第19話・鍛錬とうっかりミス

 俺ことグレイVSゼノンの対決。始まりはゼノンのパワースラッシュから始まり俺は回避に専念しながら相手の隙を伺う。


「どうした! 避けてばっかりじゃオレには勝てないぞ!」

「そりゃそうだよな」


 苛烈な攻めを仕掛けてくるゼノンの攻撃を俺は避けているだけ。他人から見て向こうの方が有利に見えるはずだ。


(まあ、俺もスキルを試してますか)


 片手剣剣術レベル2ならそこそこのスキルが使える。俺は木剣を構えてゼノンの振り下ろしに対抗する。


「今だ! カウンターパリィ!」

「ぐっ! しまった!?」


 普通なら片手剣が力負けするが、俺が発動したスキルはカウンターパリィ。タイミングを合わせて相手の物理攻撃を弾くスキルだ。

 このスキルを使いゼノンの両手剣は大きく弾かれたので隙だらけの胴体に突きの一撃を放つ。


「もらった!」

「なっ、ガハッ!?」


 俺の突きの一撃はゼノンの防具の胸部分に刺さり、相手は胸を押さえながら蹲った。


「俺の勝ちだな」

「ツッ!」


 蹲るゼノンの首筋に木剣の先を向ける。リードスさんは驚いた表情を浮かべたが審判の役割があるので口を開いた。


「そこまで!」


 蹲るゼノンが悔しそうに地面を叩いたので俺は彼に向かって水魔法を使う。


「クッソ! 負けたか!」

「あ。水の雫」

「へ?」

「えっ?」

「まさか水の回復魔法!?」


 アシュリーさんとリードスさんが何か驚いているみたいだが、先程まで胸を押さえていたゼノンの体が青く光る。

 

(流石に放置するのは無理だからな)


 自分の甘さに失笑しているとさっきまで胸を押さえていたゼノンが何事もなく立ち上がる。


「お前、なんで魔法が使えるんだ?」

「それは教えたくないな」


 流石に魔法剣士ルーンフェンサーの加護を持っていると素直に言いたくないので言葉を濁す。

 ゼノンは何か思ったのか地面に落ちている両手剣を拾ってコチラに向けた。


「ならオレが勝った時に教えてもらうぞ!」

「え?」

「あー、やっぱりそうなりますか」


 アシュリーさんがヤレヤレと首を振っており、俺は目を点にしながらやる気のゼノンの方に向く。


「あと、さっきみたいな変な口調じゃなくて今みたいに話せ」

「わ、わかった」


 正直そろそろお昼ご飯を食べたいが、ゼノンが両手剣をブンブン振り回しているので呼ばれるまで模擬戦を続ける事にした。


 ーーーー


 模擬戦を何回か繰り返した後、他のメイドさんが呼びに来たのでお開きになると思ったが……。


「昼からも頼むな」

「おいこら」


 最初の時と違ってケラケラ笑っているゼノンを見て思わず素で突っ込む。


「別に暇ならいいだろー」

「あのな……。俺はお前の父親に挨拶をする為に来ただけだぞ」

「なら、大丈夫だろ」

「どこがだよ!?」


 外のテラスでメイドさん達が持っている豪華なお昼ご飯に舌鼓を打ちたい。だがゼノンはそんな事はお構いなく喋って来る。


「では旦那様とジャグラン騎士爵には私から伝えておきますね」

「アシュリーさん!?」

「あ、今度は僕の相手をしてほしいな」

「リードスさんまで……」

「じゃあ決まりだな」


 カラカラと笑っているゼノンに無表情のアシュリーさん。リードスさんは面白そうに笑いながら手に持ったフォークを使い美味しそうにサラダを食べていた。


(いやおかしくないか?)


 ここまでお膳立てされているみたいに動いている。ある意味ゲームのストーリーの流れにみたいだ。

 俺はその事を思いながらナイフとフォークを使いながらステーキを食べる。


「しかしまぁ、普通に美味しいな」

「お口に合ってよかったです」


 アシュリーさんやお付きのメイドさんが配膳してくれる料理はどれも美味しい。俺は最後のデザートまで完食して紅茶をもらう。


「それでお前の加護はなんなんだ?」

「あ、それは僕も気になったね」

「この際なので私もお聞きしたいです」

「ええ……」


 正直素直に答えたくないので無言を貫く。するとゼノンは何かを思ったのでポンッと手を叩く。


「あ、そうか。オレ自身の加護を言うのが先だよな」

「確かに筋的にはそうだね」

「私もそこを失念してました」


 なんかマズイ流れになってきたのでどうにか流れを止めたい。でもコチラの意図を無視した3人は笑顔で口を開く。


「オレの加護は怪力戦士で両手剣を使っている」

「怪力戦士か……。まあ、悪くないところだな」


 個人的には両手剣士かと思ったが中位職の中ではトップクラスの物理火力を誇る怪力戦士。前衛火力職で高い攻撃力と体力が持ち味で下手すれば上位職にも引けを取らないレベルの力を持つ。

 まあ、この世界では職業は加護なので言い方は違うけどそこは置いておく。


「じゃあグレイも答えてくれよ」

「それは俺に勝ってから聞くんじゃなかったのか?」

「ハハッ! 今聞けるなら聞いておきたいんだよ」

「おい!?」


 面白そうに笑っているゼノンに思わず突っ込む。俺はこのやりとりでかなり疲れたが自分の加護は言いたくない。

 なので適当にお茶を濁そうとするが3人の視線を受けて根負けする。


「……魔法剣士ルーンフェンサー

「「「え?」」」

「だから俺の加護は魔法剣士ルーンフェンサーだ」

(言ってしまった!?)


 コチラの言葉を聞いたゼノン達は目が点になっており、俺は冷や汗が背中に流れるような感覚を感じながら紅茶をちびちび飲み続ける。


 

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