第14話雫牛の仕入れと試食 雫牛のすき焼き定食

 料理屋ってやっぱり大変な仕事なんだなと、始めてみて更に痛感した。 

 

 俺の所はあらかじめ決められたメニューを出すだけだけど、居酒屋や定食屋さんなんかメニューが沢山あってそこからお客さんが選ぶわけだから、何が注文されるか未確定な所だ、更にどれが人気でお客さんが沢山注文するかわからないから、あまり注文されない料理の食材なんかもある程度確保しておかなきゃいけない、そんな中しっかりばっちり利益を確保しているんだから、凄いの一言だ。 

 

 しかもテレビなんかでやってる人気の定食屋さんは、やたらと安かったり、大ボリュームだったり、本当に儲けはあるんですか?大丈夫なんですかと不安になるくらいサービス満点だったりする。 

 

 とてもじゃないが俺には簡単には真似出来る様な物じゃない。 

 

 子供のお遊びの様な定食屋なんだが、フィガロさんやルーカスさん達には喜んでもらっている、昨日の初日にも結構なお客さんきたし、これからどうなる事やら。 

 

 さて朝起きて、フィガロさんの所に仕入れにいく、今日はどんなお肉があるんだろ? 

 

 「おはようございま~す」 

 

 「おっきたな」 

 

 「今日のおすすめなんかあります?」 

 

 「今日はマッスルタウラスにボア、フォレストタウラスにフォレストボアなんかは一般的な肉になるな、鳥ならサンダーバード、美味い肉なら輝き鳥なんかもある、他にはクリスタルディアーに高級なんだが大捕り物があったらしくてな、雫牛が沢山入ったんだ」 

 

 「へぇ~美味そうだけど、高いんだろうなぁ」

 

 「そりゃなぁ、1キロ金貨3枚って所だ」 

 

 1キロ三万かぁ・・・やっぱり美味い肉は高いなぁ。 

 

 「切り落とした余分な所なら安く売ってもいい、どうせ捨てるか動物達の餌だからな」 

 

 「マジで?見せてもらってもいい?」 

 

 切り落とし肉は意外としっかり肉してるな、ちょっと薄かったり、脂の部分だったりだけど赤身の部分もしっかりついてる。 

 

 「これいくら?」 

 

 「大量にあるからなぁ、処分って事で20キロで金貨1枚でいい」 

 

 20キロが一万円!?安いな!! 

 

 「買うよ!」 

 

 「毎度!」 

 

 いい買い物をした、高級和牛の切り落としなんかもっと高いぞ、どう考えても切り落とし1キロ6000円はするはずだ、20キロで一万なんて馬鹿安すぎる、なんか裏でもあるのかと思いたいぐらいだ。 

 

 この肉ですき焼き定食でもいいし、牛丼なんかもいいかもなぁ。 

 

 糸こんにゃくと豆腐は日本の物を、野菜のお店をみてみるとここにも珍しい食材が売ってる、しかも比較的に安い。 

 

 姫シイタケに鳥マイタケ、王玉タマネギに竹シメジ、白雪長ネギ、どれも美味そう!匂いがいい!野菜だけでもごちそうじゃないか!紅玉トマトにクリーミートマトも購入しよう!ミートソースパスタも作れるぞ! 

 

 スキレットの様な鍋も沢山ある、食器類が充実しているのがここに引っ越してきて一番助かってる所だ、もちろん田舎で人が寄り付かず、山も自由にしていいって所も気に入ってる、異世界だと街のはずれだから、意外とねねとリリを現代のこっちの山とか見せてやっても喜ぶかもしれないな、走り回って喜ぶかもしれない。 

 

 今日もねねとリリを置いてきたからねねあたりは怒ってるかもしれない、でも部屋に入って起こすのもなぁ、俺の家で寝泊まりするようになってからは、ぐっすり眠れているみたいでよかったよ。 

 

 「ただいま~」 

 

 「おかえり!!なんでねねを置いていったの!?」 

 

 思いっきり突撃してきたので、腹が痛い、半泣きのねねの頭を撫でながら慰める。 

 

 「悪かったよ、でも起こされるより、自分で起きた方がすっきりと目覚められるだろ?」 

 

 「そうだけど~」 

 

 「おかえりなさい斗真さん」 

 

 「ただいま、リリ、掃除してくれてたんだな、ありがとう。リリも斗真さんじゃない兄ちゃんって呼んでくれればうれしいんだけどなぁ」 

 

 「でも・・・」 

 

 「リリもまだまだ子供なんだから、遠慮しなくていいんだぞ」 

 

 俺はリリから預かってるバックを返して、中の食材を冷蔵庫に入れていく。 

 

 早速試食用に作ってみよう、おっと卵もいい卵だぞ、黄身がクリーミーで美味いとお勧めされた、鳳卵だ。 

 

