第23話地龍!? 試される客 ガウェイン

 仕込みの時間、まとまった時間があれば商業ギルドの職員と只管野菜や肉の下ごしらえをして保存、調理をしては保存などを繰り返している、宿が開いたら今の倍以上お客さんが来る事を考え、ストックを積み上げていく、格安料理の焼きそばなんかも大量に作ったのだが、自分的に物足りなくて、あっちの世界から麺を特注して、ソースは市販のソース、鰹節や青のりなんかも用意して自分なりの焼きそばを作ってみた、俺的にはこっちの方がコストはかかるが断然美味いと思った、違いを理解してもらう為にも二つくらい種類があってもいいかもしれない。 

 

 時間は9時、今日のメニューはどうしようか?朝の仕入れの段階で珍しい食材もなく、否異世界らしい食材は沢山あるのだが、どうもこれ!と言った物に出会えず、今日は手を抜いて麺類にでもしようかなどと考えていると、店のドアの方から来客があった。 

 

 A級冒険者の常連レオンさんだった。 

 

 「おう!旦那!今日はいいもんもってきたぜ!」 

 

 マジックバックからレオンさんが取り出したのは、でかいワニの様な生き物、それはいいのだがサイズが馬鹿デカい!平屋の一軒家くらいありそうだ、大通りは道が広い馬車が二三台すれ違える様な広さに人が歩く所まで確保している、その道いっぱいになるほどでかい魔物。 

 

 「地龍の子供だ!!暴れまわってるから駆除依頼が来てな、こんな美味い話他の奴には任せられないと思ってな!こいつで飯作ってくれ!皮以外は全部、旦那にやるからよ!」 

 

 中にはもちろん運べないし、裏に持っていく事も考えたが、もういっそここで捌いてしまおう! 

 

 俺は冒険者ギルドの解体部やフィガロ精肉店での魔物の解体を見学させてもらっいるので、物まねを発動させて、地龍の皮を剥いでいく、これが硬い!普通の包丁では刃が立たない!何度か包丁を変えて捌いたが、犠牲になった包丁が何本かある。 

 

 「わりぃな、包丁の事まで考えてなかった、どうせなら地龍の鱗10枚程やるから、新しい包丁を鍛治師に打ってもらうといい、地龍の鱗を使った奴なら相当切れる包丁が手に入るはずだ」 

 

 包丁は犠牲になったが、皮は剥ぐことが出来た、骨も硬いのだが、もう鉈や斧でがっつり切断して小分けの枝肉にしていく。 

 

 背中の肉をカットすると、赤身でありながら白い脂が入っている、モモ肉なども赤身でありながら筋肉質で硬い感じがあまりない。 

 

 これは上等な肉だ!刺しやユッケで食いたい!!赤身と脂が濃い所で分け、刺身にしていく。 

 

 もう一つ、シンプルに塩コショウでステーキに、米も用意して、漬物は万能ねぎのキムチこれがまた癖になるほど美味いんだ!大量に仕込んでもすぐなくなってしまうキムチだ、煮物には人参とサトイモ、タケノコとさやいんげんの煮物だ。 

 

 「できた~、さぁ食べてみよう!ここは地龍を狩ってきてくれたレオンから食べてみてくれ!」 

 

 「おうよ!って生肉がある様に見えるのは俺の目の錯覚か!?こっちの細切りの肉も卵黄も生じゃね~か!旦那!?俺を実験台にしようとしてるんじゃないだろうな!?」 

 

 「ふっ!俺の魔法は食材に悪い物が入らない能力だぞ!?万が一にも腹痛なんかにはならん!?神様お墨付きの能力だからな!それに美味い肉は刺身でも美味いんだぞ、鳥や牛はもちろん馬や亀、豚に至っては、無菌豚といって完全に清潔に育てられて、生で食える豚がいるくらいだぞ、それに俺の国では生卵なんか当たり前に食べられている、もちろん安全第一でだ。まぁそこまで怖気づいちゃうんなら俺が先に食うけど」 

