第三話 放課後デート

 今日も龍之介が作ったお弁当を食べて学校生活を楽しんだ。もうすぐ、夏休みなのか、とまりあは気持ちが弾んだ。ホームルームだ。静まり返る教室。


「まりあー。このファミレスの飯うまそー」

「美味しそー!」

 まりあは答えた。するとナレーターみたいなきれいな女性の声がする。その声は、龍之介と呼んでいた。


「ああ、蘇枋すおう?」


「龍之介。今度予定ある?」

 女子生徒が話しかけた。黒髪ボブヘア。華やかではっきりとした顔立ちだ。それに女子生徒はスタイルも良い。まりあは思った。龍之介は恋しい人と交際でもしてるのか、と思った。だが、まりあの予想に反した。


「……予定?」


「龍之介。私達、よりを戻さない?」

「そんなくだらないことを聞きに? 俺への嫌がらせか? 蘇枋。それだったら教室にとっとと帰れよ」


「ああ、まだあの子のことを引きずってるの?」

「……お前には関係無いだろ」


「あの子のことをまだ忘れられなかったの?」

「でけえ声あげんじゃねぇ。アイツ云々より、俺はお前を忘れたいんだよ。早く失せな」


「龍之介、ピアス開けたの? いつもと違う雰囲気で格好良いじゃん」


「……いちいち絡んでくるんじゃねぇよ。俺はあんたといるとうんざりしてくる。それにこれは、ピアスじゃねぇよ。イヤリングだよ。さっさと教室に帰りな」


「龍之介。またね」


 龍之介は蘇枋の誘いをきっぱり断っていた。これが元カノ、というものか。蘇枋は龍之介がまだあの子のことを引きずってるの、と言っていた。あの子とは龍之介に恋しい人でも居るのか。蘇枋は龍之介に未練があるのか。まりあは恋愛は難解なものだと思った。


「龍さん、あの人は葉月はずきさん?」

 と琉花は、龍之介に尋ねた。溜め息をついた。


「……そうだよ」

「ああ、あの人、大変ッスね」


「まりあ。桜井が話たがってるよ」


「……あんた。放課後なにか予定あるか?」

「放課後は予定は特にないかな?」


「……ふーん。放課後は予定を空けておいてもらっても良い?」


「いいよー」

 とまりあは返答した。すると新しく担任を勤める先生の声がした。


「お? お前ら、放課後デート? 青春じゃないか?」


「浅川さん?」

 琉花が答える。

 新しく担任を勤める浅川あさかわ礼二れいじ先生が現れた。サラサラとした黒髪。浅川は色白で切れ長の目が印象深い、涼しげな優男だ。割とガッシリとした体型だ。


「龍之介。辰之介たつのすけは元気か?」

「……兄貴? まぁ、元気ですが」

「辰之介?」


「望月さんは、知らなかったのか? 俺は龍之介の兄貴と同窓だよ」

 浅川は答える。


「あ、浅川先生!」

 悠木かえでが浅川に声をかけた。


「ああ、悠木さん。俺になにか用事かな?」

「あ、あの。その」


「ん?」

 かえでは思わず、浅川に赤面した。

「お勉強見てほしいと思いまして」


「浅川さん! お、俺も!」


 晴人が、かえでに一緒に勉強しようと言っていた。


「じゃあ、悠木さんと晴人。一緒に現代文のお勉強しようか」


「はい!」


「……お、沖田くん。それは世界地図だよ。放課後は現代文だよ」


 かえでと晴人も一緒に勉強が出来て嬉しそうだ。すると琉花は桃華に話し掛ける。


「桶川さん! 相変わらず美人さんっス! 今日こそは俺と一緒に……!」

「ん? まりあが桜井と一緒なら、わかったわよ。私と一緒に帰る?」


「よっしゃー!」

 琉花は叫び上げた。


「琉花、桶川と帰れることになって良かったじゃねぇか」

 龍之介は琉花に、ふふっと微笑んだ。まりあは思う。龍之介があんなに嬉しそうに微笑む姿は見たことが無い。


「ありがとうございます! 龍さんも幸運を!」


 ◇◇◇


「よーし! 今日は桜井くんと放課後を過ごすんだね。どこが良いのかな?」

「……俺とショッピングなんてどうだ?」


 この百貨店に行くのか。まりあは大きなショッピングモールを目にしたことがない。眼の前にある大きい商業施設に釘付けだ。


「放課後は百貨店でご飯なのかな?」

「……あんた。いまはデパートって言うんだよ」


「えー! 知らなかったよー! いまはデパートって言うんだね!」


「俺と入るか?」

 二人は入店する。するとレフトの店内には可愛らしい七夕飾りが飾られていた。


「すごい! かわいい七夕飾りがあるんだね!」

「……あんたはガキみたいに喜ぶんだな」

 龍之介は言う。

 ふと、龍之介は七夕飾りを見つめる、まりあの横顔を見た。まりあを愛おしいと思った。

(まりあは顔も中身も可愛い人だな)

 龍之介はそう思った。


「……あんた、私服はいつもどこで探してる?」

「私服? いつも通販とかで買ってるよ」


「……あんたはこんなの似合うじゃねぇの?」

「すごくこのワンピースかわいい!」


 こうして龍之介とまりあは二人きりの時間を過ごす。ショッピングしたり、アクセサリーを見たり。帰り道に二人で歩いていた。


 ◇◇◇


 西陽の中を龍之介とまりあは二人で歩く。


「龍之介くん、今日はありがとうー! とても楽しかったよー!」

 まりあは龍之介の手をブンブン振った。


「……別に」


「龍之介くん! 今日は買い物に付き合ってくれてありがとうー! すごく楽しかったよ!」


「まぁな。俺はあんたが気に入ってるんだ。あんたは?」

 龍之介は尋ねた。まりあにとって好きな異性の友達がいるなら、それは龍之介だ。龍之介は友達としてまりあが好きなのだろう。


「それはわたしも優しい桜井くん大好きだよー!」

 まりあは返答した。


「また明日!」

「また明日な!」

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