第30話・客室に集まるメンバー
稽古が終わり風呂に入った後、夕食時になったが大部屋にルナを連れて行く事ができなかった。なので俺はルナと共に客室で夜ご飯を食べようと思ったが……。
「来たぜ!」
「ぜ!」
「おいお前ら……」
笑顔を浮かべたゼノンとメルナが客室の中に入って来た。俺は思わず呆れているとアシュリーさんが自分の頭に手を置いて首を振る。
「ゼノン様とメルナ様は大広間に戻ってください」
「ええ!?」
「やだ!」
「お二人共……」
駄々をこねるゼノンとメルナだったが、アシュリーさんの絶対零度を思わせる冷たい視線を受けて部屋から出ていった。
「やっぱりアシュリーさんは怖いね」
「まあ、シフール辺境伯家のメイド長だからな」
冷たい冷気がテーブルでご飯を食べている俺達やメイドさん達にも伝わった。特に配膳してくれるメイドさん達の顔が真っ青なので可哀想に見える。
(敵には回したくないな)
個人的にはルナを受け入れてもらった恩もあるのでアシュリーさんとは敵対したくないと思う。だがこれから何が起きるかわからないので覚悟は決めておく。
「そういえばグレイ様、明日は迷宮に行かれるのですよね」
「は、はい」
先ほどの冷たい視線のままコチラを見てきたのて俺は体を震わせながら頷いた。
(怖え!?)
なんか冷たい女教師みたいに見えるのでビビっているとアシュリーさんの目がジト目になった。
「では、入るのはランク1の迷宮で大丈夫ですか?」
「もちろんです!」
ここでランクが上の迷宮に入りたいと言ったらどうなるかわからないので俺はカクカクと首を縦に振る。
「メンバーはグレイ様、ルナ様、私、ゼノン様、リードス先生で行く事になりますね」
「そ、そうですね」
「え? 僕も迷宮に行くの?」
「そりゃ当たり前だろ」
隣でお肉にかぶりついているルナはコチラの発言を聞いて固まった。まあ、ここで否定するのはアレなので俺は言葉を続ける。
「リードスさんとの模擬戦でルナも戦えたから大丈夫だろ」
「確かにそうだけど……足手まといにならないかな?」
「あの攻撃力を見て足手まといなら他の奴はどうなるんだ?」
「ですです」
訓練場にクレーターを作りまくったり手に持っていた訓練用の両手斧を破壊しまくったルナ。俺は訓練が終わった後、処理に翻弄されるフルール家の使用人さんを見て思わず頭を下げた。
(しかしまぁ、ルナの攻撃力は予想以上だな)
正直ゲームの時よりも強い気がしたので俺は疑問に思う。だがいくら考えたところで答えは出ないので食後の紅茶を飲んで心を落ち着かせる。
「ご主人様、また考えごと?」
「ん、まあそうだな」
「何を考えているの?」
狐耳をピコピコとさせているルナを見た俺は癒されながら言葉を返す。
「ルナの能力が思った以上に凄いなと思っただけだ」
「おお! じゃあ僕は無能じゃないんだね」
「ルナ様が無能なら他の人はもっと無能になりますよ」
カップに新しい紅茶を注いでいるアシュリーさんが呆れた口調で話す。それを聞いたルナは目を見開いた後、目に涙を溜める。
「うう!」
「ど、どうした!?」
さっきみたいに泣きそうになっているので俺は席から立ち上がりルナの方に移動。すると彼女は勢いよく抱きつきてきたのでなんとか受け止める。
「僕は無能じゃなかったよ!」
「訓練場にクレーターを作りまくれるほどの力を持っている奴が無能な訳ないだろ」
「よかったー!」
力も使い方次第なので難しいところだが、俺はパーティキャラにルナを入れていたので育成の方法もわかる。
ただこのゲームの知識を使うのは卑怯かもしれないので使い方に気をつけるように自戒。これからの事を考えながら泣いているルナの頭を撫でた。
ーーーー
ルナが落ち着いたので歯磨きなどをした後、俺は客室にあるベッドで寝ようと思ったが……。
「僕は床で大丈夫だよ」
「いやいや!? それなら俺がソファで寝るよ」
「悪いけどご主人様の場所をとるわけには行かない」
床で毛布を敷いて寝ようとしたルナを見た俺は冷や汗を流す。
「じゃあどうするの?」
「それは、うーん」
このまま言い合っても平行線のまま。なのでメイドさんに頼んで別の部屋を借りる手を思いつくがルナは首を振った。
「僕はご主人様の奴隷で護衛だよ」
「あ、そういえばそうだったな」
「まさか忘れていたの?」
「まあ、うん」
なんか居た堪れない雰囲気になったので誤魔化しているとルナが何かを思いついたのかポンと手を叩く。
「じゃあさ、一緒に寝るのはどう?」
「へ?」
「それなら高いの意見が通るよね」
狐の尻尾をブンブン振り回しているルナ。それを見た俺はモフモフしたい気持ちを抑えて口を開く。
「それならいいのか……」
「いいと思うよ」
太陽みたいな明るい笑顔を浮かべたルナを見た俺は思考停止したみたいに頷く。
そして客室に置いてあるダブルサイズのベッドの中に入る。
(マジかよ)
最初は端に行って離れようとしたがルナが俺の左腕に抱きついてきた。
「お、おい!?」
「フフフ、逃がさないよ」
何が面白いのか笑っているルナを見て若干引いているといきなり左耳に生暖かい感覚を感じる。
「美味しいね」
「ちょ、おい!?」
見た目は幼い少女なのにやっていることは大人みたいだ。俺は内心で焦りながらルナに耳を舐められる。
(これヤバいな……)
命令すれば止まるがルナはいい笑顔をしている。俺はその笑顔を見て痩せ我慢を続けることに決めた。
(子供の体で良かった)
もし前世の自分なら興奮していたかもしれない。その事を考えて苦笑いを浮かべながら俺は目を閉じる。
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