第8話次の調理の話 内臓の仕込み
みんなイールをしっかり食べ終わり、見る限り残してる人はいないから、試験?は合格だと思いたい。
「美味かったけど、あたし達が食ってた今までのイールは何が悪かったんだ?こいつに何か特別な力でもあるのか?本当に他の奴が同じ様に料理できるのかよ」
「それは私も気になりました。このお店と斗真さんだったかしら?貴方からもとても大きな神聖力を感じるのだけれど・・・何か訳があるんじゃないかしら?とても聖職者にはみえないけれど」
調理の方はなんとも、俺は動画の通り見様見真似で料理しただけだし、別段タレなんかも特別と言う程の物でもない、一般的な市販されている物を使った、みなさんが言う様なぶよぶよした触感ってのは多分セラチン質の身の事だと思うのだけれど、普通の日本のウナギにはそんな身はついていない、電気ウナギとかになってくると話は変わってくるのだが。
それに神聖力と言う力が、神様の力なら俺にはよくわからないけど、確かに神様の加護があって、俺の家のドアが異世界に繋がっているのだと思う、理由とかはわからないけど。
「その神聖力は何か人を害するものなのか?違うと思うがあえて聞くぞ」
「もちろん人を害するどころか、人を癒したり、慈しんだりとても尊い力よ、神からの寵愛といってもいいかもしれないわ。普通は聖職者の司祭や司教なんか何年も修行した人に与えられる物なの、それもその人の高潔さによって変わるわ、それをこんな濃い神聖力・・・教会の人間が知ったら、聖人認定されるレベルで濃いわ」
「聖人認定レベルって軽く偉人レベルでこいつは凄いって事だよな?」
「イールがあんなに美味しかった事に関係してるかもしれないって事か」
「速い話、イールをこいつじゃなく別の奴に調理させて、同じように美味かったら神聖力とやらは関係ない、あたしらの様にまずく仕上げちまったら、神聖力ってのが関係してるって事じゃないか?」
「そうなりますね」
「商会としても確かにイールが美味しくても、それを調理できるのが斗真さんだけでは、価値は半減します。その変わり斗真さんの価値がぐっと上がりますね。あの不味いイールを美味しく調理できる唯一の料理人と言う事になります。この店延いてはこの街の名物になり、他所からも食べに来る人が殺到する事でしょうね」
げげっそれは勘弁してほしい、そりゃ立派なコックさんなら嬉しいだろうけど、俺は素人なんだからそんな付加価値つけられても困る。
「調理法と調理に使ったタレは、ギムレッドさんにおまかせします」
「いいのですか!?」
「俺一人が美味く料理できるより、より多くの人が調理できる方が、広まるのも早いですから」
「責任をもって確認します。問題がなかった場合は即座に調理法を登録して、代金が斗真さんの口座に入る様に致しますので」
「俺商業ギルドに口座ないですけど」
「契約書の作成と同時に作りましょう。冒険者ギルドや他のギルド加盟店などで決済する時に便利ですよ」
「ありがとうございます」
「ほらね!イール美味しかったでしょ!」
ねねがしたり顔で胸を張る。
「おお!流石ねね嬢ちゃんだ!見る目あるぜ!」
「じゃあ次は俺だ!明日の朝新鮮な内臓をもってくる!調理たのむぜ!」
フィガロさんが身を乗り出して内臓の話をする。
「なんの話ですか?」
「いやな、斗真が内臓は売らないのかって言ってきてな、食わないだろ動物の内臓なんて」
今でこそ日本でも内臓は食べられているが、その歴史は浅い戦後の闇市から始まって、ここ数十年が日本の内臓、肉料理の始まりである、戦前も肉を食っていたけど隠れてたべていたり、食べれる種類の動物が限られていたりと食肉歴史は浅かったりする、特に内臓は戦後の闇市で大々的に広まった傾向がある。
「まぁ内臓なんか食わなくても、肉はよく捕れるし、日によっては塩漬けや氷漬けにしないと腐っちまうのもあるからなぁ、内臓までそりゃ手が回らんさ」
