第13話初めてのお客さん レッドクリスタルボアのトンカツ定食

-食道楽の冒険者ー 

 

 今日はこの街に新たに出来た飯屋にいく、なんで新たに出来たのか知っているかって?そりゃ冒険者ギルドでも商業ギルドでもあれだけ開示版にでかでかと書いてあったら興味でるだろ? 

 

 ニーアギルドマスターも商会長のギムレッドさんも、ただの飲食店が開店するのにこんな広告までするなんていままでなかった、そりゃあ興味も出るってもんだろ。 

 

 俺以外にも興味を示しているのは何人かいたが、多くの人間は、ああそう?って感じだったな。 

 

 街の外れにある定食屋、八百万、ここだ!。 

 

 扉を横にスライドさせ、中に入ると。 

 

 「いらっしゃいませ!何名様ですか?」 

 

 狐人族の子か?まだまだ遊びたい年頃だろうに、お店の手伝いかな? 

 

 「一人だ」 

 

 「お好きな席へどうぞ!」 

 

 どうやら俺が一番乗りらしい、メニューなんかは見当たらないが? 

 

 「お冷とおしぼりになります。当店は日替わり定食のみで本日はトンカツとなっておりますが、よろしいでしょうか?」 

 

 「なるほど、日によってメニューが変わる一品だけ扱っているのか、ああそれじゃあ、そのトンカツとやらを頼む」 

 

 「ご注文いただきました~!」 

 

 するとじゅうじゅうと音がする、トンカツとやらは油を使った料理か?なんとも食欲をそそる匂いだ!期待してしまう!。 

 

 少し待つと、運ばれてきた料理。 

 

 油で揚げられたのは、レッドクリスタルボアの肉!う~んあまり上等な肉ではないな、レッドクリスタルボア、見た目は美しいが、肝心の旨味成分も体内で精製するクリスタルに栄養をもっていかれていくせいか、肉の味はいまいちなはずだ。 

 

 パンくずをつけて揚げたの、なんとも香ばしい!そして赤くキラキラ光る肉がなんとも食欲をそそる見た目だ! 

 

 まだだ問題は味だ!見た目は美しくても、味の劣る肉だ、まずは一口。 

 

 私はフォークで肉を拾い上げると、口に運ぶ。 

 

 「うん・・・・これは!?」 

 

 サクサクとしていて、噛めばじゅわっと溢れる脂、それでいて肉がどっしりと旨味を放っている!なんだこれは!?レッドクリスタルボアだぞ!?以前に食べたパサパサとして面白みもない、旨味の抜けた肉とは全然違う!?程よい噛み応えに反発する肉は、おれの旨味はこれだ!と主張するようではないか!? 

 

 「あっ!そうだ!トンカツはソースをかけて食べるともっと美味しいですよ!」 

 

 「なに!?ソース?」 

 

 お盆の中にある黒いソース、黒ゴマがすりつぶされて入っているのか、少しつけてまた口に運ぶと。 

 

 おお!?ソース!酸味と甘みがありながらゴマの風味が際立っていて、これはあるとないとでは話が変わってくる!?肉の出す旨味とあい美味さが格段に跳ね上がる!。 

 

 白い米!これもいい!トンカツによく合う!濃い味のトンカツをもちもちとして甘味を放つ米がどっしりと受け止める!なるほど!この組み合わせは素晴らしい!? 

 

 次にこれは?塩漬けか?野菜の甘味に丁度いい塩、これと米の相性もいい!そして茶色いスープ、これがまたいい味ではないか!すっきりとしてリセットされる様だ、もう一つの小鉢はサクサクとして甘辛い味がする、これもまた米が食いたくなる味だ!。 

 

 ここでトンカツの皿にレモンが添えてある事に気が付いた。 

 

 まさか・・・これも絞ってかけてみるのか?。 

 

 恐る恐る少しだけ、トンカツにかけると。 

 

 うん!これはなるほど!爽やかになって悪くないじゃないか!油っぽいのが苦手ならこれほど食べやすくなる事はないだろう!なんだなんだ!八百万!凄い店じゃないか! 

