第7話来客 イールの味はいかに
朝、二人はまだ寝てるみたいだ、俺は自分の準備をすませて、朝食作りを始める。
パンはぶ厚めのパンを用意、焼けるのは直ぐだから置いておく、サラダにはオリーブオイルを少しに塩を少し、その上にチーズをすり下ろした物を振りかける、次は目玉焼きを半熟に、ベーコンはちょっと厚めのベーコンをカリカリに焼く、スープは市販のわかめスープ。
匂いにか音に気が付いたのか、二人が目をこすりながら起きて来た。
「おはよう、ごはん出来てるよ、顔洗っておいで」
「は~い」
二人が顔洗ってる間に、パンを焼く、焼きあがったらたっぷりのバターを塗って完成だ。
「ごめんなさい、手伝えなくて、信じられないくらい気持ちよくて、ぐっすり眠っちゃいました」
「凄く気持ちよくて、あっと言う間にねむちゃった!朝起きても体も痛くない!」
普段どんな寝具を使っているのだろうか?
「気に入ったのなら、いつでも泊まりにくればいいさ、その変わり布団のかたづけとか手伝ってくれればありがたい、さてごはんにしよう」
「美味しそう!パン!やわらかい!んんっサックサクに何か味がするよ!」
「凄い不思議なパンですね、しっとりもちもちしてサクサクしてじゅわっと何かが溢れる」
「バターだね、牛の乳から作った物だね」
「もっと硬くてもさもさしてると思ってたけど、こんなパンもあるんだ~」
「卵もとろとろ!」
「お肉も美味しい!脂があま~い」
「そういえば、今日あたりルーカスさんがお昼ごろにイールもってくるよ」
「ルーカスさんがついに来るのか」
「イールは美味しいって事証明して!お兄ちゃん!」
「頑張るよ」
といっても捌いて、市販のタレを塗りながら焼くだけなんだけど、フィガロさんも一緒にくるって言ってたな、他にどんな人達をつれてくるのだろうか?あんまり大勢だと時間かかるんだけど、大丈夫かな、ちょっとドキドキしてきた。
朝食を食べ終わり、二人は泊った部屋の掃除をしてその場は解散となった。
ルーカスさんが来るまでの間、俺は仕事に没頭していた。
11時半頃に、そろそろご飯の用意しようかな~と考えていると一階から誰かの声が聞こえた。
降りてみると、リリとねね、ルーカスさんにフィガロさん、それと見知らぬ人が何人かいた。
「いらっしゃいルーカスさん、フィガロさん」
「おう!イールが美味いって証明してもらおうか!その前に、こいつらを紹介しよう。商業ギルドのギムレッド、その隣が冒険者ギルドのニーア、そんで最後に聖堂教会のクリスタだ」
「初めまして、ギムレッドです。イールが凄く美味しいなんて話を聞きましてね、実際ここ最近ここら辺でとてもいい匂いがするって噂にもなってるんですよ」
そんなに噂になるなんて事ある?ウナギとすっぽんは確かに匂い凄かったけど。
「ニーアだ、実際私やクリスタにギムレッドなんて貧乏だった頃はイールを良く食ったもんさ!でもどう調理しても美味くなんかなかったね!ぶよぶよどろどろとした身、臭み、しっかり焼くとパサパサでなんの面白みもない味、煮たやつなんて特に最低な味だった、本当に美味くなんのかい?」
「あぁ・・・自分でも不安になってきました。でもねねとリリと三人で食べた時は美味しかったんですよ」
「こら、ニーア!そんなに人を脅さないの!ごめんなさいね、今でこそ食べなくなったけど、貧乏な時にイールは腹を満たすのに助かっていたわ、確かに味は酷いものだったけど、もし美味しく食べられるなら、今貧乏な人や生活に困っている人も、イールでお腹を満たす事が出来るかもしれないじゃない」
「そうはいかんぞ、クリスタお前さんの魂胆はみえみえだ、大方教会の炊き出しなどに利用して教会の権威を上げようとか考えてそうですが、イールを美味しく食べる技術をもっているのは彼です、特許も彼の物になります」
「ちっ若作りの守銭奴が・・・」
「聞こえてますよ、聖職者の皮をかぶった因業ババぁ」
「あっはっははやれやれ~!」
「おいお前さんら、そこまでにしておけよ。本気で暴れられたら、更地になっちまうんだから」
「騒がしくしてすまんな、だがこう見えて美味いもまずいも味わってきた連中だ、舌は確かだ」
