フォーチュンクッキーと翻訳機(2)

 やばい、心臓が口から出そうだ。


 女の子の部屋に招待されているのだから、頭はセットしてもらったから良しとしてシャワーは浴びないと失礼だ。深呼吸をしてゆっくりと歩き出し、自宅に帰りシャワーを浴びる。いつもの癖でボディーソープで顔を洗ったついでに頭までワシワシしてしまった・・・


(まあ、通勤の時と同じ髪型ならいつもやっている事だ。きれいになるに越したことはない)


 そう言い聞かせていつもよりも入念にきれいに洗って脱衣所から出ると、目が痛くなりそうなあの強烈な臭い。


(せっかく体をきれいに洗ったのにこのタイミングでトイレ交換とは痛恨の極み! いやまて、これは神様がもう一回落ち着いて汗を流せと言ってくれているに違いない。生きているだけで百点満点のミールに罪はない)


 トイレを掃除し、飲み水のチェック、エサのチェック良し! もう一度シャワーを浴びる、今度こそ大丈夫とハンガーに掛けてあったタオルできれいに頭を拭き顔を拭く。


(うわ、くさっ! 生乾き臭じゃん! こりゃダメだ。たしかお隣さんが引っ越してこられた時にもらった新品のタオルがあったはず、あれなら絶対に臭わないだろう)


 押し入れの中にしまってあった新品のタオルを引っ張り出して臭わないことを確認し、もう一度シャワーを浴びるのだがここで改めて気付いたことがある。


(新品のおろし立てタオルって、水分吸わないのね・・・)


 とはいえそれなりに臭わなくなりきれいになって、ようやくドライヤーの出番。いつもの慣れた手つきでここは問題なくセットして、ホームセンターなどで売っている押入れ収納できる衣装ケースの中からあれこれ引っ張り出し、床に広げて少ない持ち札の中から選んでコーデは完成。実際に着てみるとなかなかいいじゃない! 


 時計を見ると約束の午後六時まであと三十分。大まかな地域はわかっているから詳しくはネットマップで調べるとしても、そろそろ出発しなければならない時間が迫って来ていた。


(私服用の靴が先日の雨ですごい汚れてる、泥だらけだ・・・)


 今から靴を買いに行っている暇は無し、ましてや洗ってきれいにしている暇は無し。


(こんな事もあるのだから外行き用の靴は今後二足は持っておかないとな)


 なんて悠長なことを考えながらふと鏡を見ると、普段全く気付かない事に気付いてしまった。スーツは会社に行く時に着るものだしお客様と面会する機会も多いので普段から高いところにシワにならないように掛けているのだが、この高いところに掛けているというのにはもう一つ理由がある。


『ネコの毛がつかないようにするため』


 自分が現在着ている服はネコの毛だらけで靴は汚い。さすがの僕も諦めてスーツに着替え、いつも通りのスタイルで彼女の住所に向かう事にした。ちょっと罪悪感に駆られながらも時間が迫っていたので、前方に注意しながら教えてもらった住所を歩きながらネットマップに打ち込むと


『奥山飯店』


と表示された・・・教えてもらった住所は中華料理屋さんでご両親が営んでいらっしゃるお店。そこでこれでもかというほどお腹いっぱいご馳走になり、


「感謝の気持ちで頑張って作りました!」


という彼女お手製の


『だいすき!』


という紙が入ったフォーチュンクッキーをデザートに頂いて、さらにこんな展開が待っているなんて思ってもいなかった僕が気を利かせて買っていったケーキもご家族と一緒に食べる事になった。


(これは間違いなく胃薬のお世話になる流れだ・・・)


 まあでも初めて彼女と食事できたわけだし、ご両親の反応も悪くなかったので良しとするか。


 家に帰りつくまではわからなかったが、中華料理というのは食材や香辛料の香りが衣服にもの凄く付くものらしく、ミールが興味津々でクンクン嗅いでは


『カァー』


っとするので消臭剤を吹きかけまくっていつもの場所にスーツを掛けた。シャワーを浴びて歯を磨きベッドに寝転がってスマホを見る、実はフォーチュンクッキーというものを生まれて初めて食べてみて、


(あれは焦げるはずの紙をどうやって入れているんだろう)


と不思議でしょうがなく、帰ったら調べてみるつもりでいたのだ。検索最中にもポップアップ広告は表示されて若干のうっとうしさを感じながらも進めていると


『ネコ語翻訳機 ニャンゴ』


という文字が目に飛び込んできた。

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