第22話・リーネの怒り

 次の日。シフール系から装備を借りた俺はゼノンと共に訓練場の中に入る。

 

「まだ誰もきてないのか」

「開始が10時からだからな」

「まあ、そうだよな」


 今は午前8時なので子供は俺とゼノンしかいない。一応シフール家の子供達も参加するみたいだがメインは騎士爵家の子供達みたいだ。


「今はオレ達しかいないし模擬戦をしようぜ」

「いや、僕を忘れないでよ」

「あれ? リードス先生もいたんだな」

「え、もしかして僕は影が薄いかな?」

「うーん、その辺は知らない


 リードス先生はなんか沈んでいるみたいだが、昨日フルボッコにされた恨みがあるので俺はスルーする。


(結果模擬戦を10回やって3回しか勝てなかったしな)


 コチラの手の内がバレてからは動きが止まれたのである意味悔しい。まあ、経験の差もあるので仕方ないかもしれないが。


「……早く迷宮に行きたいな」

「うん? なんか言ったか?」

「いや、なんでもない」


 小声で呟いたのでゼノンには聞こえなかったみたいだ。俺は少しホッとしながら顔を上げる。


「まあ、他の子達が来るまで修練すれば良いよ」

「さすがリードス先生!」


 テンションが上がっているゼノンは両手型の木剣をブンブン振り回していた。俺はため息を吐きながら手に持った片手型の木剣に握り素振りを始める。


 ーーーー


 ウォーミングアップでゼノンと模擬戦をするはずがスキルを使ったやり合いに互いにヒートアップしていく。


「次こそは負けないぜ」

「ちょ、少しは休ませろ!」


 何回倒れても立ち上がるゼノンに水魔法を使っていると別の家の子供達が集まってきた。それを見た俺は稽古の疲れを感じて座り込みながら周りを見る。


(もう1時間半もやり合っているのか)


 体力はついてきたが休憩なしでやるのはかなりしんどい。なのでメイドさんが水を入ったコップを貰って飲み干す。


「ありがとうございます」

「いえいえ!」


 アシュリーさんは別の仕事があるらしいので他のメイドさんが担当してくれる。俺は少し幸せになりながら立ち上がると藍色髪の少年が声をかけてきた。


「君。ゼノン様に勝つなんてすごいね!」

「ん?」

 

 藍髪の少年は目を輝かせており、周りの少年少女もコチラをチラチラと見ていた。


「えっと君は?」

「あ、ボクの名前はシオンだよ」

「シオンか……俺の名前はグレイだ」

「グレイ君、よろしくね!」


 シオンという名前はゲームのキャラでもいたが女性だ。なので中性的とはいえ目の前にいるシオンは男子っぽいので別だろう。

 俺はその事を思い出していると入口の方から聞いたことのある甲高い声が響く。


(この声は)


 入口の方に振り向いてみると予想通りの人物。ジャグラン家の屋敷で出会った赤髪の少女リーネ。彼女はコチラにを見るや否やダッシュで近づいてきた。


「やっと見つけた!」

「へ?」

「アンタね! あの後、アタシは父上達から厳しいお仕置きを受けたのよ! その恨みは晴らさせてもらうわ!」

「いきなりなんの話だ!?」


 ギャンギャンと騒いでいるリーネを見た周りの子供達は目を逸らしている。隣にいたシオンは俯いておりそれを見たリーネは笑った。


「へぇ、落ちこぼれ騎士のシオンじゃない」

「ヒィ!」

「またボコボコにされたいのかしら?」


 怯えているシオンにリーネは威圧するように睨みつける。その状況は悪いと思って言い返そうとした時、さっきまで黙っていたゼノンがリーネを睨みつけた。


「さっきから好き勝手言いやがって!」

「あら、アタシに一回も勝ててないゼノン様じゃないの」

「!? テメエ!」

「待てゼノン」


 今にもリーネに飛びかかりそうなゼオンを羽交締めにして止める。


(流石に不味いな)


 周りの子供達もリーネの態度に不信感を持っているように見えるが、力関係的に歯向かえないのか震えている奴もいる。


「あらあら、銀髪の拘束すら抜け出せないゼノン様は弱いわねー」

「チィ!」

(いや、かなりギリギリなんですが!)


 このままだとゼノンがリーネに飛びかかるのは想像できる。なので俺はなんとか止めていると騒ぎを聞きつけたリードス先生と他の大人達が集まってきた。


「君達、何をやっているんだ!」

「!?」


 リードスさんの怒鳴り声を聞いた子供達は萎縮。だがリーネはリードスさんの方に向き睨み返した。


「何って! 最強のアタシが何をやっても問題ないでしょ」

「最強? 確かに君は同世代で最強かもしれないが上には上がいるよ」

「へぇ、剣豪の加護を持つアタシよりも上のやつを見てみたいわね」


 リーネはケラケラと馬鹿にしたような笑い声を上げた。その他人を馬鹿にするような表情にリードスさんは顰めっ面になりながら口を開く。


「じゃあそこのグレイ君と戦ってみなよ」

「へ? ええ!?」

「ちょうどいいわね」


 確かにガイン様からリーネとの模擬戦をしてくれとは言われたが……。正直気乗りはしないのでため息を吐く。


(剣豪を相手するのには少しキツイな)


 ゲームでは上級職の剣豪。持ち味は高い火力と素早さで単体戦闘力では上級職の中でも上位だ。

 だがジロリと睨んでくるリーネに周りの子供達はビビっており、それを見てここは逃げたくないと思う。


(ただ、コイツらの為にも勝ちたいな)


 プライドが高いお嬢様の心を折るよりも可哀そうな子供達の為に戦う。俺は覚悟を決めてリーネの方を見た。


〈あとがき〉

・遅れてすみません💦

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