フォーチュンクッキーと翻訳機(3)
そこからはフォーチュンクッキーを調べる事などすっかり忘れて、ひたすらこの文明の利器の真偽性について見ていたのだが、調べれば調べるほど興味は募っていく。
ポケベルから携帯電話になり、あちこちにあった公衆電話が撤去されてリモートで電気をつけたりお風呂にお湯をはったりできる世の中になるまでに何年掛っただろうか。公衆電話に十円玉をたくさん積んで友達と長電話していた頃に、まさかこんな時代が来るなんて誰が予想できただろうか。
人間の声を認識して機械を動かすホームスピーカーが誕生してこんなに普及するだなんて考えもできなかったのだから、動物の鳴き声を翻訳できる機械が発売されても何ら不思議ではないはずだ。
とはいえ高価なものだけに騙されてなるものかと細かい説明や使用経験談の口コミなどを調べていくと、もう
『興味がある』
を通り越して欲しくなってしまっている自分が居る。僕の気持ちをそうさせたのは説明文や口コミではなく、誰も居ない壁と天井の隙間をじっと見つめて
「アオーン、アオーン」
とミールが鳴いているからだ。
(なんだ? 守護霊様でもいるのか、それとも我々人間には見えないような特殊スーツを着た宇宙人か?)
なんて考え始めると、もう直接ミールに訊きたくてしかたがない!
ベッドから起きて座椅子に座り、雑多に置かれている広告の裏に自分が重要だと感じた説明書きを書いていくことにした。
・ 本機は犬には対応しておりません、ネコ専用です
・ ご使用になる前に必ず二十四時間充電してからご使用ください
・ ネコの言葉は翻訳できますが、人間の言葉をネコ語に翻訳できません
・ 一部、ネコ科の大型動物には反応しない場合があります
・ 翻訳言語は自由にお選びいただけます
(なるほど、人間の好奇心を満たす目的でネコの言葉を人間の言葉に翻訳する事はできるが、だからといってネコに文句を言ったり何かを伝えようとしてもそれは無理だという意味だな。そしてネコ科だからといってライオンなどの大型動物には反応しない場合がある、そして翻訳言語は選択できる)
流石メイドインジャパン! 各国同時通訳なんて当たり前で、さらにその先を行ってネコの周波数や音域から人間の言語に翻訳できるとは! そして八日間の未通電クーリングオフ付きで、発売発送元はあの有名なア〇ゴンときている。僕は情報だけですっかりこの機械の虜になってしまい、財布からいそいそとクレジットカードを取り出して打ち込み、注文完了画面を満足気に眺めていた。
いつの間にか座椅子に座ったまま眠ってしまっていた。胡坐をかいたスペースにミールが丸まっているので程よく温かく、下半身はポカポカでも肩から首にかけてはヒエヒエで目が覚めたという具合だ。冷えた体を温めるべくコーヒーでも入れて飲もうと立ち上がったその時、ミールは僕が動くことを察知したのかピョンと降りて
「アオーン」
と不満そうな顔で鳴いた。でも人間の僕にはこれが
『なんだよ、動くんじゃねーよ』
なのか
『そうそう、お布団に入った方がいいよ』
なのか全くわからない。ずっと一緒に暮らしているから
(何か不満そうだな、なんとなくこういうことなんだろうな)
と判った気にはなっているもののその本質は理解できておらずに、人間側が勝手に雰囲気で察しているような気になっているだけである。そもそも家で飼われているペットからすると何もかもが与えられる状況にあり、そこに欲求があったとしても伝わらない言葉で鳴くしかない。
ご飯が欲しいとか水が汚れているとかトイレを変えてほしいなど、我々人間の耳に届く音は全部「ニャオン」で、それは意思の疎通ができない赤ん坊がオムツが濡れているのか、眠いのに眠れないから泣いているのかこちらがわからない状況と同じである。何が言いたいのかというと、
「一緒に暮らしているのに、一方通行では不公平なのではないのか?」
ということなのだ。
赤ん坊はやがて成長して意思の疎通ができるようになる、でもペットは一生それができない。エサをあげるとかトイレを交換するとか、僕にできてミールにできない事はわかった上で共同生活をしている。でも僕を癒してくれるペットという存在に対して、人間がその対価をちゃんと払えているだろうか・・・という点がどうしても引っ掛かっているのだ。
思った事をそのまま文字にしたのでかなり面倒くさい文章になってしまったが、要するに
(コイツ人間の言葉がわかってるんじゃないの?)
と感じる瞬間がある時に、本当は何を考えているのかを知りたい!
ということです・・・・・・はい。
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