第22話内臓やイールはまだまだ広まらない 花蜜牛の牛タンステーキ、試される客

 内臓、なんだかんだで日本でも内臓を食べる歴史などは浅く、今では当たり前に食べていたりするが、それは最近の事である、だから思わず内臓は美味しいから昔から食べられていただろうと思いがちだが、それは間違いである、そして海外でも内臓を積極的に食べていたのは一部の地方が昔から食べていたりと、歴史や文化によって変わってくる、特にアメリカ出身の人が日本食で驚くものの中にもつ鍋があげられる、そして驚く事に牛タンなども人によっては食べるなんて信じられないと思われている。 

 

 特に牛タンは日本ではとても美味しい事が知られているが、世界的にその味、美味さが広まったのは実は本当に最近の事で、今まで食べていなかった国から大量に安く仕入れて、質のいい牛タンが日本で食べられていたが、様々な国がその美味しさに気づき仕入れる事によって、牛タンの価格が高騰し今まで安価で手に入っていた物までもが値上がりして、牛タンショックなる現象を起こしたほどである、それ以外にも牛のエサがたらない、希少部位である為だとかコロナが原因と様々な理由で今もなお高騰している。 

 

 そしてこちらは異世界、八百万、異世界の人間は内臓を食べる文化がなかった為、朝市の仕入れで八百万には様々な魔物の内臓や骨などが入っている、牛型の魔物から豚、鳥、羊、ヤギ、鹿、熊、珍しい馬型の魔物の内臓までよりみどりで手に入る。 

 

 羊にヤギ、熊型の魔物は内部の内臓に希少な宝石、金属を含ませる事があるので、そこまで大量に手には入らないし、栄養を宝石や魔石に強く送る傾向があり、旨味が少なくあまり美味しくないので仕入れない事もある。 

 

 逆に馬型の魔物の内臓や肉は希少で、肉自体がとてもうまい、筋肉質かと思えば柔軟性があり噛み応えがある肉は赤身が強い旨味を放ち、脂身がないのにしたたる肉汁は濃厚で人気な肉だ。 

 

 更には魔物には七色シリーズや宝石シリーズ、鉱石シリーズなど様々な魔物がいる、最高級の七色シリーズの内臓までもが、タダ同然で八百万には入ってくるのだ。 

 

 ただでさえ美味い牛タンが、異世界のとんでもない美味さの牛タンがタダで大量に手に入ると言う異常事態、驚くほどに美味いのにそれを知っても抵抗感があり、避けられる内臓、そんな牛タンを使った定食が本日のメニューである。 

 

 「花蜜牛の牛タンステーキ定食、分厚いのに噛み切れる驚くほど柔らかく美味いステーキだ」 

 

 「う~ん・・・・美味しそうだし、いい匂いするけど、牛さんの舌って考えるとちょっと・・・」 

 

 「そういわれると、そうかも・・・・」 

 

 「二人とも牛タンシチューはあんなに美味しそうに食べたじゃない」 

 

 「あれはなんか食べやすかったからかな?ステーキで出されると舌なんだなって感じる」 

 

 「まぁ俺は食べるけどね、うん!ザックザクの歯ごたえ!甘くとろける脂がまたなんとも言えないんだよなぁ!!そこに米!!タレと牛タンの味がマッチして米が進む!」 

 

 「私だって食べるもん!ちょっと抵抗感あるって言っただけ!もつ煮やもつ焼きだって大好きなんだから!もぐ!もぐ!もぐ!簡単に噛み切れちゃう!しっとり滑らかな脂がタレと混ざって!うん!お米との相性も最高!?高級牛の牛タン・・・・・美味しい~」 

 

 「やっぱり最初は抵抗あるけど、食べてみるともうお肉なんだなぁって感じで、私不思議に思ったんですけど、お金に五月蠅い商人の人達が、廃棄されるこのお肉に気がつかないなんて不思議で仕方ないです」 

 

 「俺もそれは思った、誰か気が付いても良さそうな気がするんだけどな?」 

 

 そんな話をしてると店のドアが開いた。 

 

 「おいっす!今日のご飯は何~?」 

 

 「ちょっと早いがそこでニーアと一緒になってな」 

 

 「フィガロさんニーアさんいらっしゃい、今日は花蜜牛の牛タンステーキだよ」 

 

 「牛タンかぁ~すっかり内臓で慣れたと思ったんだが、これ牛の舌なんだよなぁ」 


 「何?怖気づいてんの?あたしはもう斗真が出すもんなら何でも美味いんだろうなって思うけど」 

  

