第12話ねねとリリ2 仕入れと試食
ーねねとリリー
急に現れた不思議な隣人の斗真さんは、人族なのにとても優しく、そう凄く優しい目で私とねねの事をみていました、そしてシチューと言うスープを一緒に食べた。
体全体が衝撃で震える程美味しかった、この世の中にこんなに美味しいものがあるのか!?お父さんとお母さんとねねとみんなで外食をした日、ちょっと高い食事、お貴族様が食べる様な食事を庶民でも食べれる様にしたお店でもこんな衝撃はなかった。
美味しい!美味しい!!美味しい!!!ホロホロでとろけるお肉!濃厚な味!後を引く味わい!濃いのに何処かすっきりとしていて、程よい余韻が口の中で広がる!ああもう本当に美味しい!
その料理を食べて、自分は一食一食を何処か雑に扱っていたのに気が付き、両親が死んでからあまりまともな食事をしてなかった事に気が付いた。
それからも斗真さんはねねと私に優しくしてくれた、私はどこか申し訳ないと思いながらも、甘えさせてくれる斗真さんに甘えた、ねねにいたってはあれから斗真さんの話ばかり。
そんな斗真さんをルーカスさんのお店に案内すると、あの厄介者のイールを食べると言う、イールは泥臭くて、骨が多くて食べづらいけど、物凄く安く買える貧民食いと言われる魚だ、見た目が気持ち悪いと食べたがる人は少ない、それに上手く焼けないと噛んだ瞬間にじゅわっと生臭い汁が出るので、正確には貧民も食わないが正解だ。
そんなイールを嬉しそうに買う斗真さん、本当だったら止めたりした方がいいのだろうけど、凄い自信に溢れていて、それに私なんかより色々な物事を知っている大人なのだから、何かあるんじゃないかと思って何も言わなかった。
そしてイールを料理する斗真さん、初めはちょっと不安だったけど、その思いは段々と消えていく、焼きの段階に入って物凄くいい匂いが部屋いっぱいに広がった、自分の脳内であのイールを思い出して天秤にかける、凄くいい匂いだけど、イールはあのイールだ、自分でも焼いていい匂いがしたなんて経験何度もあるじゃないか、今度は上手く焼けた、今度こそうまく焼けた、そうして裏切られた事なんて何度もある、ああっそれなのにこの匂いは一体なんだろう、自分の中のイールを調理していると言う不安が、吹き飛んで、こんなの絶対美味しい匂いじゃないかと心が震える。
出されたイールは茶色くてりてりと光って綺麗に焼けている、それを食べた瞬間、皮目はサクサクとしてその下にある身はふわふわとして噛むとじゅわっと脂が出る!甘い!それに臭くない!口の中に広がるぶよぶよ感もなく、ホロホロと口の中に消えていく!美味しい!美味しい!イールの下に敷き詰められた米!前は固かったり、べとべとだったりしたけど、斗真さんのは違う!ふっくらとしてもちもちと一粒一粒が粒として感じられる!丁度いい歯ごたえがなんとも言えない、口の中が幸せになった後、ごくごくと喉奥に運んで飲み込む瞬間が気持ちいい!
あのイールが!こんなに美味しいなんて!これは凄い発見だ!みんな喜ぶ!みんな食べたくなる!みんな驚く!斗真さんは魔法使いみたい!あれだけ多くの人が諦めた食材をこんなに美味しくしてしまうなんて!凄い凄いすご~い!!ねねみたいにはしゃぎたいのを我慢して冷静に答える、これで銅貨一枚なんてとても信じられない!?
