第九話 花火大会
まりあは眠い目をこすった。水色の花模様の、可愛らしい浴衣だった。浴衣の着付けは自分でもできる。まりあは浴衣を着て、髪をセットした。髪に飾りを刺した。後れ毛を巻いた。龍之介から頂いたイヤリングを付けた。メイクをしてみた。まりあは思う。メイク後は自分が自分じゃないみたい。
(龍之介くんに喜んでもらえるかな?)
笑みを浮かべる。浴衣を着て夏祭りの待ち合わせ場所に着いた。桃華はすでに浴衣を着て待っていた。桃華は朝顔の浴衣姿だ。
「桃華ちゃん、浴衣姿とてもかわいい!」
「それは、あんたもね」
「ほほう。化粧したの?」
「そうだよー」
「桜井が喜ぶよ。あと、今日は蘇枋がいるからね。桜井とはぐれないようにね」
「沖田……。あんたなんて格好してきたの……」
「俺。お爺ちゃんからもらった、破面ライダーのスーツ着てきた」
「沖田のおじいさん、破面ライダーのスーツアクターやってたもんね。……まぁ、似合ってるよ」
「桶川さん?」
「ああ、これは。これは。風下じゃない」
「桶川さん、めちゃめちゃ今日も可愛いっスよ!」
「そ、そう。なら良かった」
「沖田。悠木さんなら、屋台の方に行ってるよ」
「いってきまーす! 望月と桶川、じゃあね?」
晴人はスキップしながら悠木を追いかけて行った。桃華はまりあに向かってニッコリした。
「今日は、私は風下と二人で金魚掬いするよ。まりあも桜井と一緒に夏祭り楽しんでね。じゃあ、まりあ。行ってきます」
足元だけを見て歩くと、まりあは思いっきり人にぶつかった。
「あっ、ごめんなさい!」
「まりあさん?」
「ふ、藤谷くん?」
「俺とデートしてくれるのー!?」
「さ、叫ばれてしまっても」
「まりあさんが好きだー!」
拡声器を持っていた。また藤谷の声が、ハウリングした。
「まりあさん、俺と手を繋いでも良いでしょうか?」
「えっ?」
まりあの脳裏に、龍之介の姿が浮かぶ。どうしよう。すると龍之介は蘇枋と屋台で串団子を食べていた。まりあは目をパチクリと瞬き。蘇枋と結ばれるのか、悲しくも思った。
◇◇◇
「蘇枋。あんたアイツに何もしねぇよな?」
「特になにもしないけど?」
「龍之介。そんなにあの子のことが忘れられないの?」
「……そうだよ」
「龍之介が私に頼み込んでくるなんてねぇ。それくらい好きなの?」
「……そうだよ」
「頼み込んでくるならまた付き合い直して?」
「断る。あんたは確かに俺のいとこだけどな。アイツに何もしないって約束できるんだろうな?」
「……約束? おじい様の三周忌の帰り道に龍之介と会えて嬉しかったよ」
「……三周忌の帰り道は一緒に帰れて嬉しかった。ありがとう。龍之介?」
「その腕を離せよ」
「あの子には何もしない。その代わりにリングを買ってほしいな」
「……テメェ。相変わらず、強欲な奴だな」
「あ」
◇◇◇
まりあは藤谷とベンチに座った。
「桜井とか。まりあさんのことを不安にさせるやつなんて。まりあさん、泣き顔だよ……」
まりあはめかし込んできたにも関わらず。目が潤んできた。
「藤谷くん。わたしは大丈夫だから自分のグループに戻ってほしいな」
「で、でも……。まりあさんが心配だよ」
「……大丈夫だよ」
「わかった。またね?」
ベンチに腰掛けた。ひとりで観る打上花火を見ていた。帰ろうかな、と思った矢先。龍之介の声がした。
「まりあ?」
「……龍之介くん?」
「まりあ。悪かった」
「いいよー」
「葉月ちゃんと一緒に居たね」
「……言い訳になるが。俺と蘇枋とはいとこ。祖父の三周忌でたまたま一緒に来ただけだ」
「そっか。龍之介くんと葉月ちゃんは付き合ってるのかな?」
「違う」
「……そっか」
「怒ってるか?」
「……怒ってるよ」
「……まりあ。顔を上げてくれ」
「え?」
「俺がプレゼントしたイヤリングをつけたのか。浴衣ともすごく似合ってる」
「まりあ。俺は蘇枋とは付き合ってはいない」
龍之介は屋台の食べ物をたくさん買い込んだ。串団子につくね棒。綿菓子。焼きそば。のり塩味のフライドポテト。たこ焼き。
「食うか?」
「うん!」
まりあは龍之介と屋台を回ったりした。龍之介と食べ歩きをしていた。龍之介とベンチに腰掛けた。
「美味しそー!」
まりあは食が進む。のり塩味のフライドポテトを食べていた。
「……あんた」
「え?」
「今日はどうするんだ? 俺と屋台を回ったよな」
「うん! 龍之介くんは?」
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