 朝からすき焼きなんて胃に負担がかかるかもしれないから、一人前を三人で食べよう、ご飯も炊いてあるし、味噌汁もある、漬物もあるし、サトイモの煮物もある。 

 

 醬油、砂糖、みりん、水で煮詰める様に火にかける、そんでもって昆布に水をつけていた、昆布水で味を調節しよう。 

 

 野菜は丁度いい形に切って、牛脂を敷き、長ネギから焼いて、次に肉、そして具材を入れていく、う~ん牛肉は火を入れすぎてもいけないから、一枚一枚自分で管理してもらう方がいいかもしれないな、しゃぶしゃぶみたいに自分で確認して、レアならちょっと潜らせれば食べられる、他の具材は鍋でだして、肉は別皿にしようか。 

 

 「さて、食べようか」 

 

 「匂い嗅いでたらお腹すいちゃった~!」 

 

 「美味しそうな匂いです!」 

 

 「鳳卵はお店で浄化をかけている新鮮なの選んできたから、生でもたべれるんだ、生卵をといてそこにお肉を潜らせて食う!!うぉ~流石いい肉!甘くてとろけるみたいな美味さだ!米!米が食いたい!!もぐもぐ!!!」 

 

 「ずるい!ねねもねねも食べる!卵に潜らせて・・・もぐ!ふわぁ!美味しい!それにまろやか~!本当だ!ご飯が食べたくなる!」 

 

 「とろける様な脂身のお肉なのに、赤身もしっかりしていた、卵の濃厚さと喧嘩しないなんて、鳥マイタケのこりこり感、竹しめじのサクサク感もいいアクセントですね!なんといっても白雪ネギの甘くとろりとした感じがまたたまりません!」 

 

 「野菜も滅茶苦茶うまいね!さいこー!」 

 

 「豪華だね!まさか銀貨1枚なんていわないよね?これなら三枚はもらえるよ!」 

 

 これだけ喜んでくれるなら、大丈夫だろう、それにしても銀貨三枚かぁ、10組もお客様がくれば元とれるなぁ 

 

  -それなりに美味い物を食べて来た冒険者ー 

 

 昨日から冒険者の中で噂になっている飯屋、そうたかが飯屋でこんなに盛り上がってるなんて、どんだけ話題がないんだっつー話だ。 

 

 王都も比較的に近い大きな町、海辺の街もダンジョンも近くて、王都より住みやすく税金も安い、領主である公爵は人柄も良く、もしかしたら王家より人気があるかもしれない、公爵様が治めてくれる街だからと王都から越してくる奴らも多い位だ。 

 

 大物も多い、冒険者ギルドマスター暴虐のニーア、教会に所属して教皇さえ従える鮮血の聖女クリスタ、計算高くそれでいて公平に物事を見る、商業ギルドマスター、天秤の異名をもつライブラのギムレッド、ダンジョンから入ってくる肉を統括している肉屋のフィガロ、一撃で魔物を仕留め綺麗に獲物を仕留める事で有名な、一撃のフィガロ、海上戦をもっとも得意として地上でも猛威を振るう、魚屋のルーカス、海神ルーカス、そんな大物達がこぞって集まる食堂があるとかないとか。 

 

 そんな大物達に願われて渋々飯屋を始めた店が、この街の外れにあるって話だ。 

 

 だがおかしな話だ、街の外れと言えば狐人族の冒険者夫婦のなわばり、基購入した土地だ。 

 

 獣人の冒険者にして英雄、誰もが憧れた、一緒に戦う事があればそれを誇りに思う様なそんな戦士、ナインテイル、阿修羅のガロと災害の美女アセリア、異教の神の復活を阻止して一時的に復活した悪神を討伐したが、神の呪いにより帰らぬ人となってしまった。 

 

 残された娘達に遺産が相続されたと聞いたが、両親念願の宿を作るのにあと少し足りないとかマスター達がやたらと気にしていたな。 

 

 公爵様否国王様ですら、残された英雄の子達を心配している。 

 

 そんな中最近急に飯屋が出来たって?しかも噂じゃ食いに行った大半の冒険者は絶賛してたって言うじゃねーか。 

 

 なんとなしに街はずれに足が向かう。 

 

 げぇ!遠目から見てもまさかあの並んでるのが、噂の飯屋か?噂が出たのは昨日だぞ!もうこんなに並んでるのかよ。 

 

 折角来たので、なんとなく俺も並ぶ、うぉ!ここからでも美味そうな匂いが・・・・・美味そうな匂いかぁ、いつからだろうな食いもんに頓着しなくなったのは、そこいらで適当に買っても、まぁそれなりに美味い、こんなもんだろって味だ、どこもかしこもそんなもんだから、飯に拘るなんて事したことなかったな。 

 

 ダラダラと立っていると、俺の番が来た。 

 

