第5話魚屋ルーカス 肉屋のフィガロ
3の鐘が鳴る、俺の家までその鐘の音は聞こえないけど、時計の針が3時を指すとリリが迎えに来た。
この時ふと、昨日のねねの発言が気になった、他の獣人の子がねねからいい匂いがすると言ったと言うことは?もしかしてねね風呂とか入っていないんじゃないか?この世界って風呂は一般家庭にあるのかって事が気になった。
「リリ、お風呂ってどうしてるの?」
「お風呂?」
「その、体とか洗ったり」
「ああっ水浴びしに行きますよ、それかギルド前に洗浄の魔術が使える人にお願いするんです」
ああ、魔術で、なるほどなぁ、それに水浴びしてるって事は家には風呂はついてないのか、水を溜めなきゃいけないし、薪なんかも必要になってくるもんな、魔術や魔道具でどうにかならないのだろうか?井戸とかないけど、水ってどうしてるんだろ?
「ちなみに水ってどうしてるの?」
「水は、水の魔石を定期的に買ってます。魔力を注ぐと、水か出てくるんです、水の魔石は魔物からもとれますが、普通の魔石を水につけて置く事で水の魔石になります、火の魔石も同じ要領ですね、氷の魔石は冬の寒い間に作って、夏の暑い日など物が腐りやすくなる時期に、保存の為に使います」
なるほどなぁ、じゃあ雷の魔石なんかは非常にレアなんじゃないだろうか?他にもレアな魔石なんか色々ありそうだな。
「まず昨日の魚屋さんにいきましょうか」
「そうしよう」
「えぇ~どうせイールを食べる事馬鹿にされるよぉ~、美味しいのにぃ」
「言わせたい奴には言わせとけばいいじゃない」
そんなこんなんで魚屋までいくと、顔を覚えられていたのか店主に声をかけられる。
「おう!イールの兄ちゃん!昨日のはどうだった?」
「ああ、美味かったよ!ありゃ店で出せるな」
「マジか!そんなに自信があるなら今度ご馳走してくれよ!なんなら家で扱ってるイールを優先的に兄ちゃんに卸すからよ!家畜の餌にしかならなかった、イールが美味いなら、悪くない話だからな!」
「商売に使うほど仕入れるかな?まぁ美味いイールが食いたくなったら、イールをもって街はずれの俺の家まできてくれ、作ってやるからさ」
「すごっくすご~く美味しいんだから!私嘘ついてないから!」
「わかってるよ、ねね嬢ちゃん、あれだけいい匂い振りまいてたら気になるってもんだろ、ここいらの奴ら何人かは、ねね嬢ちゃんの話信じてるんだ、獣人だからな、自分の鼻を信用できなきゃ終わりよ!」
「まぁ素人なんで、捌くのに時間かかるけど、気になるならみんなを誘ってきてみてくれ」
「自信まんまんだな!楽しみだ!俺はルーカス!魚の事ならルーカスの店にって言われるくらい、魚の仕入れには自信がある!魚の仕入れで手に入れたい物があるなら、家を頼ってくれ!」
頼れる魚屋さんが知り合いに増えた、ルーカスさん気さくだけど、ルーカスの店は厳つく広い、この店の大きさで、魚の大型店と言えばルーカスの店とわかる、見て回った限りでは、ここの店が一番新鮮だと思う、それに干物も売ってる、燻製はないけど、塩漬けの魚やオイル漬けの魚なども売ってる。
「何か面白い美味しいのはない?」
「面白くて美味しい魚ねぇ・・・美味いかどうかはわからんが、面白いのはいるぞ、タートルもどきだ」
「タートルもどき?」
「イールと一緒で増えるには増えるんだけど、小さくてな食う身がなくて人気がない、あと臭かったりして、やっぱり食べる奴はそうそういない」
そういって見せられた、タートルもどきは、日本で言うすっぽんだった。
「すっぽんじゃん!結構でかいなこいつも」
「すっぽん?お前さんこいつも知ってたのか、じゃあこいつも美味くできるのか?」
「捌いた事ないけど、動画で捌き方はなんかいも見たかな、下処理の仕方も大体わかる、これだけでかかったら結構食い手がありそうだけどなぁ」
