第35話・意識が戻る
クリムゾン・ミノタウロスをギリギリのところで討伐。なんかプカプカと浮かぶ感覚を感じた後、俺は体の痛みを感じて目を開ける。
「ここは何処だ?」
目を開けると真っ白な天井……いや、見た事があったわ。
(シフール家の屋敷だよな)
目に入ってきた光景はシフール家の屋敷の天井。ふと顔を傾けてみると窓から明るい日差しが入っており、椅子に座ったルナがコクリと首を傾けながら寝ていた。
「うぐっ、まだ体が痛いな」
俺は水の癒しを使うが痛みはマシになった程度で辛い。なので回復ポーションを使おうと周りをキョロキョロとしているとルナが目を覚ました。
「うーん、ご主人様ぁ」
「まだ寝ていていいぞ」
「そんなわけには……え? ご主人様!?」
「ちょ、おまっ! ぐへっ!?」
いきなり目を大きく開けたルナは椅子を蹴って突っ込んできた。俺は避ける事ができずにモロに食いお腹を抑えたくなる。
「お、お前な!」
流石に怪我人相手にすることじゃないだろ。そう言いたくなったが大粒の涙を流すルナを見て思わず黙る。
「良かった! ご主人様が生きていたよ」
「あのな、俺はそう簡単に死ぬ気はないぞ」
(少なくとも守る物がある限りな)
ワンワンと泣くルナを見て頭を撫でているとコンコンとドアがノックされた。
「入っても大丈夫でしょうか?」
「入っても大丈夫ですよ」
「え? し、失礼します!」
バタンとドアを開けて入ってきたのはアシュリーさんで彼女はコチラを見て目を見開いた。
「お目覚めされたのですね!」
「え、まあ、はい」
最近はクールではなく残念さがあったアシュリーさんだが、今は目に涙を溜めていた。俺は少し呆れながらアシュリーさんに向かって言葉を返す。
「あの、自分はどれくらい寝てましたか?」
「それは……。グレイ様が赤いミノタウロスを倒されてからちょうど1週間です」
「い、1週間も寝ていたのですね」
「そうです! 一時は虫の息でしたが生きておられてよかったです!」
月光剣・クレールの力が無ければ全滅していた可能性が高い。俺は自分が持つチートに感謝しているとアシュリーさんがドタドタと走って部屋から出て行く。
「では、失礼します!」
「あ、はい」
(まさかアシュリーさんまでこんなに泣いているとは)
最初に出会った時のクールさが潰れている気がすると思い、俺はため息を吐くと同時に胸に抱きついているルナが顔を上げた。
「本当に生きていてよかった!」
「お前な……。俺が簡単に死ぬわけないだろ」
「なら、僕はご主人様を守れるくらい強くならないとね!」
泣いた影響で目を腫らしているルナを見た俺は苦笑いを浮かべる。
(流石はメインヒロインだな)
ルナを顔を見て思わず顔面偏差値の事を考えてしまい、俺は自分がズレているのかなと思い始める。
ーーーー
あの後、ゼノンとリードスさんが部屋のドアを勢いよく開ける。リードスさんはともかくゼノンは涙目になっていたので驚く。
「やっと起きたか!」
「まあ、気持ちよく寝させてもらったよ」
ゼノン相手に軽口を叩いているとリードスさんが呆れたような笑顔を浮かべていた。
「アシュリーさんからグレイ君が目を覚ました事を聞いて急いで来たんだけど」
「そんなに急いで来なくても大丈夫ですよ」
「いやいや!? 君は僕達の恩人だよ!」
「それにあんな奥の手を隠しているとは思わなかったぜ」
奥の手か……。上位水魔法はともかく月光剣・クレールは突っ込まれたくない。その事を考えていると抱きついたままのルナが口を開く。
「ご主人様は何か隠しているよね」
「まあ、手札は欲しいだろ」
「うーん? 見た感じまだ何かありそうだね」
「それはどうでしょう」
「その反応……お前、隠し事があるだろ!」
ゼノンに問い詰められそうになるが俺は誤魔化すように笑う。それを見たルナがヤレヤレと首を振った。
「何も言いたくなさそうだね」
「そりゃ秘密は誰にでもあるさ」
「じゃあ、その秘密を僕が知る時は来るのかな?」
「さあな」
今は曖昧な答えしか出せない。
(この世界が物語だと伝えられないよな)
ゲームの世界が元になっている。そんな事を素直に話せば頭がおかしいやつ扱いされるのは目に見えるので黙っておく。
「なんか気になるぜ」
「そうか? まあ、それよりも聞きたい事があるんだが大丈夫か?」
「聞きたい事?」
「あの赤いミノタウロスを倒した時に出た宝箱はどうなったんだ」
「え? まさかのソッチ!?」
「なんかおかしな事を言ったか?」
あんまり出ない激レアの金箱が2つだぞ。しかも隠しボスなのでかなりレアな物が入っているはず。
俺はその事を思い出して質問するとルナ達の目が点になった。
「いやいや!? それは今聞く事かな?」
「その反応を見て察しました」
「そ、そうだよね……」
「宝箱の中身がハズレだったのですね」
「「「そうじゃない!!」」」
(あれー?)
なんか答えを間違ったみたいなので疑問に思う。だがルナ達はもはや呆れて固まっているみたいだ。
「お前な! さっきまで意識を失って寝ていたんだぞ!」
「それで僕達がどんだけ心配したと思う?」
「ご主人様はその辺がわかってないよ!」
「ええ……」
ツッコミどころはあるが相手の意見の方が正論みたいだ。俺は納得は出来ないが理解はできたので彼らの説教を聞く事になった。
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