第29話・馬鹿力
シフール家の訓練場に到着。俺とルナは訓練用の装備を借りて中に入ると前と同じくゼノンがリードスさんと訓練をしていた。
「ゼノン様、いい感じだよ」
「オレの攻撃を簡単に防いでているのにいい攻撃なのか?」
「悪かったら指摘しているからね」
ゼノンの攻撃を容易く受け流しているリードスさんは木剣を横薙ぎに振るう。ここでゼノンの木剣が地面に転がり勝負がついた。
「ハァハァ……。やっぱりお前には勝てないのか」
「逆に僕が負けたら問題だけどね」
「グレイは勝っていたが?」
「アレは例外だよ」
カラカラと笑うリードスさんを見たゼノンは悔しそうにしていた。
(俺の場合は前世の記憶があるからな)
ある意味チート持ちなので俺は内心で罪悪感を感じているとリードスさんと目が合う。
「ちょうどいいところに来たね」
「え? ちょ!?」
「隣の獣人の少女もやり手に見えるし楽しめそうだ!」
「ご主人様、この狂った人は誰なのですか?」
「フルール辺境伯家の武術指南者だ」
「なんか残念そうに見えるよ」
残念な金髪イケメン。俺もルナと同意見なので頷いているとリードスさんは苦笑いを浮かべた。
「王都の学園に通ってきた時も同じことを言われたな……」
「そうなんですね」
「まあ、それよりも模擬戦をするかい?」
「では彼女からお願いします」
「ご主人様!?」
初っ端に戦いたくなかったのでルナの方に振ると彼女は大声をだして驚く。
(頑張ってくれ)
俺はルナから離れて座り込んでいるゼノンの方に移動。疲れているのか体が動かせないゼノンに水魔法を使い傷を癒す。
「ありがとな」
「いや別に大丈夫だ」
ゼノンの怪我を治した後、俺は彼の隣に座りルナとリードスさんの模擬戦を観察する。
「なあグレイ、あの金髪の少女は何者なんだ?」
「アイツは俺が衝動買いした奴隷だ」
「え? 奴隷なのか!?」
奴隷と聞いて目を見開くゼノンを他所に俺は言葉を続ける。
「個人的に欲しくなったんだよ」
「そ、そうか。でもお前、奴隷を買ってどうするんだ?」
「個人的には戦力にするつもりだぞ」
「戦力? アイツはそんなに強のか?」
「それは見ていたらわかる」
ルナが手に持つのは訓練用の両手斧で振り回すのが大変そうだ。それを見たリードスさんは余裕そうな表情をしており、両手剣をクルクル回した後に先をルナに向けた。
「さて始めようか」
「わかった」
両手斧の構えたルナ。リードスさんは余裕そうに笑っていたが、その笑みは数秒後に消えた。
「何処からでもかかってきてもいいよ!」
「ならいくよ! パワークラッシュ!」
「へっ!?」
ルナが使ったスキルは両手斧スキルのパワークラッシュ。この技は両手剣・大剣のスキルであるパワースラッシュの亜種。両手斧・ハンマーのスキルで使い勝手もいい。
(こうなる……ハァ!?)
スキルの事を思い出しなしているとルナが両手斧を上段から勢いよく振り下ろす。リードスさんは危険を感じたのかバックステップ踏み攻撃を回避したが……。
「地面が!?」
「流石にコレは予想外だな」
パワークラッシュを受けた地面には直径3メートルほどのクレーターができた。隣にいたゼノンの目が点になっている事を確認した俺は呆れながら続きを見る。
「もしかしてもう終わりなのかな?」
「いやいや、そんな訳ないよ」
「ならよかったよ!」
10歳の女の子に舐められたリードスさんの目には火が灯っており両手剣を構える。ルナは地面に刺さった両手斧を抜いて手持ち部分を握りしめた。
「獣人は力が強い種族なのは知っているがコレは予想外だね」
「そうかな? 僕みたいなやつは他にも沢山いると思うよ」
「いやいや!? そんな訳ないだろ!」
天然ボケをかますルナに向かっていつもは飄々としているリードスさんが突っ込む。
(そりゃそうだ)
俺もリードスさんの言葉に頷いていると隣に座っているゼノンが復活した。
「なあグレイ。オレが見た事ある獣人の子供よりも力が強くないか?」
「さあ? その辺は知らないよ」
ゼノンがどんな獣人を見て来たかわからないので曖昧な答えを返す。するとゼノンは何を思ったのかおもむろに立ち上がった。
「もしかしてあの子みたいな子が他にもいるんじゃないのか?」
「あー、ルナ並みか?」
「そうそう! オレも父上に頼んで奴隷を買いに行こうかな?」
「その辺はお前の父上と相談しろ」
ルナレベルの奴隷はなかなかいないと思うが、俺は目を輝かせているゼノンを見てため息を吐く。
(今はルナの模擬戦を見ないとな)
パワーではリードスさんを上回っているが技量では負けている。最初こそは押していたルナだが、リードスさんにうまく払われて地面に転がった。
「僕の勝ちだね」
「ま、負けた……」
悔しそうな表情を浮かべるルナを見た俺は立ち上がり彼女の方に移動する。
「ルナ」
「は、はい!」
ルナは怒られると思ったのか体を縮こませている。その姿を見た俺は右手を突き出して彼女の頭に置く。
「え?」
「よく頑張ったな」
「う、うぅ!」
負けた事への悔しさなのか涙を流すルナを優しく抱き止める。
(なんか俺はクソ野郎みたいだな)
隣でヤレヤレと首を振っているリードスさんを見ながら俺はルナの頭を撫で続けた。
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