怖い・・・凄く圧がある人達なんだけど、更地になるとか言わなかった?俺粗相とか言って殺されない?なんか凄い強いってのも本能でわかる、なんか虎かなんかと一緒にいるような感覚、否虎の近くに居た事ないからわからないけど、何とも言えない恐怖感と言うか、プレッシャーが・・・、見た目はイケメン眼鏡のインテリって感じなギムレットさん、小柄なのに赤い髪がたてがみの様に見えてしまうニーアさん、聖女みたいな綺麗なのに別の意味で近寄りがたいクリスタさん。
そんなやり取りをリリはしょうがないなぁ~みたいな感覚で微笑んでみてるし、ねねはニーアさんと一緒になって、やれやれ~!なんてはやし立てている、この二人も大物だな、俺だけかな委縮してるの、フィガロさんにいたっては三人のやり取りより、俺の店の内装が気になっているのか、周りをキョロキョロしている、ルーカスさんだけが仲裁してくれるまともな人に見える。
「すまんな、ほれ、イール一丁たのむわ」
「ちょっと時間かかるかもしれないですけど、いいですか?」
「ああ、大丈夫だ、みんなまだ半人前だと思ってお前さんの事みてるから気楽にやってくれ、それにイールは結構でかいし、捌くのに時間がかかる事くらいはわかるさ」
「ありがとうございます」
俺本当に大丈夫だろうか、まぁやるっきゃないんだけど・・・。
早速イールを捌こう、こっちの世界のウナギは脂が乗っている、否乗りすぎているといってもいいかもしれない、だから前回はなかった蒸すと言う工程を挟もうと思う。
骨も大きい割に小骨は少ないけど、一本大きな骨があるので、ピンセットで綺麗に抜き取るか、骨切りをしなきゃいけない、前回は一本二本包丁入れる事で細かく切れていて気にならなかったけど、身の滑らかさを引き立てる為には抜いた方がいいだろう。
タレは市販のタレを生意気にもツボに入れて木の蓋をしてある、今回は身全体をタレにつけては焼き、漬けては焼きを繰り返す為だ、少しだが前回のウナギの旨味も入っていると思う。
上下のヒレ、これも本職の人はヒレ巻きといって串物に仕上げる人もいる、もちろん中骨なんかもパリパリに焼いても食べれるし、柔らかい内に串に巻き付けてニラと一緒に食べるなんて串もある、頭やカマの部分も焼いて食べれるし、出汁をとっても美味しい。
ただ串焼きの仕込みまでは動画で見れなかったので、また動画を探してあったらチャレンジしてみよう。
前回より手際よく、見た目綺麗に出来た、血の処理も今の段階でかなり綺麗だ。
焼きに入ろう、これが楽しい段々とお店で売っているウナギに仕上がっていく様は自分でも上出来じゃないかなんて錯覚するほどうまく焼けていると思う、この仕上がったうな丼の上にオムレツ乗せて真ん中をナイフで切って開けば、オムうな丼なんかになるな、どっかのお店でもやってた、あと京都の大根だったかな?聖護院大根とかいう大根おろしとわさびを添えても美味そうだよなぁ。
「おいおい、予想以上に美味そうな匂いだな」
「期待できるな」
「匂いはな!だけどイールだぞ!それを王宮のコックでもましてや一般レストランのコックでもないこいつが美味くできるなんて、期待できるか?」
「さぁ世の中何が起こるかわかりませんから、それに王宮の料理人は素材の時点で弾きますから、そもそも触ったり見た事もないでしょうね」
「イールが美味に仕上げられるなんて事が知れたら、世紀の大発見です!どこでも育って!安価に手に入る!しかも美味くて、魔物に会う危険性もない!これで本当に美味しかったら、彼は王宮に招待されるレベルで絶賛されますよ!」
重箱があるから、重箱に米を敷き詰める、上にはけでタレを塗ってホクホクのウナギを乗せる・・・どうよ!結構様になってるんじゃないの!見た目いいんじゃないの!?俺だけが妙に職人顔でさっきまで怒られたらどうしようって顔してたのが、嘘の様などや顔である。
「しかも下に入ってるのが鳥の餌か・・・」
「ほら見ろ!家畜の餌に鳥の餌!匂いは確かにいいかもしれないけど!それだけだぜ」
ニーアさんには妙に嫌われたなぁ、他の人にも出すけど、他の人もスプーンやフォークを握ってダンマリを決め込んでいる、俺的にはフォークの方が食べやすいと思うけど、米はスプーンかな。