「俺も肉屋だからな、他国の事情で内臓を食う国の話は聞いた事あるし、試した事もある。レバーとか肝臓とか肝って部分だがな、ありゃちょっとなぁ、血なまぐさくてべっとりとして食えたもんじゃなかった。それ以来試すなんてしなかったが、美味いとはいえんがなぁ」
レバーは俺も食べれない部分なので耳が痛い、レバ刺しなら俺でも食えるのだが、日本ではレバ刺しは禁止されている、異世界のレバ刺しも怖いなぁ・・・ああ!でもクリスタさんがいれば浄化の魔法かけてもらえたりするんじゃないか?それなら生レバーも食べれる!ちなみにフォアグラも食べた事があるけど、レバーとはとても別物と考えた方がいい、脂肪で肥大化したレバーがあんなに美味しいなんて想像もつかないもんなぁ。
「面白そうですね!私も参加します!」
「商業ギルドとしても見過ごせませんね」
「俺も気になるなぁ、魚の内臓なんかも食えるのか?」
「種類や部位によって食べられますよ」
「じゃあ肉の次は魚の内臓を頼む!」
「えぇぇ!?」
「あたしも食う!それにイールが他の奴にも調理できんのか気になるし、明日にはわかるんだろ?」
「えぇ今日の内に確認します。明日にはここで発表しますよ」
「明日の朝には内臓もってくるぞ、昼にみんなでまたここに集まろう」
勝手に話が決まっていく・・・丁寧に下処理したもつ煮込みくらいしか思いつかないけど、神聖力とやらも気になるし、俺以外がウナギ美味く捌けて調理できるのかも気になる、神様の加護で美味しくなってるなんてオチは嫌だなぁ。
朝、時刻は7時、フィガロさんが内臓を持ってきた。
「おう!おはよう!新鮮でいいのが入ったんだ!七色系統のよりは劣るが宝石の系譜の内臓だ!ブルーサファイアタウラスの内臓、もちろん宝石類は全部回収して、いつもなら廃棄か細かく粉砕して家畜の餌にしている、宝石シリーズの魔物は骨も宝石並みに美しいから、残念ながら骨も回収済みだ、腸内にもたまに宝石が出来るから、腸内の内容物、まぁ糞だな、これも抜いてある」
腸内の内容物が抜かれてあるのはかなり助かる、正直その作業はきついだろうなと思っていたので、かなり理想的な状態で内臓が手に入った。
心臓にレバー、センマイ、ハチの巣、ミノ、シマチョウにマルチョウにタン、コリコリとかアブシンとかいう脂付き心臓の部分、ノドや食道なんかはないけど使うのかな?ノドをウルテと確か呼んだはずだ、ネクタイもないけど、シビレはあるな、マメ、ギアラ、コブクロもない、アキレスはあるけど、フワ、肺の部分がない、ハラミ、サガリ、カシラに頬肉はもちろん入ってない。
新鮮なら刺しでも食べれるかもしれないけど、万が一あってはいけない、浄化の魔法が使えないと刺しでは出せないな、だからもちろんユッケなんかも出せない。
「ありがとうございます。これなら下処理もやりやすいです」
「おう!昼にまたくるな!」
そう言うと、さっそうと足早にフィガロさんは去っていった。
まずは下処理から始めよう、流水で内臓達を洗う、センマイやミノなどはヒダが多いので、その隙間に内容物が挟まっていないか確認しながら洗う、二度三度と洗うが、やりすぎなんて事はない、自分で調理するなら納得のいくまで綺麗にしよう。
次に大量の塩を使ってぬめりも一緒にとる、これも二度三度やって綺麗にする、内臓についてる脂はそう簡単にはとれないので、安心して綺麗にしよう。
ハツ、センマイ、ハチの巣、ミノ、アブシン、シビレは鉄板でもつ焼きにする。
シマチョウとマルチョウは牛筋は煮込みにする。
タンは炭火で焼こう、その前にタン以外の内臓類は一旦茹でて灰汁と臭みをとりその後調理する。
大きな鍋がないなら、先にカットしてからでもいい、カットする時コリコリやタケノコなんて歯ごたえのある部位は切込みを細かく入れてから茹でた方がいいだろ、生姜とネギと一緒に二度茹ですれば、焼肉用の仕込みは終わり。
牛筋煮込みには大根とこんにゃく、醬油、酒、みりん、ネギに生姜、砂糖、本だし、赤唐辛子などを入れて一時間煮込み、その後適量の味噌をいれて更に煮込む、あとは盛り付ける時に針ショウガ、めんどくさいならネギを乗せるだけでもいい。
もつ焼きはみんなが来た時に焼き始めればいいかな?
