第34話・ムーンライト・ストライク

 クリムゾン・ミノタウロスに総攻撃を仕掛けるゼノン達だったが相手の皮膚が硬くて刃が通らない。


「か、硬い!」

「嘘……」

「なんで攻撃が通らないんだ!?」

「これは強化魔法か!」


 加護がバトルメイドで短剣を手にしているアシュリーさんの攻撃が通らないのはわかるが、純粋なアタッカーであるリードスさん達の攻撃も通らない。


(やっぱりそうか!)


 俺はゲームでのクリムゾン・ミノタウロスを思い出す。コイツには高い物理防御耐性があり生半可な攻撃は効かない。だがその事を思い出した時には時すでに遅く相手は手に持った戦斧を地面に叩きつけた。


《ブモオォ!》

「なっ!?」

「ぐうぅ!」

 

 みんな直撃は避けたが地面に戦斧を叩きつけた事で衝撃波が起きてルナ達は壁際まで吹き飛ぶ。


「おいおい、バカみたいな威力だな……」


 吹き飛んだゼノン達に回復魔法をかけるが彼らは立ち上がれない。クリムゾン・ミノタウロスは余裕そうな表情で笑っており、勝負はついたみたいな雰囲気になっている。


(悪いがそう簡単にはやられないぞ)


 比較的離れていた俺は衝撃波の影響を最小限しか受けてないので立ち上がる。


「もう出し惜しみはしている場合じゃないな」


 個人的には他人に見せたくなかったが俺は右手に持った片手剣を鞘に戻してクリムゾン・ミノタウロスに突っ込む。


「なにをする気だ!」

「ご、ご主人様!」


 地面に転がっているゼノンとルナの悲痛な声が聞こえるが俺は無視して相手に接近。クリムゾン・ミノタウロスは余裕そうな表情を浮かべて戦斧を上段に構えて振り下ろしてきた。


「ここだ! こい、月光剣・クレール!!」

《ブモォ!?》

「なっ!?」

「え!?」


 相手の一撃を喰らう寸前、俺は奥の手である月光剣・クレールを召喚。この剣の能力である身体強化と耐性無効を使い相手の攻撃を回避して左腕を切り裂く。


「悪いが負ける気はない!」

《ブモオォォ!!》


 すれ違い様に左腕を切り落とされたクリムゾン・ミノタウロスは頭に血が昇ったのか鋭い目でコチラを睨みつけてくる。

 俺は内心でビビりながらも手に持っている月光剣・クレールを構えた。


(俺も守りたい物があるんでな!)


 せっかく出来た仲間を見殺しにしたくない。俺はクリムゾン・ミノタウロスから感じるプレッシャーに耐えきりながら駆け出す。


「あの剣は一体?」

「でもボスの左腕を切り裂いだぜ」

「か、かなりの業物に見えますが何処で手に入れたんでしょう?」

「それよりもグレイ君が時間を稼いでいる隙に回復しよう!」

「そうだね!」


 ゼノン達も諦めてないみたいで本人達のポーチに入っている回復ポーションを使い始めた。俺はその光景を横目で見ながらクリムゾン・ミノタウロスに立ち向かう。


「ハアァ!!」

《ブモ!》

「チイィ、流石に追撃は無理か!」


 手始めに剣を横薙ぎに払うスラッシュを発動。だがクリムゾン・ミノタウロスは右手に持つ戦斧でコチラの攻撃を防いだ。


(やっぱり隠しボスは伊達じゃないな!)


 さっきの攻撃で左腕を取れたのは大きい。俺は相手の攻撃に合わせてバックステップを踏む。

 

《ブモォ!》

「ぐえっ!?」

「グレイ様!」


 片腕なので先程の威力はないが衝撃波が発生。俺は剣を盾にする様にして受けるがバランスを崩して地面に転がる。


「クソッタレ! 力がありすぎだろ!?」


 直撃は避けたので俺は立ち上がり水魔法で自分の傷を癒す。正直魔力は残しておきたいが出し惜しみするの負けそうなので使う。


(このまま攻め切れるか?)