「ええぃ!私はいただきますよ!黙っていても仕方ないですからね!あぐっうむっうぐぐぐぐ!!!!」
「どうした!ギムレッド!まずいのか!?それとも美味いのか!?」
「ごっほっ水・・・ごくごくごくはぁ~・・・」
「ほれみろ!ギムレッドでもこの様だ!そんなもんお前らまで食うのか?」
「「「「・・・・」」」」
「もぐもぐもぐ!これは!!なんとも!!!」
静まり返っていたのに再度ギムレッドを見ると、ガツガツとイールを食べている姿が見える。
「おい!ギムレッド!壊れちまったのか!どうしちまったんだよ!」
「えぇい!放せ!どうかしてるのはお前らだ!さっきはちょっとびっくりして喉に詰まらせただけで、そんな姿に騙されて怖気づきおって食べるのをためらうとは!そんなんだから見る目がないんだ!どいつもこいつも!なるほど!米がこんなに美味いとは!まずいと文句を言った時島国の人間が怒るわけだ!それにしても驚いたのは、このイールだ!ぶよぶよした脂もしっかり焼けているのにパサパサなんて事は一つもない、じゅわっと溢れ出る旨味!それとあの泥臭さが一切しない!骨もない!私が食べたイールやイールのゼリー寄せなんかとは全然違う!繊細・・・そう!身が繊細に儚くほろほろと口の中で崩れる!それなのに繊維がしっかりとして噛み応えもある!あまじょっぱいタレと出て来る甘い脂がまた何とも言えない!それに狂おしい程に米と合う!」
全員がギムレッドを凝視して黙り込む、俺はそっと中骨と頭でとったお吸い物を出した。
「これは・・?どれずずっうぉ!このスープもいいですねぇ!それに添えられた塩漬けですか?これも合間に丁度いい一休みになる!」
「なんだよ!美味いんじゃねぇか!俺も食うぞ!」
「わ・私もいただきます!」
「んじゃおれも!」
「・・・・」
ニーアだけは何も言わずにうな重をじっと見つめている。
「おぉ!本当だ!こいつはいけるぞ!あの泥臭さも嘘みたいにねぇ!」
「ぶよぶよなんてどこにもないな、しっかり焼けてやがる!でもじゅわっと溢れる脂こいつも臭くない!美味いぞこれ!」
「上品な味ですね~、あのイールがこんなに上品な味だすなんて、そりゃ想像もつきませんよ・・・ニーアはどうです?」
「・・まい・・・・」
「え?なんですって?」
「美味いって言ってんだよ!なんでだ!?煮ても焼いてもまずいのがイールだろぅ!俺達がどれだけ苦労して嫌でも我慢して食ったイールが!?今頃になって美味いだなんて!そりゃないだろ!」
「こいつは話がでかくなってきたな!」
「調理法の独占もかまいませんが、特許をとって販売する事をお勧めしますよ。イールはどこでも育ち繁殖力も強く、雑食で身も中々に大きくなる、何より安全に捕獲できる!」
「生活に困っている人も助かる人が増えますね」
「それよりもなんであたしのイールは小さいんだ!ってかしっぽの方だから身が小さいんじゃないか!?」
「ああ、当たりの部分ですね」
「当たり?」
「なんか知らないけど、こいつ上半身よりしっぽの下半身の方が身が締まってて、それなのにきめ細かく脂が身に入っていて特別美味いんですよ、ニーアさん余程嫌そうな顔してたので、出来るだけ美味く食べやすい方がいいと思って」
「本当だ!しっとりして皮目はパリパリ!こっちの方が身が繊細だ!」
「おい!あたしの食うな!?」
「ぐぬっなんと言う事だ!本当に尻尾の方が身に歯ごたえがある!それなのに滑らかに消えていく!!」
「だから!食うなっていってんだろうが!?」
「おい!俺にも一口よこしやがれ!」
「ずるいぞ!俺にもだ!」
「やめろ!貴重なしっぽが無くなるだろうが!?このハイエナ共!?」
「おおぉ!きゅっと締まってるな!」
「香ばしさもこっちのが上だ!」
「残りは全部あたしんだ!もぐもぐんお!?しっぽに近づくほどサクサクホロホロ感が増す!それにあぶらっこさも程よくさっぱりしてる!」
しっぽの方をひつまぶしにして、出汁茶漬けにしても美味そうだなぁ。
もう一匹の尻尾部分はどこに行ったのかと言うと、ねねとリリが美味しそうに食べている、誰にもばれないようにひっそりともぐもぐしていた。
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