 

 米が無くなり、キャベツを食べると、ソースとキャベツの相性もいいのだとまた理解した。 

 

 「ご飯のお替りは自由ですよ~」 

 

 「いいのか!?すまない頼む!」 

 

 米のお替りが自由だと!?う~むそういえば値段を聞いてなかったが、これだけサービスがいいんだ、それなりの値段するのだろうな、それになんといっても美味い!これはちょっとそこいらの飯屋と比べると話が変わってくる、中には味のしないスープを出す店や、何とも言えない肉を適当に焼いたモノを出す店もある、だからいいもの食いたいなら、金は惜しまず出すのだが、高級な食材をつかって味に工夫をしない店は五万とある、素材が美味いから素材の美味い物を集めるのに必死で、肝心の調理は雑な店やあまり手を加えない店、料理人が調子に乗って俺の調理は完璧だ!といわんばかりの店など、辟易する店ばかりだ。 

 

 丁寧に米をもってきてくれて、その米を受け取ると、またカツと米のハーモニーを味わう。 

 

 トンカツ!これはよくできている!ただパンくずをつけて揚げただけ?冗談ではない!?サクサクふわりとした軽い触感にぶ厚い肉にしっかり火が入っている、見た目美しいだけじゃなく味も宝石級に美味い!平凡だった肉をこうまで美味に仕上げるとは!肉にしっかり一本の芯がある様な旨味だ!ソース!レモン!顔をかえる旨味の変化!なんという満足感!俺は肉を食った!美味い肉を食ったんだ!。 

 

 ふぅ~と一息吐くと、味噌汁を啜る。 

 

 この最後の味噌汁が興奮した俺を落ち着かせてくれる。 

 

 にやけ顔になりながらも席を立ち会計をしようとすると。 

 

 「お味のほうはいかがでしたでしょうか?」 

 

 「ああ!大満足だ!こんなに満足したのは久しぶりだ!また寄らせてもらう!」 

 

 「ありがとうございます!お会計銀貨一枚になります!」 

 

 銀貨一枚!?なんだと!安い!安いぞ!米もお替りしたのに銀貨一枚!?本当にいいのか?儲けはあるのか?こんなに美味いんだ!簡単に潰れてもらっては困る! 

 

 「本当に銀貨一枚でいいのか?」 

 

 「はい!銀貨一枚です!」 

 

 なんだか申し訳ない気分になりながらも、銀貨一枚を少女に渡した。 

 

 「ありがとうございました!またどうぞ!」 

 

 店を出ると、魚屋ルーカスに肉屋のフィガロ、ギルドマスターのニーア、聖女クリスタ、商会長ギムレッドがわいわい話しながらこちらにやってくる。 

 

 「おっ俺達が一番乗りじゃなかったかぁ」 

 

 「冒険者の旦那!どうだった?美味かったかい?」 

 

 急に声をかけられて驚くが、俺はどこか誇らしく答えた。 

 

 「美味いなんてもんじゃない!大満足だ!こりゃぁ流行るぞ!」 

 

 「だっはっはそうかそうか!じゃあ俺達もいただきにいくか!」 

 

 そういうとルーカス達は店に入っていった。 

 

 俺は悩む、あの店を美味かったと宣伝するべきか、当分独り占めの様に俺だけ味わうか、だけどなんだろう、自慢したい気持ちで心の中はいっぱいだった。 

 

 俺はあの店にいくって事は結構な人数が知っている、もし聞かれたら思いっきり自慢してやろうかな? 

 

  初めてのお客さんも問題なく接客も大丈夫だったと思う、なんとか無事にお客さんに料理を出す事が出来た、初めての事なのでどきどきする。 

 

 ねねが積極的に接客していたが、ねねが見ていた限り凄く美味しそうに食べていたとのことなので、満足してもらえたのだろう。 

 

 「お~いやってるか!」 

 

 「いらっしゃいませ!フィガロさんだ!」 

 

 「俺達もいるぞ、5人前頼む」 

 

 「ルーカスさんにニーアさんにクリスタさんにギムレッドさん、いらっしゃいませ!」 

 

 「可愛い店員さんだわ」 

 

 「今日はどんな料理なんですかねぇ!気になります!」 

 

 「今日はレッドクリスタルボアのトンカツになります!お兄ちゃん!5人前お願いします!」 

 

 「リリちゃんは裏かい?」 

 

 「うん!お姉ちゃんはいったりきたりして、どっちも手伝ってるの!」 

 

 仕込みの段階でも二人は手伝ってくれるので、かなり助かっている、やっぱりちゃんと一か月の稼ぎからお給料出さないと駄目だよな、仕入れ値に商業ギルドに収めるお金を引いて売り上げが出る、次の仕入れのお金や何かあった時の為にある程度お金も確保しておかなきゃいけないだろうし、経営の方は初めてなので、中々難しい。 

  