 「一名様ですか?」 


 「おう、ってねね嬢ちゃんじゃないか」 

 

 「そうだよ!ねねお手伝いしてるんだ!」 

 

 「そうか・・・楽しいかい?」 

 

 「楽しいし!美味しいよ!お兄ちゃんの料理は凄く美味しんだから!」 

 

 「ねね嬢ちゃんがそう言うなら、期待しちゃうなぁ」 

 

 「今日はすき焼き定食!銀貨三枚だよ!」 

 

 銀貨三枚か、まぁ普通だな、美味いもんはどうしても値が張るもんだ、席に座って周りを見ると、熱心に味わって食べる奴もいれば、何人かで談笑しながら食ってる奴らもいる、ほとんどの人間が楽しそうな嬉しそうな顔してやがる、どいつもこいつもだらしなく顔を崩しやがって。 

 

 「うん?水美味いな」 

 

 「サービスだからね、何杯飲んでもタダだよ、それにご飯のお替りもタダだからね」 

 

 この水がタダ!?随分透き通って上等な水だが、それにご飯?米って奴か、あれもお替り自由なのか・・・大丈夫なのか?この店。 

 

 運んできたのはリリ嬢ちゃんで、火をつけるとその上に熱々の鍋を置いた、なるほど温くならない様に火をつけたのか、米にスープ、野菜の煮た物かこれ?それに塩漬けかな?。 

 

 「お肉の追加は別料金になります、最後の残ったスープで米と溶き卵を入れると締めとして最後まで楽しめますよ、スープが少なくなったら足す事もできますから、お申しつけください」 

 

 「おう、ありがとう」 

 

 目の前の鍋、小さく見えるけど一人前にしては豪華な鍋だ。 

 

 肉が別皿であるのは、入りきらなかったからか、自分で好きな火加減で食えとの事だ。 

 

 まずは肉を食う!うおおお!こりゃいい肉じゃねぇか!?とろける美味さにスープの味が絡み合って何とも言えない美味さだ!次に米を食ってみる、なるほどと言わざる得ない組み合わせだ、肉を食い、米を食う!あっという間に米を食い終わってしまった。 

 

 「すまん!お替りを頼む!」 

 

 「は~い!」 

 

 落ち着け!ゆっくりだ、ゆっくり味わって食うんだ、ぷりぷりとした姫シイタケがじゅわっと旨味を出す、鳥マイタケのサクサク感、竹しめじのコリっとした触感、なにより白雪ネギが煮込まれて、これでもかと美味くなってる!白くて四角い食べ物これも美味い!糸の様なぷるぷるした奴、まるで迷宮で次々とお宝を発見したかの様なワクワク感に楽しさ!。 

 

 「すまん!!肉追加してくれ!?」 

 

 つい大声を出してしまった。 

 

 「はい!ただいま!」 

 

 運ばれてきた肉もボリュームがある!文句なんて一つもねぇ! 

 

 最初はちょっと抵抗があった、卵につけて食べる?そんな食べ方見た事も聞いた事もなかったからだ、だがこれは正解だ!熱々の肉を卵に潜らせる、濃いタレと卵の旨味が絡み合って、複雑な美味さを再現させる、野菜達も卵に潜らせても美味いし、そのままでもまた別の美味さを味わえる! 

 

 合間に挟む漬物がなんとも言えない味わいで、野菜の煮た奴は芋か?ねっとりとしてまた違う美味さを表現する、インゲンのサクサクしたアクセントもいい!! 

 

 そして火照った体に、冷えた水がまた美味い!!! 

 

 そろそろ締めといったか?どうすればいいんだ?俺はねね嬢ちゃんを見ると。 

  

 「締めですか?残った出汁にご飯を入れて、溶き卵をいれて、おネギをちらせば完成です。どうぞ!」 

 

 「ありがとう、ねね嬢ちゃん。一人前の店員さんだな」 

 

 「ありがとうございます!」 

 

 煮込まれた野菜や肉の旨味の残った出汁が、米と混ざり合い、濃い味が溶き卵と混ざりまろやかになってやがる!もちもちとしていた米はどこかとろみを出し始め、喉を通る熱さととろけ具合がまた

俺の胃袋を喜ばせるんだ! 

 

 美味い!間違いなく美味かった!一息ついて、熱くなった体に水を入れ落ち着かせる。 

 

 昨日の今日で並んでるはずだ!こんだけ美味かったら確かに納得する。 

 

 「美味かった。また来るよ」 

 

 「ありがとうございました!」 

 

 なんとも言えない、フワフワとした心地よい感覚を体に覚えながら、俺は満足してまたギルドまでいった。 

 

 ギルド内ではまた例の飯屋の話をしている奴もいた、そんな噂話を遠くから聞きながら満足した俺は椅子に座って、一人笑うのだった

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