第20話・リードスさん

 思わず自分の加護である魔法剣士ルーンフェンサーを口走った結果、ゼノンはともかくアシュリーさんとリードスさんが硬直した。


「まさかグレイ様の加護が魔法剣士ルーンフェンサーだとは思わなかったです」

「でもまあ、片手剣と水魔法の両方が使えるならある程度は想像が出来るね」


 クールな表情が崩れたアシュリーさんをよそにリードスさんは硬直から復帰して頷いた。ゼノンは先程は目が点になっていたが、コチラも元に戻り言葉を発する。


「なあ、その魔法剣士ルーンフェンサーってどんな加護なんだ?」

「そこはリードス様からお聞きください」

「え……僕がせつ!? わ、わかりました」


 アシュリーさんが何かを訴える目でリードスさんを見たので、俺はメイドさんに紅茶のおかわりをいただきながら目を逸らす。

 リードスさんはゼノンとアシュリーさんの視線に耐えかねて両手を上げた。


魔法剣士ルーンフェンサーはその名前の通り剣と魔法の両方が使える加護だね」

「それってめっちゃ強くないか!?」

「まあ、加護の中では上級と言われているよ」

「優秀な加護ですね」

(その辺はゲームと同じか)


 ゲームとのズレを減らす為にリードスさんの説明を耳にする。彼の説明はわかりやすいが既に知っている情報も多い。


「でも剣と魔法の両方を使いこなすのは難しくないか?」

「まあ、だから上級の加護では器用貧乏かな」

「ただまあ、上手に使いこなせる人は万能型になりますよね」

「そうだけどそもそも魔法剣士ルーンフェンサーの加護を持っている人はかなり珍しいからその辺は僕もわからないよ」


 ヤレヤレと手を振っているリードスさんと目を輝かせているゼノン。その光景を見たアシュリーさんはうっすらと微笑んだ。


(ん? 待てよ)


 よくよく考えたら俺は自分の加護をバラしたくなかったんだよな。でもこんなに簡単にバラしてしまった。


「俺はアホなのか……」

「いきなり凹んでどうした!?」

「まあ、こっちの事だから気にしないでくれ」


 気持ちを落ち着かせる為に紅茶を飲もうとしたがカップの中は空だったので居た堪れなくなる。

 まあ、ここで焦っても仕方ないので平常心だな。


「さて、午後からも稽古を続けるんだろ」

「そうだな! 今度こそお前から一本を取ってやるよ!」

「ゼノン様はやる気があるね」

「では、私は報告があるので一旦失礼しますね」


 後ろに立っていたアシュリーさんが離れていき、俺はゼノンとリードスさんに引っ張られるように訓練場に戻る。


 ーーーー

 

 訓練場に戻り木剣を手にして軽く振っているとリードスさんに声をかけられる。


「今度は僕の相手をしてくれるかな?」

「え、あ、はい」


 ここに来た時と同じくリードスさんは両手剣型の木剣を手にした。その大人用の木剣を軽々振り回しながら俺に剣の先を向ける。


「じゃあ始めようか」

「わかりました」

  

 先ほどまでの薄ら笑いが消えたリードスさんの雰囲気はかなり冷たい。正直ここで能力的には格上とわかったので俺は気を引き締める。


(リードスさんも両手剣か)


 相手の使う武器は両手剣で俺は相手の動きを考えながらリードスさんと一定の距離を取る。


「いくよ!」


 スタートの合図と共にリードスさんが両手剣の接近スキルであるブレイドスライドを発動。この技は高速で相手に近づいて横薙ぎな一閃を繰り出す技。俺は相手の攻撃をしゃがんで避けるがリードスさんは追撃を繰り出す。


「ちょ、早い!?」

「そりゃ結構本気でやっているからね!」


 リードスさんの攻撃はゼノンの時とは比べ物にならない程の速さと重さを持っている。その攻撃を俺は木剣使いなんとか防御しながら下がる。

 

(このままだと不利だな!)


 ガンガン攻めてくるリードスさんの攻撃を防ぐのはかなりきついのでカウンターを狙いたい。だが相手はパリィを警戒しているのか深く踏み込まずに戦っている。


「ぐっ!」

「君のお得意のカウンターはさっき見たから対策は出来るよ」

「やばっ!?」


 軽く吹き飛び体勢を崩した俺に向かってリードスさんはスカイアッパーを発動。このスキルはパワースラッシュとは逆に下段から上に切り裂く技。俺はその攻撃をなんとか木剣で受けるが空中に吹き飛ばされる。


「クソッ!」


 直撃こそ避けたが地面に転がりダメージを受ける。リードスさんは追撃のパワースラッシュの体勢に入っており、このままだと負ける。


(負けるわけにはいかないけどな!)


 実戦経験では負けるがゲームのやり込みで培った能力。その力をフル動員して俺は木剣を強く握る。


「パワースラッシュ!」

「! ここだ!!」


 パワースラッシュでトドメを刺そうとしてきたリードスさん。俺はこのタイミングで相手のスキルに合わせてコチラもスキルを発動。


「カウンターパリィ!」

「なっ、しまった!」


 最後の最後でパワースラッシュで勝負を決めようとしたリードスさんに向かってカウンターパリィで反撃。相手は自分の攻撃の反射を受けて大きく後ろに吹き飛ぶ。

 ここで俺は木剣をを構えて接近してガラ空きの胴体に使って思いっきり叩き込む。


「ハァァ!!」

「ぐっ!」


 スキルもないもない通常の斬撃だがリードスさんの土手っ腹に突き刺さった。相手はコチラの攻撃を受けて両手剣を手放してお腹を抑えた。


「ハァハァ」

「ま、マジかよ……。リードス先生に1本入れやがった」

(なんとか勝てた)


 格上の相手に情報で勝つ。自分の有利な点で勝負したのでギリギリで押し込めたところがある。

 俺は体の痛みを感じたのですぐに水魔法を使って回復しているとリードスさんが笑った。


「まさか僕が1本取られるなんてね」


 何が面白いのか笑顔を浮かべるリードスさんを見て疑問に思う。


(なんかな……)


 相手はイケメンフェイスなので羨ましい。俺は嫉妬に駆られながらお腹を抑えているリードスさんにも水魔法を使う。

 そしてこの後、ゼノンも混ざって3人でメイドさんが呼びに来るまで剣の稽古を続けた。

 


 




 

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