第六話 喧嘩

「桃華ちゃん、おはよー」

「まりあ! 学校中であんたの噂が流れてる」


 まりあは瞬きした。

「噂?」


「あんた、入野川いりのがわと付き合ってる? あんたが男遊びするような性格にあたしは見えないわ。そんな訳ないでしょう。そんなしょうもないあんたの噂が校内で流れてんのよ」


「入野川先輩とわたしが付き合ってる? いつ頃の話?」


「昨日の夜みたいよ」


 痩せて背の高い男性が現れた。髪は黒髪で精悍な顔立ちだ。だが、いきなり抱きつかれた。


「ちょっと! あんた! まりあのことを離してくれる?」


「まりあちゃん? 俺と付き合ってるよね」

「そんな覚えはありません!」


「釣れないなぁ」


「や、やめろよ! 入野川さん!」

 と晴人も怒っている。


 ◇◇◇


「……珍しく教室に生徒が集まってる。琉花。なんか怪しくねぇか?」

「なんかそうッスよね」

「龍之介! 琉花! 望月が!」

「望月さんが……入野川にやられてる!」


「……まりあが?」

 二人は観衆をかき分けた。そこでは入野川がまりあにキスしていた。


「テメェ! 何してんだよ!」

「……ガタガタうるせぇな! 俺のほうがタッチが早いんだよ」


「龍之介くん!」


 龍之介は駆けつけた。相変わらず、入野川は挑発してくる。


「……お前はこのクラスの不良だっけ? お前はどう思ってんの? この子のことを」


 龍之介は怒号を挙げる。


「……あんたには関係ねぇ。表にでろ」


「表に? 表ってどこかな? 俺はだよ」


「俺はあんたと喧嘩したいんだよ。やらねぇのか? 腰抜け」


「お前。今なんて言った?」

「聞こえなかったか? 俺はあんたが腰抜けだって言ったんだよ」


「ぶっ潰す!」


 入野川は龍之介の胸ぐらをつかむ。

 入野川は龍之介の頬を殴った。入野川は勝機と思ったが。違ったようだ。入野川は龍之介の頬に拳骨を振っても、殴ってもびくともしない。龍之介は頬から血を流した。だが、龍之介はニタリと笑った。龍之介は入野川に指をさして、嘲笑あざわらった。


「ギャハハ! あんたを見てると笑っちゃうよな! ? この出来損ないが?」


 龍之介はギャハハと大声で入野川を嘲笑った。大笑いをしているにも関わらず、龍之介は目が笑ってない。入野川は龍之介の圧力に負けた。入野川は怖気づく。入野川は龍之介の胸ぐらをつかむのを止めた。龍之介の態度は余裕綽々よゆうしゃくしゃくだ。龍之介は鋭い眼光で睨んだ。


「あんたは役立たず。ぼんくら。のろま。能無し。虎の威を借る狐だよ」

 龍之介は入野川を罵った。

 龍之介の眼光が鋭く。入野川は怯んだ。龍之介はギャハハと嘲笑いをやめない。指差し、入野川を罵った。龍之介は机を思いっきり蹴り上げ、思いっきり怒号を挙げる。


「ふざけんじゃねぇ! 俺と喧嘩でタイマンはれない腰抜け野郎が!」


 教室が水を打ったように静かになった。


「今後、まりあに近づくことも俺は断じて許さねぇ……。もう、こいつに二度と手出しするな。な?」


「分かった。も、もう手出しはしない」


「ちょっとなんですか?」


「入野川さんが望月さんを手籠てごめにしようとしてましったス」

 と琉花が言う。


「入野川。桜井。職員室まで来い」


 ◇◇◇


「入野川。二週間停学処分を言い渡す」


「後、桜井。お前は厳重注意だ」


 また厄介なことになった。龍之介は厳重注意。入野川は二週間停学処分となった。


「龍さん! 大丈夫ッスか?」

「まぁな」


「桜井。あんた大丈夫?」

「まぁな」

「……まりあ?」


 まりあの目は潤んでいた。


「龍之介くんが……わたしのせいで」

「……あんたが謝ることじゃねぇ。それより怪我は? ちゃんと医者に診てもらったか?」


「……うん」


「助けてくれてありがとう」


 龍之介はまりあの頭をポンポンと撫でた。まりあは照れくさそうだ。

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