第十一話 やっと会えた人
気づくとまりあは草原の中にいた。
まりあはあたりを見渡した。すると向こう岸に
「お母さん!」
打って変わって優子は切なそうな表情になる。鬼のような形相に変わる。
「まりあ! 貴女はまだここに来る時じゃないのよ!」
まりあは急いで優子から逃げた。
なにかが滴り落ちる音がした。まりあは瞼を薄っすら開くと視界がぼやけた。まず、白い天井がまりあの目についた。
(……ここは?)
龍之介は席に腰掛け、ベットにもたれかかって突っ伏している。龍之介の寝息が聞こえる。看護師が雅之を呼ぶ声が聞こえる。
「まりあ! 大丈夫か?」
雅之は言う。
「ああ、お父さん?」
「無事で良かった……。まりあ、お前。意識を失ってたんだぞ」
(……え? わたしが意識を失った?)
まりあはぼんやりとした視界だ。父、雅之は心配そうな表情で駆けつけた。雅之の目には涙が溜まり、赤く泣き腫らした目をしている。ああ、たしかまりあは龍之介に連れがいたから帰ろうとした。たまたまコンタクトが落ちて川で溺れたのを思い出す。
(ああ、またわたしは龍之介くんに迷惑をかけてしまった?)
雅之は声が震えていた。
「これからまりあは数日は入院だ。まりあが一命をとりとめて、お父さんはここ数十年ぶりに嬉しい」
「お父さん、これは?」
「……まりあ。これはママの形見だ」
(……もしかして、お母さんが助けてくれたのかな?)
まりあのサイドテーブルにはお守りが置かれていた。たしか、これは、優子が危篤になったときに雅之と購入したものだ。これはきっと、優子が助けてくれたんだ。まりあは思わず、目頭が熱くなった。
「まりあ。お友達の龍之介くんが助けてくれたんだぞ」
「龍之介くんはまりあがつけてたイヤリングも川から引き上げてくれたんだ」
「龍之介くん?」
「龍之介くんは、二日間ずっと寝てない。ずっとまりあの手を握ってくれてたんだぞ」
「……龍之介くん、ありがとう」
寝てしまっている龍之介の手に握られているのは以前頂いたイヤリングだった。
まりあはゴツゴツと骨ばった、龍之介の手を握った。
◇◇◇
龍之介とは一週間連絡がつかない。メッセージを送っても既読もつかなければ、返信もない。電話も出ない。龍之介しか、まりあの入院先も知らない。琉花はまりあのお見舞いにも行きたかった。だが、龍之介がメッセージをくれなければ搬送先の病院すら分からない。かなりの心配をした琉花は試しに龍之介の家を訪ねてみた。琉花は龍之介の家のインターホンを鳴らした。中から出てきたのは。
「俺。寝てないんだよ」
「え? りゅ、り、龍さんは全然、寝てないんスか?」
「り、り、龍さんそのガラ声は……」
「俺、風邪引いたんだよ」
「龍さん、玄関、閉めないでくださいよ!」
「……ああ」
「龍さんのお袋さんは?」
「ああ、俺はもうあの人とは数日話してない。彼氏とタイに旅行に行ったよ」
「は? ……え?」
「はい。龍さん、俺は数日前に京都のばあちゃんの実家に帰ってきたんスよ。龍さんのお土産を買ってきましたよ。八ツ橋、一緒に食いましょうよ」
「琉花。せっかく来てくれたのに悪いけど。俺を寝かせてくれ」
「……え? 俺。せっかく来たのに? 晴人も今から来ますよ」
「あ? 晴人は今頃また迷子になってるんじゃね? 晴人の家から高校までは徒歩十分の距離だよな。二時間かけてきてるからな」
(……俺。晴人を連れてくればよかった。……あの方向音痴)
「まぁ、来たなら家あがれよ」
「お邪魔します」
琉花は玄関で靴を揃えた。龍之介はフラフラしている。熱が出てる。
「……龍さん、栄養つけたほうが良いっすよ? え?」
龍之介はキッチンは料理に使うお釜も洗ってない状態。以前龍之介の家を訪ねたときは綺麗に掃除されていたが。これでは家は荒れ放題だ。
琉花に電話の着信があった。
「琉花〜! ここは一体どこなんだ? 俺。全然解んないんだけど」
「今いる場所はわかる? なにか目印になりそうな」
「ああ、あれだ! 龍之介の家にかなり近い! 東京スカイツリーが見える!」
「……墨田区にいるのかよ! タクシーに乗ってこい!」
「龍さん何してんスか?」
「俺なんか疲れが頂点に達していっつもお袋がしている、メイクがしたくなった」
「龍さん! な、なんスか? その化け物みたいなつけまつげ!」
「お袋はコスプレイヤーしてるから被り物でも被ってみるか」
リビングにはカウチソファーが置いてある。琉花は龍之介をカウチソファーに無理やり座らせ、冷静にさせようとした。
「八ツ橋でも食べて精力つけて寝ましょうよ!」
龍之介は急にリモコンをつけ始める。おどろおどろしい音楽とともに、テレビから流れるのはホラー映画のロングだ。肌子が髪を垂らし、襲いかかる。琉花はホラー映画が苦手なのだ。
「ぎゃ~! 流石に怖すぎる! 龍さん、疲れで発熱して変になってる!」
「ギャァァァ! 肌子怖すぎる!」
琉花は、カウチソファーに座って気絶した。龍之介はものすごいコスプレメイクをし始めた。
◇◇◇
親切なタクシー運転手に乗り合わせ、晴人は龍之介の家に向かう。タクシーを下車した。龍之介の一軒家についた。
「龍之介〜! 琉花〜! 俺。九時頃出発してやっと三時頃に龍之介の家についた!」
(あれ? 玄関が開いてる?)
「ギャァァァ!」
「え?」
(こ、これは大音量でヴェルディの怒りの日をかけてる?)
菜津子の化粧品で龍之介は全身に鹿のボディペイントアートをしている。
「り、龍之介、ど、どうしたの?」
「熱で変になってる!」
「こ、こういうときは……」
「たしか」
龍之介はゴキブリが苦手なはずだ。
「龍さん! ゴキブリがでましたッスよ!」
「え? どこどこ?」
龍之介はそう言って失神した。二人がかりで二階の寝室に寝かせに行った。
「こ、こういうとき……ど、どうする?」
「龍さん、寝始めたッスね」
「今日は龍之介の家に泊まるか」
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