 月光剣・クレールが使える時間は1日20分。その間に仕留めきれなかったら勝ち目がかなり薄くなる。


《ブモ!!》

「チィ! カウンターパリィ!」


 クリムゾン・ミノタウロスは戦斧に炎を纏わせて振り下ろしてきた。俺はカウンターパリィで相手の戦斧を弾くが相手の蹴りを受ける。


「ガハッ! ぐうぅ!」


 カウンターパリィは物理攻撃しか弾けないのと連続攻撃に弱いのでさっきの蹴りは俺の腹に直撃。ゴロゴロと地面を転がり全身に強い痛みを感じた。おそらくだが骨の何本かやられた感覚があり頭から血を流す。


「グレイ君! クソ、なんで僕の体は動かないんだ!」

「お、おそらくですが状態異常です!」


 リードスさん達が動けない理由はおそらく状態異常の《恐怖》だ。この恐怖は麻痺と同じく体が動かなくなり、時間経過か魔法かアイテムを使わないと復活しない。

 

「ゲホッ!」

「ご主人様、もう立たないで!」

 

 ルナの悲痛な叫びが聞こえるが俺は剣を杖にして立ち上がる。


(悪いが負けたくないんだよ)


 クリムゾン・ミノタウロスが吐息の体勢に入った。この攻撃をマトモに受ければ俺は死ぬのは確定だろう。

 だがただで死ぬ気はないので俺は剣をクリムゾン・ミノタウロスの方に構えて魔法を唱える。


《ブモオォ!!》

「グレイ!!」

「ハハッ、ここでやられるわけにはいかないんだよ! ウォーターブラスター!!」

 

 クリムゾン・ミノタウロスが吐息を吐くタイミングに合わせて発動したのは上級水魔法のウォーターブラスター。この魔法は魔力消費が烈しい代わりに上級水魔法では最高の威力を誇る。

 

(押し切ってやる!!)


 属性相性が有利なのでフルパワーで押し切ろうとするが、相手の吐息の勢いもかなり強いので押し切れない。


《ブモオォ!!》

「ハアァァ!!」


 上級水魔法と火属性の吐息のぶつかり合い。制したのは……。


「食いやがれ!」

《ブモッ!?》


 歯を食いしばり残りの力を振り絞った俺の勝ち。勢いが上がったウォーターブラスターはクリムゾン・ミノタウロスの炎を突き破った。


《ブモォ!!》

「おいおい!?」


 だが相手は戦斧を盾にして直撃を防くがダメージは入った。俺は痛む体に鞭を打って相手に向かって新しい魔法を発動。


「ウォーターブースター!」


 俺の背中から青色の翼が生えて水を噴射。空中を飛ぶような勢いでクリムゾン・ミノタウロスに突っ込む。


「これで! 終わりだ!!」

《ブモオォ!》


 体勢を立て直したクリムゾン・ミノタウロスはヒビが入った戦斧を盾にしたので俺は最後の切り札を使う。


「ムーンライト・ストライク!!」


 ムーンライト・ストライク。今まで使った事ない技だが運命を賭けるのにちょうどいいスキルで名前を叫ぶ。

 すると月光剣・クレールの刀身が青白く輝き、横薙ぎに振ると相手の戦斧を切り裂いだ。


《ブモッ!?!?》

「とどめだ!!」


 戦斧がなくなった事で防御する方法がなくなったクリムゾン・ミノタウロス。俺は相手の腹に向かって刀身が青白く光る月光剣・クレールの刃を叩きつける。


(これでどうだ!)


 月光剣・クレールの刃はクリムゾン・ミノタウロスの腹をまるでバターをナイフで切るような感覚で切り裂く。


《ブモオォ!?》


 体を真っ二つにされたクリムゾン・ミノタウロスは地面に倒れ込み体を紫色の煙に変えた。

 そして残ったのは大きな魔石と宝箱。内訳は金色の宝箱が2つで隠しボス報酬の赤い宝箱が1つ。

 

「な、なんとか勝った」


 俺は右手に持っている月光剣・クレールを天高く上げる。そして剣を消した後、俺は地面にパタリと倒れ込み意識を失い始めた。


「ご主人様!?」

「「「グレイ(様)(君)!?」」」


 みんなの声が聞こえるが体が動かないし自分の血が地面にダラダラと流れている。

 もうここで終わりかなと思いながら俺は完全に意識を失う。

 

 

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