 

 「まて!?怖気づいちゃいねぇよ!俺が先に食う!」 

 

 「なんでもいいけど早くして!ねねが先に食べようか!?」 

 

 「私でもいいですよ!」 

 

 「かぁ~!嬢ちゃん達にそう言われちゃあな・・・食うぞ!赤身から、どれ・・・もくもく・・・おお!しっとりしてきゅきゅっといい噛み応えだ!焼いた肉とは全然違う旨味だ!もぐもぐ!うんお!?脂のある方は甘味のこくがあってまたうめぇ!?口ン中でじゅんわり溶けてく!タレとよく馴染むな!なるほど!ここで米か!くぅ~!うめぇ!・・・・次には細切りの方を・・・・こりゃ!極上に美味いな!卵だ!この卵黄がクリーミーで滑らかになってやがる!」 

 

 「うわ~ん!食べたい!」 

 

 「まだレオンさんがステーキ食べてないでしょ、折角なんだから感想きいてから食べましょう」 

 

 「わりぃな!嬢ちゃん達!でもこりゃ最高だぜ!地龍も全部が全部美味いとは限らねぇ、沼地にいる奴はどうしても泥臭かったりするもんだ。所がこいつは脂も美味いが、赤身の旨味が際立ってやがる!どれステーキも・・・・・くぅ~~!これだよ!肉!極上の肉だ!生も悪くねぇ!否驚くほど美味かった!けど俺はやっぱりステーキが好きだ!どっしりとした肉の旨味に脂の甘さ!シンプルにがつんと美味い!程よい硬さもあり、悪くねぇ!前に食った地龍も美味いと思ったが、やっぱりそれ以上に今回の方がうめぇ!」 

 

 「さて、俺達も食べてみよう、もぐもぐ!さっぱりと食えるな!こりゃすげぇ!ユッケもめちゃうまいじゃん!」 

 

 「おいし~い!高級って言われるだけあって濃厚な味がする!脂身は少ないのに!しっとりあま~い!」 

 

 「卵黄で滑らかなのも食べやすいです!これは人気でますよ!刺し身も腹痛にかからないなら怖くないですね、安心して食べれます!それだけでもお兄ちゃんの料理は凄いです!」 

 

 「鉄砲貝なんかは生が死ぬほど好きな奴らが多い、それを腹痛にならずに安心して腹いっぱい食えると知ったら、鉄砲貝を旦那の所で出したら、狂喜乱舞してくる客もいるだろうな」 

 

 「うちは寿司なんかもやってますからね、他では食べれない刺しや生で食べたいものがあったら持ち込んでもらおうかな?ただ明らかに腐ってしまった物までは無理なんであくまでも新鮮な物に限りますけど」 

 

 「十分だろうな、今度俺にも寿司を食わせてくれよ!マスター達が絶賛してたぜ、あんな美味いもん食ったの初めてだって、それは美味そうに語るんだよ!堪ったもんじゃないぜ!なぁ頼むよ旦那!」 

 

 「いいですよ、ある程度仕込んでるのもありますし、今度の休みにでもレックスさんも呼んでお寿司パーティーしましょうか?」 

 

 「やった~!お寿司パーティーだぁ!」 

 

 「頼んでみるもんだなぁ!ありがとう旦那!」 

 

 その前に鍛冶屋さんで包丁買わないとなぁ、地龍とかよく切れる包丁ほしいな。 

 

  試される常連客その2 

 

 -SS級冒険者兼侯爵貴族 ガウェイン・フォン・サード

 

 冒険者貴族集団、クラン、ラウンズに所属する、第三席でこの国が認めるSS級冒険者である。 

 

 この街を治めてる、第一席アーサー・フォン・ドラゴンの命を受けて、街に突如現れた建物と八百万がどんな店か、確認してくる様に遣わされた。 

 

