海と一人旅

「よし、今日はでかけようか!時間もお金もあるし」


久々の海。


ホテルから東京湾を見ると、思いの外都会も景色の端に映り込む。


週末であっても働く人々が目に入り、基本的にゆるやかな時の流れの中に、ピリッとした氷のような亀裂が時々入る。


僕らはお金のために、なかなかゆるやかではいられないな、と思う。


ホテルをチェックアウトして、海岸に向かった。早朝の湾岸は23区内と言えど人はまばらで歩きやすい。


水面が目と鼻の先にあるベンチに座り込み、僕は友人と通話を開始した。


風は冷たい。匂いは特にしない。遠くにはビルと薄青の海。


海岸を眺めていると汽笛が聞こえ、クルーズ客船に多くの家族客とカップルが列を成していく。


私は東京湾を留学生にリモートで見せる約束をしていたため、画面に向かって英語を話しつつ、クルーズに理路整然と流れ込む人々を眺めた。


観光ができるというのは多少なりとも生活に余裕のある人間がすることだと思う。時間の余裕もある。あのクルーズに流れ込む人々もきっとそうなのだろうと感じた。ホテルに泊まり、悠長に携帯片手にベンチに座る私もその一員と言える。


私の親戚や知り合いであまりに困窮している人はそもそも外には仕事以外で出かけないし、観光をしに出かける人々は全国民だと思っていたら意外と違ったと感じた次第。


ベンチから立って歩きながら、東京の風景を海外の友人に見せる。


「日本在住の人にとっては普通の風景かもしれないけど、私からしたら素敵な風景だ」


と彼女は言った。彼女は今、無料で家から観光している。意外と安上がりかもしれない。

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