第36話・戦利品

 ゼノン達から説教を受けているとノアがノックされた。


「入っても大丈夫か?」

「あ、大丈夫ですよ」


 部屋の外から聞こえたのはシフール家の当主であるギルム様。彼はメイドにドアを開けられた後に部屋の中に入ってきた。

 その背後にはシフール家の執事さんがカートに何かを乗せており、見た感じはリュック型の鞄と大きな赤い刃を持つ戦斧。

 他には魔石と赤い宝石みたいな物が乗っており、おそらくはクリムゾン・ミノタウロスのドロップアイテムだろう。


「父上! グレイが!」

「まさか、何かあったのか!?」

「グレイ君は自分の命よりもドロップアイテムの事を気にしてました」

「え? あー、なるほど……」


 何か思うところがあったのかギルム様が口に手を当てる。それを見たゼノンが不機嫌そうに睨んだ。


「父上……まさか」

「まあ、その、なんだ? グレイが気にするのも仕方ないと思うぞ」

「ギルム様!?」

「まさかギルム様もご主人様と同じ考えをしているんだね」


 目を見開いて驚くリードスさんと頭を抱えているルナ。ハハッと冷や汗を掻きながら頭を掻いているギルム様。

 周りにいる執事さん達はジト目を浮かべており、呆れた表情を浮かべている人もいる。


「ギルム様、グレイ様に伝える事がありますよね」

「そ、そうだな」


 居心地が悪くなったのかギルム様はオホンと咳払い。真面目な表情になりながら話し始めた。


「グレイ、そのままでいいのでコチラの話を聞いてもらえるか?」

「ええ、大丈夫ですよ」

「病み上がりなのにすまないな」


 思うところがあるのか渋い表情を浮かべるギルム様。それを察知したのかリードスさんがゼノンを外に連れて行った。


「ちょ、リードス先生!?」

「ゼノン様は聞かない方が良さそうですよね」

「そうだな」


 暴れるゼノンを無理矢理引っ張り部屋の外に出していくリードスさん。俺は抱きついているルナを見て外に出て欲しいと思う。だが……。


「僕は外に出ないよ」

「お前な……」

「追い出すなら命令を使って」


 今まで全く使った事のない命令権。俺はため息を吐きながら命令しようとした時にギルム様が頷く。


「彼女にも出て欲しいところだがその様子なら無理そうだな」

「自分の息子は追い出してその言い分はないですよね」

「君、意外と毒舌だな」

「そりゃこのドロップアイテムを運ぶのが大変でしたからね」


 執事さんがカートに乗せて運んできた鞄と魔石類はともかく大きな戦斧を運ぶのは大変だろう。その証拠に大きなカートに乗せており曲がる時に苦労しそうだ。


「まあ、それはさておきグレイ。このドロップアイテムは君に権利があるがどうする?」

「え? なんで自分が全て受け取ってもいいのですか?」

「それは君がボスを1人で倒したからだな」


 ギルム様は何を当たり前の事と思っているみたいで呆れていた。俺はその事を聞いてびっくりしていると書類を手にした執事さんが口を開く。


「当主様、まずはグレイ様の復帰への言葉はないのですか?」

「ああ、そうだったな」

(この人が辺境伯の当主で大丈夫か)


 俺は最初に出会った時と全く違うギルム様を見て混乱する。だがギルム様はそんな事は気にせずに話し始めた。


「まずは我が息子であるゼノン……そして家の者であるアシュリーとリードスを救ってもらったことを感謝する!」

「え、いや! 自分もギリギリだったので頭を上げてください!」

「そ、そうか!」


 ガバッと勢いよく頭を下げてきたギルム様。俺は焦って頭を上げてもらい、改めて話し始める。


「君が無事でよかった」

「そういえば自分が赤いミノタウロスを倒した後はどうなったのですか?」

「それは……」


 ギルム様の話をまとめると。俺がクリムゾン・ミノタウロスを倒した後、ルナ達は手に持っていた回復ポーションを俺に飲ませた。そこで応急処置をしいる間にリードスさんがドロップアイテムを回収。ボスを倒した時に出る帰還の転移陣に乗って街の転移門に戻った。

 そこからすぐに俺をシフール辺境伯様の家に運び治癒士を呼んで水属性の回復魔法を使ってもらい怪我を治す。だが失った血が戻るわけじゃないのでそのまま俺は寝たきりの状態になりルナ達が看病してくれた。


(かなり心配かけたみたいだな)


 この話を聞いて少し申し訳なくなっていると抱きついたままのルナがさっきと同じく俺の胸に顔を擦り付けた。


「あのルナさん……。ギルム様の前だからそろそろ離れてくれないか?」

「ヤダ」

「彼女に相当懐かれているな」


 カラカラと笑顔を浮かべているギルム様と俺の胸に顔を埋めて表情が見えないルナ。俺は少し頭が痛くなりながらギルム様の話に耳を傾ける。


「グレイがその奴隷を大切に思っていると同時に彼女もお前の事を大切に思っているみたいに見えるぞ」

「それは嬉しい事ですが」


 流石に恥ずかしくなってきたので離れて欲しい。だがルナにはその事が伝わってないのかさらに強い力で抱き締めてきた。

 

(これ普通はアウトだよな)


 相手がギルム様だから良いものの他の貴族相手にこの状態はまずい。俺はルナをしっかり躾けないといけないと思いながらため息を吐く。



 

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