 抵抗感はひとそれぞれやっぱりあるよね、いくら美味いってわかっていても売れなかったら商売にならないし。 

 

 「くぅ!ちくしょう!相変わらずうめぇな!斗真が出すもんは!サクサクの食感って不思議だなぁ~そんでもって絶妙に出る脂の旨味が!米を誘う!!」 

 

 「サクサクなのにしっとり消えていく食感って本当に不思議だ!ぶ厚いから噛み応えあるけど、さっくりと抵抗少なく噛み切れる!こりゃあ贅沢だな!ここに来てからすっかり米が好きになっちゃったよ!」 

 

 フィガロさんなら知ってるかな?他の商人が手を出さない理由。 

 

 「そりゃ内臓に目を付けた物好きはいたさ、でもなそのほとんどの人間が美味く調理できなかったのさ、お前さんがどんな仕込み方してるかわからんが、商業ギルドに仕込みの仕方を教えないなら気を付けた方がいいぞ。最近じゃ八百万を知ってる商人も増えてきた、内臓を手に入れてる事も知ってるだろうな。イールのレシピも日に日に売れてるって話だ。いつかお前さん所と同じくらい美味いイールを出す店が出て来るかもしれないな」 

 

 いいと思うよ、うちもウナギだけで商売してるわけじゃないし、この世界だと特定増殖生物ってのに分類されて、増えて増えて困ってるみたいだし、それをうちだけで消化できるとはとても思えないしストックもある上に、イールの日は一日ウナギを捌いてるし、専門店とかあってもいいくらいだもんね。

 

 

  -B級冒険者双剣のフィルー 

 

 最近冒険者で有名な、急に変な建物が出来上がった飯屋、八百万、色んな有名冒険者が並んででも食べたい飯を出す店。 

 

 俺は興味なかったんだ、冒険者ならゲン担ぎや行きつけの店なんかあったりするもんだ。 

  

 あえて他の奴らと一緒の店を行きつけにしたり、その店で飯を食ってゲン担ぎにするなんてカッコ悪くないか?俺なら俺の、俺唯一の店がいい最初はそう思ってた。 

 

 でも聞けば、C級のレックスが気が付けば俺を抜いてA級に上がっていた、PTでも美味くいっている様で周囲からの評判もいい、実力はA級と言われていたレオンも今じゃA級トップ今年中にはSにも届くんじゃないかとか言われてる、気まぐれやで熱意がなかったレオン、軽くゆるく適当にがモットーだった男が、今じゃ冒険者からも商人からも近隣住民の中でさえ評判が良くなり、人気者になっている。 

 

 どんな心境の変化だ?聞けば八百万って飯屋で衝撃を受けたとか、大物マスター達のたまり場、魔窟とまで言われている店だと聞いたが、他の奴等に聞いても概ね評判がいい、他にもランクEで満足してる、その日暮らしの冒険者達もDやCに上がっていたりと不思議な事が起こっている。 

 

 俺は別にそんなジンクスなんか気にしないが、評判だからちょっと覗いてやろうって気持ちで飯屋の列にならんでいる、そろそろ開店時間かと思っていると、肉屋のフィガロと冒険者マスターのニーアが出て来た、ごきげんで先頭に並んでいる奴と話して帰っていった。 

 

 冒険者ギルドを辞めたのに、カリスマ的存在感は健在の様で流石、複数の国からもSSSランクを授けられた歴戦の猛者だと思う。 

 

 そんな理性ある災害とまで言われる人物達が集まる店、多くの冒険者の在り方を変えた店に俺はこれから入るんだ、そう思うと口ではなんでもない飯屋だと思いつつ心臓の鼓動が早くなる。 

 

 可愛らしい獣人の子供が二人、店内に案内してくれると、店はあっと言う間に全席埋まる。 

 

 メニューは決まってるみたいで、次々料理が運ばれてくる。 

 

 「は~い!今日は花蜜牛の牛タンステーキだよ!お米のお替りは無料でもお肉は有料だからね!」 

 

 花蜜牛だって!?ダンジョンも中階層でとれる上等な牛型魔物じゃねぇか!?それの?どこだって? 