「こんな小さな亀もどきなんぞ食わなくても、亀が食いたきゃ一般的に捕れる、キングタートル食えばいいんじゃないか?」
ああ、なるほど、こいつを食わなくても、上位互換がいるから、そっちを食えばいいのか、そのキングタートルの方が肉もいっぱいとれて、きっと臭みも少なく美味いんだろうな。
鍋くらいしか思いつかないけど、このすっぽんも美味いと思うんだけどな、エンペラの部分も多く取れるから、ぷるぷるのコラーゲンいっぱい食べれそう、血は流石に怖いから遠慮するけども、捌くの挑戦してみようかな?魚捌いたり、イノシシや鹿、アナグマやすっぽんなんかもいつか自分自身で捌いてみたくて、それ系の動画は結構みたりはしてるんだよな、見ると実際に捌くじゃ全然違うってウナギで学習したけど、最大の目標はいつかマグロみたいな、巨大魚を捌いてブロック分けしてみたいって事だ。
いいお肉屋が見つからないなら、いつか自分で血抜きして肉を確保しなきゃならない、動物の肉でいうなら兎、ホーンラビットが初めて俺が捌く肉になるだろう。
人生は経験だ、ここで否ちょっと、と後ずさるなら俺は動画を見て満足するだけの人になってしまう様な気がした。
すっぽん、挑戦してみよう。
「こいつはいくら?」
「おいおい本気でこいつ食うのか?」
「捌くのは初めてだけど、不味いって事はないと思う」
「臭みなんかも消せるのか?」
「多分ね」
「不思議な奴だなぁ~、まぁいい一匹銅貨一枚でいいぞ、元から売れないからな」
大きいすっぽんが100円で手に入った、ラッキー、あとは上手く料理できるかが問題だな。
3人で食べるには少ないと思って、すっぽんを二匹購入、タートルもどきって名前しかないの?って聞いて見ると、この世界ではよくある事らしい、あれとかあの害獣なんて呼び名もなく言われている動物も多いのだとか。
「今日のごはんは亀?」
「そうだね、調理次第だけど凄く美味しいって言われてるよ」
「楽しみですね!」
二人はすっぽん食べるのに抵抗感とかないみたいだ。
異世界に来たのに、異世界の食材に触れず、ウナギやすっぽんばかり見つけては料理するってのも、なんか変な感じだな、ルーカスのお店みたいに、大きな精肉店なら血抜きもしっかりしてるのかな?
ここら辺で有名な肉屋を覗いて見ると、見た目綺麗なお肉が揃っている、鹿の枝肉も綺麗なピンク色だ。
オークの肉がセールで大きなブロックが銀貨3枚、3000円か、2キロで3000円は安いな、色も綺麗な色してるし、豚バラの部分だけど綺麗な脂身の層が美味しそうだ。
う~ん、今日はすっぽん買ったし、今回はパスで!あれでトンカツ作ったら美味そうだけど。
「アンタ、ルーカスの店でイールを買ったって人じゃないか?」
唐突に声をかけられた。
「そうですけど」
「おお、驚かせて悪いな、リリとねね嬢ちゃんと一緒だからそうだと思ったよ」
「フィガロさん、こんにちわ」
「ああ、二人ともよく来たね、あいつの店で何か買ったのか?」
「タートルもどきを二匹」
「タートルもどき?ああっ!あの小さいのか、また珍しいもん選ぶなぁ、うちの肉はどうだい?」
「どれも綺麗ですね、血抜きもしっかりしてるし」
「おおっ!血抜きしてるなんてよくわかったな!冒険者に血抜きの重要性を徹底するのに、大分時間がかかったもんだが、いまだにめんどくさがりやらない冒険者も多いんだ」
「内臓なんかは扱っていないんですか?」
「内臓もあるぞ、レバーに心臓、胃袋なんかも扱ってる」
「他は?」
「他って?」
「舌に腸、喉に脊髄、骨や骨髄も使えるし、整形する時に出る細切れ肉なんかは、ミンサーでミンチにしたりはしないの?ノドシビレや乳房、脳や足のアキレスなんかも」
