第17話・報酬

 シーフル家の当主であるギルム様は少し表情を崩しながら視線を合わせてきた。


「まずはサーベルタイガーの討伐報酬とウチからの褒美だな」

「報酬……」


 ギルム様はテーブルに置いてあったベルを鳴らす。すると執事服を着た男性が部屋の中に入ってきて金色の硬貨を5枚乗せたトレイを俺の前に置く。


「今回の討伐報酬は金貨5枚だ」

「き、金貨ですか!?」


 この世界では金貨1枚は日本円で100万円くらいの価値がある。それが5枚なので500万円の大金を目の前に置かれた。


(予想では銀貨50枚くらいだと思っていたんだけどな)


 自分が思っていた予想の10倍の報酬。流石に貰いすぎだと思ったが相手の方が立場が上なので頷く。


「あ、ありがとうございます」

「いきなり大金を渡されるとビックリするか」

「え、ええ。ハッキリ言えば貰いすぎだと考えてます」

「貰いすぎ?」

「はい」

  

 苦虫を噛み潰したような表情に変わったギルム様を見た俺は冷や汗を流す。


「お前はこの報酬が高く感じるんだな」

「そうです」

「そうか……。まあ、俺からすれば逆に足りないと思っているから個人的にも褒美を渡すつもりだ」

「!?」


 この金貨以外にも辺境伯様からの報酬が追加される。もう俺のライフはゼロなんだがさらに追い討ちをかけられた。


「まあ、細かい話は置いといてオレはこの報酬が正当だと思っている」

「わかりました」

「ハハッ、お前は物分かりがいいな」


 ここでウダウダ言っても仕方ないのでテーブルに置かれた金貨を受け取る。ギルム様は俺が金貨を受け取ったのを確認して少し笑った。


「それとオレからの報酬は何がいい?」

「え? 僕に決定権があるのですか?」

「あぁ。オレのできる範囲なら用意するぞ」

「なんでそこまでしてくれるのですか」


 ハッキリ言えばうますぎる条件。俺は不審に思いながらギルム様の視線に合わせる。


(もしかしてガイン様が言っていた事か?)


 優秀な加護を持つ子供を集めている。サーベルタイガーを倒した俺はその候補かもしれない。

 そう考えると今まで考えていた事に納得ができるがギルム様は違う言葉を口にした。


「なんで……?

「うん? 理由はさっきも言ったがサーベルタイガーを討伐してくれた礼だぞ」

「え?」

「それにウチの騎士団でサーベルタイガーを個人で倒せるやつは限られているからな」


 カラカラと笑うギルム様を見て俺は微妙な気持ちになりながら言葉を返す。


「でも束でかかれば倒せるんですよね」

「まあな。でもその分の物資や犠牲者が出るがな」

「!? もしかしてこの報酬が多いのは他にお金が掛からなかったからですか?」

「結論を言うならお前さんので当たりだ」


 そうか、サーベルタイガーと戦うと犠牲者も出るし物資も必要。だが俺が倒した事でそのマイナス面が解決された。


「そんなわけで話しは戻るがお前さんは何が欲しい?」

「うーん」

「口にするだけならタダだからな」


 正直8歳の子供に聞く内容ではないと思うが、ギルム様は面白そうに笑っているので俺の欲しい物を口にする。


「家族や村が追い込まれた時に助けて欲しいです」

「!? つまりはオレに貸しを作るのか?」

「は、はい!」

「そうか」


 今思いつくのはこれしかない。正直大切な人達を守るのに俺が1番足りないのは権力。この力が欠けているのは目に見えているのでギルム様に頼み込む。


「ウチは貧乏な下級貴族なので上の人達に目をつけられると潰されるので後ろ盾が欲しいです」

「……」

「どうかよろしくお願いします!」


 半泣きになりながら俺はギルム様に向かって頭を下げる。すると目の前に座っているギルム様はさっき以上の大声で笑った。


「ハハッ! お前は面白いやつだ」

「そうですか?」

「ウチの子供なら武器や遊ぶ物って言うからな」

「笑いすぎですよ旦那様」

「ああ、悪い」


 隣で控えていたアシュリーさんに嗜まれたギルム様は真面目な表情を作り頷いた。


「その件ならいいぞ」

「!?」


 まさかこんなすんなり通ると思わなかったので俺は顔を上げて驚く。


「これはお前の褒美だからな」

「ありがとうございます!」

「まあ、オレもお前さんと関係を作れてよかった」


 なんかギルム様はホッとしているみたいだ。俺は頭に疑問符を浮かべているとアシュリー様が自分の手をパンッと合わせた。


「では旦那様は書類の手続きをしてくださいね」

「そ、そうだな」


 若干苦笑いを浮かべるギルム様は立ち上がり笑顔を浮かべる。


「また会える時を楽しみにしている」

「こ、こちらこそよろしくお願いします!」


 客室からギルム様が出て行った事を確認して俺はため息を吐く。


「ふぅ」

「お疲れ様です」

「あ、はい」


 紅茶のおかわりを入れてくれるアシュリーさんに感謝しながら俺は天井を見上げる。


(これからどうなるかだな)


 少なくとも最悪な未来を避けるために動かないといけない。だが俺の力なんてちっぽけな物なので1番必要なのは……。


(仲間だよな)


 1人じゃ無理でも仲間と一緒に戦えば乗り越えられる事もある。俺は目を閉じてこれからのプランを考え始めた。

 


 

 

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