ねねは見た目5歳くらい、リリも8~10歳くらいの見た目だ、そんな10歳足らずの子が色んなことを我慢してしっかり者の姉をやっている、わからない事なんて沢山ある、こんな二人の子供が孤児院に行かずに生活出きていたのは、冒険者ギルドマスターのニーアと商業ギルドのマスターギムレッドが様子見をしてた事が大きいだろう、他にも魚屋のルーカス、肉屋のフィガロ、教会の聖女クリスタなど二人の両親と親しかった大人たちが、悪い方向に進まない様に見守っていたのが大きい、何度もうちにこないか?と声をかけたり、売れ残った食材をあげたり、それでも自分達で生きていくと言うリリの意思は固かった、周りの大人を跳ねのけるほど、だがその思いも限界に達しようとした時に現れた斗真は、まさに天啓だった。
リリは斗真にだけは何故か素直に甘えた、家で食べていけばいいと言う斗真に、両親の様な打算などない無償の愛を勝手に感じた。
斗真は斗真で田舎に引っ越して置きながら、結局は自分は人との繋がりを求めていたのだと気が付く、都会で子供とこんなにも親密になる事は万が一にもなかっただろう。
リリとねねは食事がどれだけ大切で、楽しくて、一緒に美味しいものを食べるとお互いに仲をこんなにも縮めるものなのだと理解し、命に感謝する事を教えられ、そして美味しく食べようと調理してくれる人の温かさを知った。
山菜そば、素朴な山菜達の一つ一つの個性がこんなにも主張され、一つ一つが独特の味をしている事に驚き、理解した。
丸鍋、タートルもどきとか、水辺にいるあれとか正式な名前はない亀も、物凄く美味しかった!プルプルした身に驚き、濃厚な出汁に舌が喜び、お肉がほろほろと口の中で消えるのに、シャキシャキと何処かしっかりとした繊維しつを感じる、味わった事のないお出汁は口の中でぎゅっと旨味を放つのに喉に運ぶとサラサラと嫌味なく爽やかに消えていく、そして一口もう一口と飲んでしまい、思わず全部飲み干してしまう所だった。
雑炊と言うお米と醬油と言うタレで味を調えた物は絶品だった、斗真さんが涼しい風が出る装置を使ってくれて、心地よい風が吹き抜ける中食べた雑炊は、贅沢すぎる一品で、ちょっと前まで自分は不幸の中にいたけど、斗真さんにあってから否斗真さんが幸せを運んできてくれた。
その日は斗真さんの家のお風呂に入って、汗を流し、温かいお湯がこんなにも気持ちいいのだとまた新たに新発見した、ふかふかの綺麗なお布団に横になると、驚くほど簡単に眠ってしまい、次の日もゆっくり起きてしまった。
心も体も安らいで、気の抜けた私とねねに。
「なんなら家に住めばいい、一緒にご飯もできて、きっと楽しい」
そんな一言に、涙が溢れた。
我慢しなきゃいけないのに、泣いちゃいけないのに、涙は溢れて止まらなかった、本当は思いっきり泣きたかったんだ、両親が亡くなった時も、二人で生きていかなきゃいけなくなって、本当はもっと大人を頼るべきだったんだ。
私につられて、ねねも泣いて、二人で泣いた、泣き叫んだ、お父さんに会いたい!お母さん会いたい!いかないで!置いていかないで!無理だよぅ!私だけじゃ!ねねをちゃんと育てられないよぅ!苦しいよぅ!つらいよぅ!もっと一緒にいたかった!ほめてほしかった!抱きしめてほしかった!お父さんの為に!お母さんの為に!もっといろいろな事がしたかった!会いたい!会いたい!会いたい!
泣いて、泣いて、泣いて、叫んで、その間ずっと私とねねを抱きしめて、優しく頭を撫でてくれて、優しく背中を叩いてくれて、がんばったねってえらいねって斗真さんはずっと私とねねを慰めてくれた。
定食屋?飯屋を始めるにどんなメニューがいいだろうか?その日既にメニューが決まっていて、どんな料理ならスムーズに俺でも出せるだろうか?朝仕入れて、昼までにある程度仕込んで、お昼から3時くらいまでの短い間だけ飯屋を開く、こんなもんでいいだろう。
次は何作るかだ、ほぼ捨て値で手に入るのは、魚ならイール、うなぎだ肉なら内臓類だが内臓の仕込みは結構手間がかかる、それでももし出すなら牛タンのステーキ定食とか牛タンシチューになるな。
でも折角ならこの前のクリスピーポークみたいに、異世界のお肉を仕入れて調理したいって気持ちもある。
まぁここで悩んでいても仕方がないかも、朝の仕入れの段階でどんな食材を手に入れるかわからないし、でも最初はやっぱり肉かな?フィガロさんのお店で仕入れよう。
「よう!いらしゃい!今日から昼営業なんだってな!俺も寄らせてもらうよ!」
「ありがとうございます。お待ちしております。安くていい肉なんかないですか?」
「だっはっははっきり聞くなぁ!安くていい肉かぁ」
そんな都合のいい肉なんて中々ないとは思いつつも、俺よりやっぱり本職のフィガロさんに聞いた方がいいもの仕入れられると思って聞いて見た。
「こいつなんかどうだ?マッスルボア、こいつはでかくて肉の部分がよく捕れるんだが名前の通り筋肉が多くてな、ただ焼いただけだと恐ろしく硬い」
マッスルボアか、う~ん玉ねぎで柔らかくなるかな?