 建物に関しては、外から見る限り未知の構造であり、商業ギルドのSSS級冒険者兼商人のライブラのギムレッドが仕切っているらしく、深く確認追及する事ができなかった。 

 

 そして今俺は八百万なる恐らく庶民の飲食店である店の列に並んでいる・・・・・一体人々が何に惹かれているかはわからないが、この人の列が高々一飲食店が作りあげていると思うと、とてもじゃないけど信じられない。 

 

 高々一回飯にこんな列を作ってまで、並んで食べる価値はあるのか?貴族のレストランが一般に開放されれば確かに人は集まるかもしれない、だが聞けば八百万は一般大衆の店、それとも出す食材がとても高価なものなのか?それを激安で売っているとかか? 

 

 貴族が一般人に混じって列に並ぶなんて、ランスロットの奴なら絶対嫌がるはずだ、道理で俺にこんな調査の仕事がくるはずだ、俺は話の分かる男だ、それでも一応は貴族なんだがなとなんとも言えない気持ちになる、それに並んでも所詮出てくるのは庶民の飯と思うと大して期待もできない。 

 

 でもこの列の奴らは誰も文句の一つも言わず、綺麗に並んでやがる、気の短い冒険者なら待たされる事に苛立ちを覚える奴もいるだろう、それなのにどいつもこいつもお行儀よく、むしろ近くの奴と楽しそうに談笑しながら、自分の番を待っている。 

 

 不思議な光景だな。 

 

 俺も一人で来るんじゃなかったな、せめて話相手でも連れて来るべきだったと思うと、店から出て来たのは、笑う大災害一撃のフィガロ!海の悪魔、海神ルーカス!デストロイプリンセス、返り血のニーア!。 

 

 この三人が見えた瞬間に、ガウェインは最大限に自分の存在感を消した。 

 

 それだけSSSの称号は重く、強い、そしてSSとの差は山脈の山々を登るが如く遠い、SSSにランク付けされる戦力を持つ者が理性なく暴れたら、相対する国は同じだけの戦力をぶつけるか、滅ぶかの二択を選ばなきゃいけない程、彼らが本気になれば、貴族や王族などと言った肩書など関係なくなる、国や民あっての王や貴族である、ではその国がなくなったら?それが実行できるのがSSSであり、国家連合国の同盟達が危険と警鐘を鳴らす人物達である、複数の国家、連合国に認められて初めてSSSを名乗る事が出来る。 

 

 そんな超大物達が通う店・・・・・ガウェインは滝の様な汗をかく、アーサーの野郎!この事を黙っていやがったな!?自分の領地にいるSSSの冒険者を把握していないはずがない!?だが、俄然興味が湧いてきた、そんな英雄達が通う店、興味が出て来た。 

 

 店にはいると、特に変わった事はない、ちょっと東国を思わせる様な装飾がある普通の店だ。 

 

 席に座ると、メニューはなく、一日一日日替わりで料理が運ばれるらしく、今日は・・・。 

 

 「今日は地龍のステーキ御膳だよ!常連のレオンさんの差し入れで大特価銀貨5枚だよ!みんなレオンさんを見たらお礼いってね!」 

 

 レオン?聞いた事がある様なないような?それにしても地龍が銀貨5枚か、安いな、まともな店なら小金貨2枚はするはずだ。 

 

 それでもSS級にとったら地龍も珍しい物じゃないし、小金貨2枚も大した額ではない、まぁ一般人にしたら小金貨2枚もするものが銀貨5枚で手に入る、食べれるんだ、列が出来るのはこういった事か?と納得した。 

 

 「は~い!地龍のステーキ御膳だよ!刺し身にユッケ、寿司の5点握りに骨から出汁をとったスープ!お替りはお米はただ、お肉は銀貨2枚だよ」 

 

 目の前に出されたのは、生肉を切ったものに、細切れの生肉に卵黄も生だ!おいおい!俺は未開の原人じゃないんだぞ!?生肉を食えってのか!? 

