転生先でも両親のせいで苦労してます

イズミント

転生先でも両親のせいで苦労してます

 異世界転生。


 そのフレーズが頭を過るようになったのは、俺が社会人になってからだ。

 引っ越したマンションでケーブルテレビ会社の点検商法の紙が頻繁に入るようになったり、頑張って働いてるのに、上司からの理不尽な怒りを浴びたり、物価や光熱費が値上がりしてるのに給料があがらなかったりと。

 職場を変えればという輩がいるが、俺は家が毒家族なので今いる会社をやめたら殺すと脅されている。

 警察に相談しても、相手にしてくれない。

 後からその毒家族が友人に根回しして、俺からの相談などを受け付けないように圧力を掛けていた事を知ったのは、すごくショックだった。

 もはや、この世界に居場所はない。

 会社を無断欠勤し、山奥に逃げ込んでから崖から飛び降り、自ら命を絶った。

 異世界転生という僅かな希望を抱いて。


 それが現実世界での俺の人生の末路だった。

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「ん……」


「クレス坊っちゃま。 目が覚めましたか?」


 瞼を開けると、別の天井が見えた。

 横にはメイドの少女がいる。

 そうか。

 俺は前世の夢を見たのか。


 前世の俺は、自ら命を絶った後に女神に会い、貴族の息子のクレスとして転生してもらったのだ。

 しかも、テンプレート通りの特典をたくさん貰って。


「ああ、嫌な夢を見たよ。 父さんは?」


「奥様と共にワルージア家に殴り込みを掛けてます」


「ちょっ!? 何で止めなかったんだ!? 確かに姉さんがそいつに婚約破棄を突き付けられたのは確かだけど!!」


「メイドや執事が総動員して止めました。 先に国王様に報告するのが重要だとも言いました。 しかし、ご両親は……」


「何て事をしてくれてんだあの親バカ両親ーーーっ!!」


「クレス様!? ど、どうしたんですか!?」


 メイドから事のあらましを聞いて、俺は絶叫した。

 そこに一人の少女が現れ、俺の絶叫に驚き竦み上がっていた。


「あ、アリス! 悪い! だけど丁度いい! 君の父上……国王様にすぐに伝えてくれ!」


「何があったのです!?」


「うちの姉さんに婚約破棄を突き付けたワルージア家にうちのバカ両親が殴り込みを掛けに行ったんだ!!」


「何ですって!?」


 アリスと呼んだ少女は、俺の報告内容に驚いていた。

 一応、今の俺の両親は前世とは真逆で姉やアリスと一緒に愛情を貰って育った。

 そして、アリスは今の俺が生まれた国、【ファルミアル王国】の第三王女で俺の婚約者だ。


「分かりました。 お父様に報告します。 クレス様は?」


「あのバカ両親を止めにワルージア領に行く」


「お気をつけて!」


 アリスも俺の両親の親バカっぷりは知っている。

 そしてその両親を無理やりにでも止められるのは、俺しかいないと。

 今回は、姉さんがワルージア家から婚約破棄を突き付けられたのだ。

 理由は真実の愛とかこれまたテンプレートな内容だった。

 当然、両親はそれに激怒。

 国王様への報告をしないままカチコミに行ったと、メイド長の少女のフレアさんが教えてくれた。

 なので、国王様への報告と共にワルージア領へ両親を止めに行かなくてはならなかった。


 ただ、両親を止めるのは俺だが、王国から何人かの兵士達を派遣して貰い、連行して貰う必要があるのだ。

 数少ない両親の苦手な先代王妃の説教を受けて貰わないといけないな。

 国王様の報告はアリスに任せて、俺は特典の一つの【ブーストダッシュ】でワルージア領に向かって行った。


「魔術師団長、聞こえますか?」


『ああ、クレス君。 さっき国王様から話を聞いた。 今からワルージア領に転移する』


 俺はワルージア領に向かう最中に昔に魔術師団長から貰ったペンダントを使って、彼と通信をしている。

 両親の不始末の手伝いを出来るのは彼だけなのだ。

 後の部隊員は、俺が無力化した両親を連行するために必要なのだけど。

 そんな魔術師団長も、アリスから国王様に伝えた内容を聞き、これから転移をするようだ。


「頼みます。 俺が無力化した後で魔術師団長の魔法で連行して貰わなければならないので」


『しかし、君の両親はとんだ親バカなんだな。 姉の婚約破棄にカチコミとか』


「なんか、すみません……」


『その度に君が食い止めるというパターンだからな。 今年で胃薬、どれだけ飲んだのかな?』