 小鉢を並べて、トンカツが揚がる少し前に味噌汁とご飯を用意、キャベツとレモン練り辛しが添えられている皿に、切ったトンカツを乗せればあとは運ぶだけ、出すメニューが決まっているから素早く用意できるのがいい。 

 

 「おまたせしました~」 

 

 「おお~美味そうだ!」 

 

 「レッドクリスタルボアとは、見た目は美しいですけど肉は今一のお肉ですよね」 

 

 「食べてみればわかるんじゃないか?見た目は最高に美味そうだぞ!」 

 

 「どれ!うぉ!サクサクだな!んん?しっかり肉の味がしていいじゃないか!?悪くないどころか美味いぞこれ!?」 

 

 「噛み応えがあって、ちゃんとじゅわっと旨味が出るじゃないか!クリスタルボア!いいじゃん!」 

 

 「肉屋の俺が言うのもなんだが、ごりごりとした食感じゃないな、ちゃんと歯で噛み切れる柔らかさだ、これは肉に味つけもしてあるのか?」 

 

 玉ねぎにつけて、一~二時間寝かせて、塩コショウで下味をつけて筋切りもしてある、少しだけパプリカパウダーとガーリックパウダーを本当に少しだけまぶしてある。 

 

 「サクサクなのにどこかふんわりしているのが気になる!固くないんだよな!」 

 

 「これも商会で売ってほしいレシピですね!付け合わせの漬物とごぼうの甘辛いのがまた箸休めにいいですね!それになんとも言えないのが、東国の米!もちもちとして粒を感じられて、ねっとりとほんのり甘味がある!これがトンカツと合うんですねぇ!」 

 

 「あたしも思ったんだ!ここの米はうまいよな!パンもいいけど米も好きになった!」 

 

 「これだけ美味しいんですから、米をもっと積極的に広めてもいいかもしれませんね。教会でも広めてみるのもいいかもしれません」 

 

 「商業ギルドでも広めるのもいいかもしれませんね。値が張る物でもありませんから、パンが買えない人や飽きたなんて時は米も選択肢にはいるのはいいかもしれません」 

 

 みんな思いの他米も気に入ってくれているみたいだ、この分ならチャーハンとかオムライスとかも出せるかな?。 

 

 問題は魚料理を作る時だなぁ、魚の料理といったら刺身とか煮つけとか焼き魚くらいしか思いつかない、魚料理のレパートリーが殆どないんだよね、ネットで調べてみようかな? 

 

 「ソース!これも美味いな!ゴマのアクセントがいい!」 

 

 「レモンもさっぱりして美味しいです~」 

 

 「あたしは辛しが好きかな?癖になるよこれ!」 

 

 「色んな食い方があるなぁ」 

 

 「食い応えがあるのが俺は好きだな、よくこのぶ厚い肉を美味い具合に火が入ってるもんだ」 

 

 「あのごりごりとした食感にぱっとしない味の肉が、こんなにしっとり柔らかくなって独特の旨味を放つなんてなぁ、すまん!米のお替りもらってもいいか?」 

 

 「は~い!お替りは何杯でも自由ですよ~」 

 

 「私もお替りします!」 

 

 「あたしも!」 

 

 「僕にもください!」 

 

 「俺もだ!」 

 

 お米はこっちの世界のお米を使ってないから、こっちの世界のお米はどんな味がするのだろうか?日本のお米は品種改良を重ねて美味しいお米になっているからなぁ、それに色んなブランドがある、安い=悪い、品質が劣るとは限らない、それくらい日本の米は美味いんだよな。 

 

 その後お客さんは物珍しさを求めてか、何組かのお客さんが入った。 

 

 本日の売り上げは銀貨25枚、25人のお客様にトンカツ定食を食べてもらう事に成功した、10キロあったお肉も丁度完売してお店を閉めた、銀貨3枚で10キロで銀貨2枚はギルドに収める、銀貨20枚の純利益にねね、リリ、俺に銀貨5枚、残りの五枚は次の仕入れや何かあった時の為にとって置く、昼のちょっとした営業で銀貨5枚はお給料的にどうなんだろうと聞いたら、凄い喜んでくれてたので大丈夫なのだと思いたい。 

 

 そもそも薬草など5束集めて銀貨一枚・・・う~んやっぱり銀貨5枚に拘束時間を考えると安いかもしれない、外の危険はないとはいいつつも、この稼ぎならホーンラビット捕まえた方がお金になるとか思われるかも知れない、何せねねでも捕まえられるお肉だから、数こなせばそっちの方がいいのかもしれない、もっとお客さん増えないと駄目かぁ・・・。

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