 

 「お兄さん、ここの料理は絶対腹痛にならないんだよ!聖女クリスタ様のお墨付き!もちろん食べてまずかったら、お代はお返ししますよ」 

 

 聖女クリスタ・・・・女神の代行者クリスタのお墨付きか、それならまぁ信じよう。 

 

 ただまずかったら、速攻で帰らせてもらう!

 

 決意して肉をタレにつけて、食う!? 

 

 「おっ!これは・・・・」 

 

 今まで地龍をこんな食い方なんかしなかった、程よい弾力にさっぱりとした旨味が溢れ出てきて、臭みなどなく、いい味が出ている!?知らないぞ!長年狩ってきて、食べてきて!こんな地龍の味!俺は知らない!? 

 

 もう一つ、こっちは少し火が入っている、これも美味い!噛みやすく、さっきより脂の旨味を感じる、数回噛んで喉奥に消えていく、美味い!? 

 

 ユッケ!タレに卵黄が絡み合い、クリーミーでねっとりとして美味い!米を食べてみる、なるほど!この味に米が良く合う!互いに支えあい美味さが複雑になり、玄妙な味になっている!そして赤いこれは塩漬けか?辛い!これはネギか!香味野菜を何か辛い塩漬けにしている!これも美味い!癖になる美味さだ!肉以外のスープに煮物も美味い!これは計算されているのか!!貴族である私が知らない世界の味!知らない世界の幸福感!なんだこれは!なんだこれは!引き込まれる!怒涛の美味さだ!。 

 

 そしてこの寿司?と言ったか?これどこかで聞いた事がある様な・・・・・そうだ!?アーサーが子供の頃爺さんに聞いた、一度だけ食べた事のある料理とか?アーサーはそれを羨ましがって、俺達にも愚痴をこぼしたもんだ・・・・・同じ物かどうかわからんが、食ってみる価値はある。 

 

 寿司、米の上に地龍の肉が乗っているだけに見えるが・・・・・・。 

 

 「こいつは美味い!?・・・・・おっと失礼した」 

 

 これは美味い!味のついた米!ピリリと鼻を抜ける辛さ!舌の上で解ける米に地龍の肉が絡み合う!もう一つ!こっちは炙ってあるのか!食感が良くとろける様に消える!次は白い差しが入っている、これは脂の旨味か!サラサラと舌を喜ばせる!次は薄ピンクの綺麗な身!おおおお!こいつが一番強い旨味を放っているかもしれない!そしてトロリ、ねっとりと舌に絡み、気持ちの良い余韻を残しながらも消えていく!どこまで!どこまで俺を魅了すれば気が済むんだ!これがアーサーの求めたものじゃなくてもいい!これは俺が求めた!俺の寿司だ!最後に黒いものに包まれた奴を、おお!風味の良い香りが鼻を抜ける、そしてごろごろと上に乗っている赤い地龍の肉がどっしりとした旨味を放つ、これは脂の旨味とは違い、独特な肉の味だ! 

 

 怒涛の寿司五貫に放心しながらも、目の前のメイン、そうステーキを見つめる。 

 

 シンプルな塩と胡椒だけなのに、地龍とはこんなにも美味かったか?他の店で食べた地龍はこんなにも俺に感動を与えてくれたか?答えは否だ!だがこのステーキはシンプルなのに、こんなにも美味い!何より肉を感じる!一本芯のあるどっしりとした肉の味に地龍の生命力を感じる。 

 

 ああっ!?美味かった!!!!!!。 

 

 俺は店を後にして考える、アーサーにありのままの事を伝えるべきか?調査に時間がかかるといい、当分俺だけで楽しむか、友人の為を思って言えば、寿司の事を一刻も速く伝えてやるべきなのだが、なんともいえない欲が、もう少し味わってからにしようと囁くのだ!ああっ悩ましい!

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