「他にはレッドクリスタルボア、こいつもデカく体内に赤いクリスタルを精製する魔物でな、もちろんクリスタルは回収済みだ、肉は見てみろ、肉もクリスタルの様に透き通った赤だ、一見見た目は美しいが味は平凡でな、キャラメル豚などに比べると一段二段落ちる肉だな、元々肉には期待されてないからこいつも安いぞ10キロで銀貨3枚でいい、斗真だから原価でいいぞ」
10キロで銀貨三枚!安い!三千円じゃん!見た目も綺麗だしこれに決めた!
「買います!」
「毎度!昼楽しみしてるぜ!」
これでトンカツを作ろう!トンカツ定食なら、ご飯に味噌汁、キャベツの千切りにレモンに漬物、きんぴらの小鉢をつけて、トンカツは注文が入ったら揚げるだけ、これなら俺もでも簡単にだせるな、きんぴらも漬物も俺が簡単に用意したものだけどないよりはましだし、キャベツの千切りに至っては、手動でくるくるハンドルを回すと千切りが出来るやつを使っている。
リリとねねも手伝ってくれていたので、下ごしらえの作業が結構楽しく出来ていたりする、朝弱いのか、今日は起こさないで俺一人で出てきた、帰った頃には起きてるかな?
家に帰ると、起きてるっぽい気配がする。
「ただいま~」
「お兄ちゃん!どうしてねねを置いていったの!ねねも行きたかった!」
「ごめんなさい、斗真さん、朝はどうにも最近心地よくて」
「ごめんごめん、二人とも寝てるみたいだったから」
「明日はねねも起きる!」
「今日はどんなもの仕入れて来たんですか?」
「レッドクリスタルボアのお肉を仕入れて来たよ。格安だった」
「レッドクリスタルボアですか?あまりどんな味だったか覚えてないです」
フィガロさんが面白みのない平凡な味と言っていたからなぁ、確かにこの世界で普通の肉だったらあんまり印象に残らないかも。
俺はリリから借りたアイテムボックスからレッドクリスタルボアの肉を出す。
「わぁ!綺麗な色、お肉じゃないみたい!」
「なんだか透き通って、本当にお肉に見えませんね」
「綺麗な色だろ、これでトンカツ作ったら映えるんじゃないかと思ってさ」
まずは肉をトンカツサイズに切り分けていき、玉ねぎのすりおろしに漬ける、1時間から2時間が一番いいと思われる、漬けすぎると柔らかくなりすぎたりして舌ざわりが悪いお肉になってしまうので注意が必要だ、レッドクリスタルボアは見た目も大事なので1時間だけ漬ける、それ以上だと肉の色も変色してしまう可能性があるからだ。
次に衣をつけていく、小麦粉、卵に長芋のすりおろしを混ぜたものにつけ、パン粉につける、衣を厚くするためにもう一度同じ事を繰り返し、これであとは揚げるだけ。
揚げ油のラードを作る為の脂もフィガロさんの所でどっさり購入した。
小鉢の準備もできている、漬物も大丈夫、キャベツは開店一時間前に切り水に晒しざるにあげて置く、味噌汁の寸胴もOK、米はまだ炊いてない、スプーンとフォーク、お盆の準備も出来ている。
どれ試しに、一枚揚げてみる、一度揚げて、少し休ませたらもう一度揚げる。
「味見?味見するの?」
「そうそうどんなのか気になって」
ざくざくざくと切っていく、デカめのトンカツに憧れていたから大き目にしたけど、これは迫力もボリュームもあるなぁ、一応肉に温度計を刺して確認したけど、うんしっかり火が入ってる温度だ、切った断面からは火がはいっているかはわからない見た目だ、ちょっと濁った色だけどしっかりクリスタルって感じで、肉ってよりお菓子のグミでも揚げたのか?って見た目だが、香ばしい匂いはうまそうだ。
「サックサクの衣にお肉にきゅっと歯が入り、なんじゃぁ!めちゃうまいじゃん!」
「ねねも!ねねにも頂戴!」
俺は新しいお肉をねねにあ~んしてあげる。
「ふわぁサックサクのお肉もっちもち!脂の甘味とお肉の味がしっかりしてて美味しい!」
「はい、リリも」
「あう~いただきます。あれ!?こんなに美味しかったら覚えてるはずなんだけどなぁ~、柔らかく、くにくにしてどっしりとした旨味が口の中に広がりますね!」
ほろっと溶ける感覚ではなく、しっかり繊維立っていて、噛むごとに弾力が程よく合って、衣のサクサク感ともちっとした肉の旨味が丁度いい、お得すぎる!こりゃ売れるだろ!
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