「お前さん肉にやたら詳しいな、腸なんかは糞が詰まっていた場所だからな、客はどうしても嫌がる、それに舌もだ、死んだとは言えミノタウロスとキスなんかしたがらないだろ?足やノドなんて硬くて煮ても焼いても食えん、胸腺や乳房なんかも、ほとんど脂肪みたいなもんだろ?脂肪は肉についててこそ美味いんだ、脂肪だけ売る事もあるが、蝋燭なんかに使われると聞く、そんな場所美味いわけがない、脳みそもだ、気持ち悪すぎる、それになそんな部分食わなくても、肉ならたっぷりとれるんだ、わざわざそんな所食う必要がない、それに細切れと言ったが、ミンチってのは聞いた事がないな、肉としての細切れ肉なら、うちでも格安で扱ってる、ただ表面の膜だけをそぎ取ったりしたものは捨てているよ」
腸とか丸々捨ててるのか、もったいないなぁ、確かに綺麗にする作業は大変だし、汚いと思う人も多いかもしれない、牛タンも日本ではよく食べられるけど、外国でよく食べられるようになったのは実はここ最近の話だと聞く、海外でも牛タンの美味さに気付いて、物凄い値上がりしている、やはり抵抗のある人はどれだけ美味くても食べないって人が結構多い、魚の白子なんかは絶対食べないって言う人もかなり多いしな、なんでも食うなら中国が目をつけないはずはないとおもうだろうけど、中国ではそんなに美味いと思われる部位ではなかったようで、まさに美味さに気付いて消費量が加速したのが、ここ数年の話だ。
「じゃあ捨ててる部位を譲ってもらう事は出来るかな?」
「おいおい、本当に舌や腸を食うのか!?もちろんただでやってもいいが、そこまで自信たっぷりに引き取られると、こっちも気になるな」
「ルーカスさんもイールの試食がしたいって言ってたし、大人数じゃないなら招待してもいいですけど、一応飲食店目指してるんで、アドバイスでももらえるなら」
「飯屋をやろうとしてるのか!それなら尚更俺が卸すもんがどう調理するか確かめたい、捨てるもんとはいえ、うちから仕入れてるって名が広がるかも知れないからな!」
「じゃあ今度、街はずれの俺の家まできてください、ちなみに内臓は細かく分けてもらえると助かります、ミノのタンならタン、腸なら腸、鳥豚牛事に分けてもらえると」
「鮮度が大事だから、朝になるけどいいか?」
「こっちも助かりますよ、仕込みとかあるんで」
「楽しみになってきたな!俺とルーカスの推薦があれば、すぐにでも商業ギルドで登録できるぞ!それにな変わった魔物とかも手に入ったら、優先的にお前さんに譲ろう!お前さん次第で今まで捨てていた内臓が、今後どう扱われるか変わるんだが、構わないか?」
それって美味かったら、自分達でも商品化して、まずかったら今まで通り捨てるって事かな?
「なに、美味さが広がって他に欲しがる奴が出てきても、お前さんには優先的に格安で譲ってやる、だがまずかったら、金をもらっても譲ってやる事は出来んな、うちから仕入れてまずいもん作ってると思われるのは、うちの看板にも傷がつく」
「うえぇ、俺はプロじゃないし、店も本当にやるのかわからないんだけど!」
「お前さんが半人前だってことも考慮してやる、どうする?やるか?」
牛タンも腸も普通に焼肉くらいしか思いつかないんだけど、ああタンシチューもあるかでもなぁ。
「やろうよ!お兄ちゃん!イールは美味しいし、大丈夫だよ!」
「いままで食べた料理は、どれも美味しかったですよ。お店っていってもすぐ始める訳でもないんですし、気軽に挑戦してみたらいいじゃないですか?」
味噌味に仕上げて、炭火で焼くくらいしか思いつかないのに、いいのかな、まずいって言われて、タンが手に入らなくなるのは困るんだけど。
「やるだけやってみます・・・」
「よく言った!今度の休みにでも、お前さんの店までいくよ、ルーカスと一緒にな」
怖いなぁ、駄目だったら、ショックでしばらくは異世界にはこれないだろうなぁ。
まずは今日買ったすっぽんを捌いて食べようか。
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