 

 「なぁお嬢ちゃん?牛タンって・・・・その牛の何処の事いってるんだ?」 

 

 「牛タンってのは牛の舌の事だよ!ほらこの舌の事!」 

 

 小さな舌を出して、指をさす、つまりは牛の舌を食えって訳だ。 

 

 俺はどうしていいかわからず、手が止まってしまった、俺以外にも嬢ちゃんが舌と言った瞬間に動きを止めた奴は何人かいた、それでも舌と聞いても、へ~って程度で食い始めてる冒険者はきっと常連連中なんだろう、こんなの慣れっこだみたいな感じで、談笑しながらも「美味い!?」と大声で聞こえてくる。 

 

 おいおいおい冗談だろ、花蜜牛とはいえ舌が美味いってマジなのか!?ここの常連はこういったもんに抵抗はないのか?そういえば、夜は内臓の煮込みや焼きが出るっていってたのもマジな話なのか?平気な奴等はそれらを乗り越えたからなのか?。 

 

 ここで舌なんか食えるか!?と言って出ていくのは簡単だ、だけど周りの奴らは食い始める、そして声を上げる!「美味い」と本気か!?お前ら!?舌なんだぞ!いないのか?誰も出ていく奴はいないのか!?。 

 

 美味い美味いと言われる中で俺だけが尻尾巻いて逃げる訳にはいかねぇ!厚めに切られた肉を一切れ掬い、思い切ってかぶりつく!? 

 

 ええい!?・・・・・もぐ・・・ん?もぐ!んん?もぐもぐんんんん!?これは!? 

 

 何とも言えない美味さの衝撃!食った事のない特別な脂の感じ!生まれてから長い間飯を食ってきて味わった事のない旨味を舌に感じ、思わず席を立ちあがって声を張り上げる。 

 

 「美味い!!!!!????あっっっ・・・・すんません」 

 

 大きな声が自然と出てしまい、小声で謝って席につくと、他の席からも声があがった。 

 

 「わかるぞ!?最初はびびるよな!」 

 

 「そうだそうだ!舌なんて言われたら、流石にびびっちまうぜ!」 

 

 「でも美味いな!本当に!」 

 

 「ああ!こりゃご馳走だ!酒も飲みてぇ!」 

 

 「馬鹿!この店と言えば、米だろ!?やっぱり肉と米の相性がたまんねぇや!」 

 

 「やっぱりうめぇよな!おらぁお替りするぜ!」 

 

 「常連でもびびる奴はいるんだ!初めてなら尚更だよなぁ」 

 

 「ああ!でもなんだかんだでうめぇから何も言えねぇ!」 

 

 励ましの言葉に、俺の美味いって言葉に賛同したり、色んな声が上がる、俺も座り直してもう一度肉を食う!。 

 

 美味い!まずサクサクの触感!肉なのにサクサクするってのがまず訳が分かんねぇ!それでいて噛みしめると出る甘い脂に、タレが混ざり、口の中を幸せにする。 

 

 ここで米を食った、美味い!固めに炊きあげられた、粒を感じる米が肉と脂、タレの旨味と混ざり合い何とも言えない、そして飲み込む!こうなってくると、食欲旺盛な体はもう止まらない!肉!米肉!米!間に塩漬けで休み!スープで喉を潤して!煮込まれた野菜達もまた美味い!サラダにかかってるタレも生野菜にあう!美味い!?。 

 

 「嬢ちゃん!?肉と米お替りをくれ!?」 

 

 「は~い!お肉は別料金だからね~、銀貨三枚だよ~」 

 

 「問題ねぇ!?ってかそんなに安いのかよ!?」 

 

 これでもB級冒険者!金ならある!飲み食いに大金貨だって使う事があるくらいなのに!?こんなに美味い飯が銀貨5枚!?肉のお替りで三枚!?冗談じゃねぇ!?儲けでてんのかこの店!?駄目だ駄目だ駄目だ!潰れてもらっちゃ困る!これからは俺もこの店に通うんだから!? 

 

 満足して、一息つく・・・・べらぼうに美味かった!?他じゃ比べられない!最初はビビったけど!間違いなく美味かった!。 

 

 ふぅと一息はいた後、水をごくごくと飲む、その水がまたなんともいえないくらい美味い! 

 

 こんな満足感今まで感じた事なかった、どこの飯屋いっても高い店にいっても貴族が通うような上級な店にいっても感じるのは、まぁ美味かったな、腹も膨れたしこんなもんかなって感じだ。 

 

 何が違うんだ?わからねぇ、けど今の俺は満たされている!明日も戦いそして生きるのだと!力が漲ってくる!まるで夢か希望でも見つけたような、ガキの頃の憧れを思い出したかのような感覚に、今の俺はどんな事があっても対処できる!謎の無敵感に包まれている!周りの人にそれを祝福されているかの様な不思議な感覚、俺は自然と笑顔になりながら帰りの道を歩いた。

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