第28話・大食い少女

 あの後、10人前の料理をぺろっと完食したルナは満足そうに自分のお腹を撫でていた。


(もう笑うしかないな)


 俺はその光景を見て思わず乾いた笑いを浮かべてアシュリーさんは呆れた表情を浮かべていた。

 そしてお金を払ってお店から出て屋敷に向かって歩き始める。


「ご主人様、美味しいご飯をありがとうございます!」

「お礼ならアシュリーさんに言ってくれ」

「そうだね。アシュリー様、ご馳走様です」

「お、お腹がいっぱいになってよかったですね」

 

 いつものクールな表情が崩れたアシュリーさんを尻目に俺はルナと手を繋ぎながら平民街を歩く。


(まあ、こんな時があってもいいか)


 最近は辺境伯様に呼ばれて挨拶したりゼノン達と模擬戦を繰り返していた。正直かなり忙しく感じたので今日みたいにゆっくり出来るのが嬉しい。


「ふふん! ご主人様ー!」

「ん? 何かあったのか?」

「別に何もないよ」


 嬉しそうに握った手をブンブンと振り回しているので俺も引っ張られる。アシュリーさんはコチラを見て微笑ましそうに笑っており、今の状況が幸せに感じた。


「そういえばご主人の家はどこなの?」

「あー、それなんだが……」

「もしかして野宿かな?」

「いやそれは違うぞ」


 流石に野宿はないと思い、俺はルナの言葉を否定しながら彼女達と共に大通りを歩く。


「今は平民街なので言わない方が良さそうですね」

「?」

「ルナの質問に答えるのは後になりそうですね」

「そうなります」

「えー!」


 ルナは少し拗ねた表情を浮かべた。その顔を見てゲームの時のクールキャラのカケラもないと思い始める。


(俺がストーリーを変えたのかもな)


 もはや原作を破壊している感覚になるが、ここはゲームではなく現実なので考えるのを止める。


「これから面白い事になりそうだな……」

「うん? 僕は今でも面白いよ」

「そうか? ならよかった」


 ニコニコと笑顔を浮かべているルナを見て幸せな気持ちになりながら商店街を歩く。

 そして貴族街に入る為の門が見えたのでアシュリーさんの方を見る。


「では後は任せてくださいね」


 ここはアシュリーさんの出番なので俺はルナと共に彼女についていく。

 

 ーーーー


 検問を抜けてフルール家の屋敷に着いたのは14時で、ルナは大きな屋敷を見て目が点になっていた。


「もしかしてご主人様は大貴族なの?」

「ん? 俺の生まれは辺境の貧乏男爵家だぞ」

「いやいや、貧乏ならこんな大きな屋敷に住めないよね!?」

「あー、その辺は訳があるんだよ」

「グレイ様、屋敷の前で話されるのはやめた方がよろしいですよ」

「そ、そうですね」


 フルール家の門番さんに変な目で見られたので俺はアシュリーさんの言葉に頷く。ルナもアシュリーさんの威圧を受けて体を震わせたのでご愁傷様と思う。


(普通に考えておかしいよな)


 さっきまで奴隷だった少女が買われた先は貴族の家。もし俺とルナの立場が逆なら同じ言葉をあげていたはずだ。


「ご主人様、大丈夫なのですか?」

「その辺は大丈夫だから着いてきてくれ」

「わ、わかったよ……」


 ここでウダウダ言っても仕方ないのでアシュリーさんが門番さんと何か話した後、俺はルナと共にフルール家の屋敷に入る。


「本当に入れた」

「驚いているのか?」

「もちろんだよ!? 逆に驚かない方がおかしい!」

「確かに俺も最初に来た時は驚いたから同じだな」

「そ、そうなんだね」

 

 ルナに呆れられている感じがするが、俺は無視して進んでいるとフルール家のメイドさんに声をかけられる。


「グレイ様! 今ゼノン様がリードス先生と稽古されているので行かれますか?」

「あ、そうですね」


 メイドの申し出に頷いた後、周りをチラチラと観察しているルナを見る。


「ルナいくぞ」

「あ、待ってよー!」


 ルナとは手を握ったままなので無理矢理引っ張ろうとしたが、相手の方が力が強いみたいであんまり進まない。

 

(やっぱりルナはパワーファイターだな)


 獣人の特性に加えて強力なスキルを持つルナに力勝負をする方が間違っている。俺はその現実を目にしてため息を吐く。


「グレイ様、ルナ様、そろそろ行きますよ」

「わかった!」

「ちょ、おい!?」


 俺の時と違いアシュリーさんの言葉にルナは素直に従ったので少し悔しく感じる。

 だがそれよりも他のメイドさんや執事さんがコチラを見てくるので少し辛い。


(仕方ないのか?)


 街に出かけたと思ったら獣人の奴隷を買ってきた俺はおかしいかもしれない。相手の視点で見ると自分のズレが見えてきたので思わず笑った。


「ご主人様、いきなり笑ってどうしたの?」

「いや、別に」

「そう……」


 何か思うところがあるのか頭に疑問符を浮かべるルナ。俺は彼女のピコビコしている狐耳を撫でる。


「ひゃん! ビックリした!?」

「ん? もしかして撫でない方が良かったか?」

「いや、大丈夫だよ」


 ルナの頬が少し赤くなっている気がするが、俺はスルーしてアシュリーさんの案内で訓練場に向かう。


「ずるいよ……」

「なんか言ったか?」

「なんでもない!」


 なんかプンプンとルナは怒っているので俺は疑問符を浮かべながら進む。

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