謎の女、こいつ!噂に聞く執行者か!! 

 

 執行者の呪いで、俺は80か90にもなる老人に姿を変える事になった、そして脳裏には躯ではなく、償えと声が響くようになった。 

 

 俺は償えと脳裏に響くからか、どんな気の迷いか、王国に出頭して連合国の裁きを受ける事にした。 

 

 一国を滅ぼした俺は極刑だろうと思っていた、そしてそれが償いになると、王国の女王だけは俺を守った。 

 

 「クラウスは幼いころから、英雄の素質があり、邪神の教団に目をつけられ、常に関わる人間、共に過ごす街の人間ですら、クラウスの人質として扱われ、その大量の死をみて、その結果教団の一部はもちろん、それに関わる人間を国を粛清したと私は考えます。実際子供から大人、国の王族に至るまでが邪神の崇拝者!これはクラウスの魂を狙った邪神側の罠だと私は考えます!!!」 

 

 「そしてクラウスのこの一見狂った行動なのに、殺したのは邪神教団の信者だけが都合よく殺されている事に対して、クラウスには女神の加護と英雄の加護があると私クラレンティアと聖王国教皇は確信をもって断言いたします!」 

 

 そして神の審問に問われた俺は、守護者の加護と暗黒の英雄の加護が女神様より与えられていることがわかり、暗黒の英雄の加護は、俺の心が完全に砕けた時、邪神の配下に加わる様書き記されていた。 

 

 俺は命を救われた、クラレンティア様に感謝し、従者部隊に入り、一から執事の仕事を90の体を引きずりながら15年仕え、残りの5年を王家に仕えながら、呪いを解くために執行者を探した。 

 

 邪神討伐戦の際俺が完全だったら、多くの死者を出さず、もしくは己の命を差し出してでも守れる命達があった事を俺は忘れない。 

 

 だからこそ、大切な者を前にして、闘気程度の異変などと切り捨てた、こいつらが許せなかった。 

 

 お前たちは、その自分勝手な思考で、その考え一つで、斗真様を失ってもよかったのか?そのよそ見の様なたった一つのちっぽけなミス、自分が高段者だからだと敵などそうそう攻めてこないだろうと言う決めつけ、油断で失っていい命なのか?これは斗真様に限った話ではなく、弱者を守る強者である為の言葉でもある。 

 

 ここで俺が叱ってやらなければ、誰がこいつらを叱ってやれる?誰が気付かせてやれる?自然と気づくなんて事はない、友人同士でもそうだ、相手の悪い所は例え関係が悪くなってでも伝えてやるべきだ、人間関係でもたった一つのミスで嫌な奴と思われたり、初対面の人間を相手に恥をかく行動などもあるのだ、それをこいつらに伝えてやれるのは私以外いないと思い叱ったが。 

 

 肝心の斗真様からは嫌われてしまったようだ、だが斗真様もまた甘い、違う世界の人間とは、その世界の知識をもっているだけで、ある意味で宝そのものなのだ、自らの世界で自身は平凡でも、他世界では喉から手の出る程貴重な知識を持っている事もあれば、神の加護が現れたり、貴重な能力の発露などがある場合もある、その才能を有している以上、稀人は世界の起点を大きく変革させる価値のある存在として扱われる、それは知らないのであれば仕方がないが。 

 

 確かに斗真様がもうこの世界に現れないなら、リリもねねも命を狙われる事もないだろう、戦争や水面下での争いもなくなる事だろう、だが親を失い新たなよりどころとなった貴方を失えば彼女たちは心に傷を負う事だろう、命が最優先なのはもちろんだが、心が死ぬ事で生に意味を無くす人間もいる。 

 

 そう選択せざる得ない状況に置いた、我々王家もまた反省しなければならない。 

 

 クラウスは天を仰いだ。

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