「今日までで5瓶ですね。 それでも少ない方です」


『君の気苦労は絶えないな。 国王様も君を沢山のサポート要員を派遣してから【リンクス領】の領主にしようと考えておられる。 丁度アリス様と婚約する予定だろう?』


「そうですね。 順調ですし。 あ、そうそう。 父が【筋肉モード】になってたらすぐに報告を」


『分かった。 クレス君も頼むぞ』


 そこで一旦通信を切る。

 さらにブーストを掛けて、森の中を突っ走る。

 この多重ブーストで掛かる負荷は大体5倍くらいか。

 それでも身体がぐちゃぐちゃにならないのは、転生特典の一つが働いてるからだ。


(多重ブーストによるスピードアップは、特典の【負荷無効化】があるからこそだな)


 そう。

 転生特典の一つの【負荷無効化】は、今の多重ブーストによるスピードアップなどで、それによる負荷が無かったことになる。

 普段なら、こういう多重ブーストは、負荷によって内臓が破裂し、死に至るのでバフなどは最大でも二度までという制約がある。


『クレス君』


「魔術師団長。 着いたのですか?」


『ああ、だが君の懸念していた状況になってる』


「というと……?」


『今の君の父親は、筋肉モリモリのマッチョマンの変態になってる』


「すぐ行きます!!」


 父さんが【筋肉モード】になっているようなので、さらにブーストを掛けて急ぐことにした。

 こうなってしまえば、父さんは筋肉を見せつけた無双を繰り広げ、俺以外は手も足も出なくなるからだ。


「見えた!!」


 暫くすると両親が丁度ワルージア領に突撃しようとしていた所だ。

 辛うじて間に合いそうだ。


「いい加減に……しやがれぇぇぇぇぇっ!!」


 俺は瞬間に両親の側面に回り込んでから、父さんの脇腹に向けて蹴りを繰り出す。


「ぐぼあぁぁぁぁっ!?」


 俺は母さんを巻き込んで父さんを家から話すように蹴り飛ばした。


「く、クレス!!」


「メイド長のフレアさんから聞いたんだ! 姉さんが婚約破棄されたからって、国王様に報告せずにカチコミとかありえねぇだろう!!」


「し、しかし……」


「しかしもおかしもねぇっ!! 大体、この国はおかしな理由での婚約破棄は違法なんだから国王様に報告すれば動いてくれるだろうが!!」


 涙目になる両親に、俺はキレたまま両親に説教する。

 両親が親バカのせいで、周りに問題を起こしては俺がケツを拭うの繰り返し。

 領民は俺に苦労人気質だと、気遣われる始末だ。

 さっきも言ったが、そもそもこの【ファルミアル王国】は病死や事故死、もしくはその寸前になってしまった場合以外の婚約破棄は違法となっている。

 そのため、国王様に報告すればちゃんと動いて逮捕、ならびに病死などに伴うものは、葬儀の費用を負担してくれるのだ。


「大体、あんたら親バカすぎて、領民の事考えてないだろう! 今回も国王様に報告せずにカチコミを掛けて国王様に迷惑を掛けやがって!」


 俺の説教にへこんで何も言えない状況だ。

 ただ、これ以上この場所に迷惑を掛けるわけにはいかない。


「とにかくあんたらは先代王妃の元に連れていってもらうからな」


「「い、いやー!! それだけはー!! はぎゅっ!!」」


 先代王妃の元に連れて行くと宣告したら、発狂気味に哀願してきたので気絶魔法で黙らせる。

 

「魔術師団長、お願いします」


「済まないな、クレス君。 この二人を連行する。 後の兵士たちはワルージア家の捜査をさせるさ」


 魔術師団長はそう言いながら両親を特殊な魔法の縄で縛り、連行していく。

 他の兵士はワルージア家の捜索を行うようだ。


「あー、もしもしアリス?」


『あ、クレス様。 終わりました?』


「ああ、終わったよ。 胃がキリキリするが……」


『胃薬、用意しますね。 あと、ミリア姉様が落ち着きを取り戻したそうです』


「分かった。 姉さんにも両親の顛末を報告するよ」


 俺はアリスとそんなやり取りをしながら、兵士たちに挨拶をしてから自分の領地に戻っていった。


 その後、両親は領主から剥奪され、俺が姉さんやアリス、さらに王国から派遣された多数のサポーターの力を借りる事を条件に領主となった事はまた別の話となる。

 まぁ、両親が先代王妃の元で働いているうちは、平穏な日々が過ごせるだろうね。


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