ステップ11
5番街に着いた時には、もうパレードの行進が始まっていた。マンハッタンは緑色に染まり、道をゆく人々は緑色の服を着たり、シャムロックの装飾物を身に付けている。かく言う僕たちも、プープーはクローバーのネックレスをワンポイントとして身に付け、僕は薄緑のシャツ、ルルは緑のセーターを着ている。
「はぐれないように固まって歩こう」
ルルに言われる前から、プープーとハッピーはもう引き剥がせないくらいにくっ付いて歩いていたけれど、僕たちもぴったり歩こう。ということらしい。ルルの肉球付きもふもふの感触が腰に回される。まあ、悪い気はしない。
僕は言う。「川まで緑色にするなんてやることが派手だね」
「ああ」
ルルの頭は完全に人混みから頭一つ分高い所にあって、何を探しているのかキョロキョロしている。
前を歩くハッピーは、プープーに頭を預けながら、目に入る仮装パレード隊ひとりひとりに手を振って、ここからでもハッピーの楽しい気分が伝わってくる。
プープーはハッピーの隣で、ハッピーの顔しか見ていない。プープーの表情はこれまで見た中で一番穏やかで、こう言っている。
この時間が永遠に続けばいいのに。
OK、僕は知っている。それは叶わない願いだ。
「チッ」
ルルが舌打ちをする。
前の方から、人混みをかき分けて制服を着た男がこっちに向かってきている気がする。男の視線は手持ちの端末に表示されている何かと彼女たち、プープーの方を何度も往復していて、男は僕には警察に見える。
男に気付いたハッピーの足が止まる。
「大丈夫よ」プープーがハッピーの耳元に囁いているのが見える。
男がプープーの前で立ち止まる。
「ちょっといいですか」
男はバッジを掲げている。
プープーは言う。「ええ、もちろん」
男は言う。「確認したいことがあるので、付いてきて貰っても?」
男の堅い表情は言っている。拒否権は無い。
その時、僕の隣に居たはずのルルが男の隣に立っていて、ルルは男の肩に手を置いて言う。「よう、俺の友達に何か用か?」
男は嫌悪感を隠さずに言う。「おい、痛い目見ねえうちにその獣臭え手をどけな」
ルルは言う。「そうカッカするなよ、な?」ルルは男の肩から手を離して、両手を広げて見せる。「俺の友達に用があるのかどうか聞いただけだ」
男は言う。「ああ、あるね。付いてきてもらう」
ルルは言う。「イヤだと言ったら?」
男の空いている方の手は、腰のホルスターに伸びかけている。男はバッジをしまうと、無線に手を伸ばした──
次の瞬間、ルルの姿が掻き消えた。刹那後、男は人混みに突き飛ばされ、ルルの手には元から引きちぎられた無線機の片割れが握られている。
ルルは言う。「タイマンでいこうぜ」
「てめえ、この──獣野郎!」
周りの人混みは突然自分たちに体当たりしてきた警官に悪態を吐いている。男が人混みにもみくちゃにされている隙に、プープーとハッピーが僕の方に合流してきた。
プープーが僕に言う。「あのオオカミ男、何考えてるわけ!」
僕は言う。「多分、なんらかの法に触れることかな」
もう一度ルルの方を見ると、ルルは男と格闘の真っ最中だった。ルルは相手に拳銃を抜かせまいと腕を捻り上げ、男はそこから抜け出そうともがいている。
「おい!ベイビー!」ルルが格闘しながら僕に向かって叫ぶ。「2人を連れて──行けよ。俺が時間を稼ぐ」
「は?」
僕が何か言い返す前に、ルルは男に噛み付いて、凄い勢いで引きずって四足で走って行ってしまった。
プープーが呆気に取られて言う。「アイツ、四つ足で走れたのね」
僕は言う。「行こう。車まで距離がある」ルルは本気の時しか四つ足にならない。僕がハッピーを抱えて走ろう。
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