ラーメンの出汁とりようのデカい寸胴の半分くらいの量のもつ煮が出来てる、この鍋満杯にしてもつ煮を売るのはありかもしれない、煮込めば煮込むほど美味くなるし、沢山のお客さんが来るのを予想しても、これならもってすぐにだせる、ここまで考えて何故店が自然と繁盛する予想を自分の中でしたのか、恥ずかしくなってきた、いくら宣伝してもお客さんこないかもしれないのに、俺の脳内では大繁盛してる事を考えていた、なんという自惚れ。
7時に内臓が届いて、下処理を始めたのが8時、洗ったりカットしたりでなんだかんだで煮込み始めたのが10時、11時半にお客さんに出せる煮込み具合になったのでギリギリって所か。
カウンター内部には鉄板もあるのだが、お好み焼きなんかもやれるなぁ、鉄板をたこ焼きの鉄板に変えればたこ焼きもできるな。
さて12時になりそうだけど、そんなにみんながすぐに来るってわけでもない、味見はちょっとだけしたけど、じっくり味わってはいないので、ここでちょっとお先にいただいてみようか。
ブルーサファイアタウラスの牛筋煮込み、煮込みを盛ってみると表面に青い粒が綺麗に浮いている、確かにちょっと青みがかった内臓だなと思ったけども、食べても大丈夫だよな?触感で石みたいにシャリシャリしているなんて事はないといいんだけど。
恐る恐るスープを口にすると、これがなんとも美味い!あれぇ?意外と上品な出汁の様な、牛の脂の旨味とゼラチン質なちょっとしたとろみを感じる、牛コツラーメンとかってこんな味だっけか?口の中に牛の濃い旨味を感じる、それと味噌、醤油の塩味が程よく絡んで、脂から出た甘味と砂糖の甘味も丁度良く、うん!ご飯ほしくなっちゃう!。
青く浮いてある綺麗な粒はシャリシャリする事もなく、なんの抵抗もなく舌で消えていく。
次にシマチョウはコリコリとして弾力があるが、歯で噛み切れる、独特の匂いや風味があるが、嫌な感じじゃない、マルチョウはもうプルンプルンしてぎゅっと噛むとじゅわっと脂が出る、くにくにと噛んでいる感覚が楽しくてまた美味い!牛筋これもプルンとしていると思ったら、舌、口の中で咀嚼するとトロトロと溶けてゆく、そのゼラチン質が溶けて口の中で消えていく快感と旨味、ああ!ハマるわこれ!米とも絶対相性いいよこれ!それでいて筋の部分はゴリンゴリンと歯ごたえがよく、第三者が聞いても、ザクザクと噛んでいる音が響いていることだろう。
またこんにゃくと大根がいい味をだしてる、そしてネギ!名わき役とはこういう事だ!と爪痕を残すような味わいに、飽きることなく次にいける。
怒涛の一杯だった!特にこの牛の旨味!まさに異世界!日本の物とは違うぜって旨味がする!こいつは骨でラーメン作っても絶対うまいだろ!家系の醬油豚骨を初めて食べた時のガツンとした旨味が、新しい形でそこにはあった。
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