第16話・シフール辺境伯様
次の日。俺は正装に着替えてガイン様と共に都市の中心にある領主様のの屋敷に到着。ジャグラン家の馬車から降りると目の前には前世の小学校みたいな大きな屋敷が目に入る。
「ここがシフール辺境伯様の屋敷……」
「グレイ君はかなり驚いているみたいだな」
「そりゃそうですよ」
明らか場違いに感じた俺は早く帰りたいと思うが、門の前では見張りが立っており視線をコチラに向けてきた。
(か、帰れないよな)
アーセナル家の屋敷に戻って布団の中に潜りたい。俺は思いっきりヘタレるがガイン様に押されて門の前まで歩く。
「今日挨拶の予約をしているガイン・ジャグランだが入っても大丈夫か?」
「ジャグラン様……上から聞いているのでお入りください」
「わかった」
見張りの門番さんは丁寧に頭を下げた後、屋敷に繋がる門を開けた。俺はガイン様と共に門番さんに軽く会釈して辺境伯様が住まわれる屋敷の中に入る。
「沢山の花と中央には噴水がありますよ」
「この辺は奥様の趣味だな」
「そ、そうなんですね」
辺境伯という地位だけあって屋敷の内装も豪華だ。正直、帰りたい気持ちが倍になったがこの状況では帰れないので歯を食いしばりながら屋敷に向かう。
(なんか執事さんとメイドさんが列になってないか?)
前世のドラマやアニメで見た事がある左右に使用人が並んでいる光景。俺はリアルでこの光景を目にするとは思わず冷や汗をかく。
「お待ちしてました。わたしはシフール家のメイド長を務めているアシュリーと申します」
「初めまして! 僕の名前はグレイ・アーセナルです」
「どうぞよろしくお願いします」
右の列の1番前に並んでいた30代後半くらいの茶髪ショートカットの女性。彼女はコチラを一瞥した後、手をお腹に置いて頭を下げてきた。
「アシュリー殿。シフール辺境伯様は中におられるのですか?」
「はい、旦那様は客室でお待ちです」
「わかりました。では私達も向かった方がいいのですね」
「それが……旦那様はグレイ様のみを希望されております」
「!? それって」
「内容のご想像はジャグラン様にお任せします」
頭を上げたアシュリーさんは驚いているジャグラン様から目を離してコチラを見た。彼女の瞳は青色で美しいが俺は若干後退りながら口を開く。
「あの、なんで僕だけなのですか?」
普通に考えておかしい状況なのでアシュリーさんに質問。彼女はクールな表情を変えないまま俺の質問に答えた。
「それは旦那様に直接聞いてもらえますか?」
「……わかりました」
納得は出来ないが立場的に反抗するのは難しい。だが話し合いなら何か引き出せるかもしれないので俺はアシュリーさんの案内でシフール辺境伯様が待つ客室まで移動。心配そうにコチラを見てくるガイン様に微笑んで頷いた後、彼と別れて客室のドアの前に立つ。
(緊張する)
前世の受験の面接とは比べ物にならない程の緊張感を放つドア。俺は震えそうな気持ちになりながら深呼吸しているとアシュリーさんがドアをノックした。
「旦那様、グレイ様が到着しました」
「入ってくれ」
(おおう)
部屋の中から抱えてきたのかかなり低くて渋い声。俺はガクガク震えそうになりながらも気合いで我慢。アシュリーさんがドアを開けたので俺も中に入る。
「しゅ、失礼します」
(噛んでしまった!?)
プレッシャーを受けて噛んでしまったので恥ずかしくなったが、目の前を見ると20代後半くらいのオールバックの男性。目つきはかなり鋭く強面の人が厳しそうな顔をしていた。
「よくきたな」
「は、はい! お招きいただきありがとうございます!」
「ほう」
部屋の中に入り俺は相手の男性に向かって勢いよく一礼。オールバックの男性は少し驚いたが立て直して口を開く。
「少し変わった子供だな」
「え、は、はい」
「旦那様、グレイ様も緊張されているご様子ですよ」
「そうみたいだな」
厳つい表情を崩さないままオールバックの男性は頷く。俺はアシュリーさんに案内されるままソファに座る。
「では改めてよくきてくれた!」
「は、はい!」
「旦那様、自己紹介はされないのですか?」
「そうだったな! オレの名前はギルム・シーフル……このシーフル辺境伯家の当主だ」
「ご丁寧にありがとうございます! 僕の名前はグレイ・アーセナルです」
シーフル辺境伯家の当主であるギムル様。その威圧感はかなり高く漏らしそうになる。
(かなりやばいな)
俺は吐きそうになる感覚を受けながらギルム様の方を向く。するとギルム様はコチラを見て口元を少し上げた。
「オレの威圧を受けても怯まないのか」
「へ?」
「いや、なんでもない」
何かを誤魔化すように首を振るギルム様を見て俺は首を傾ける。その時にアシュリーさんが紅茶が入ったティーカップを目の前には置いてくれた。
「旦那様、8歳の子供に対して大人気ないですよ」
「そうか?」
「普通の子供ならなら旦那様の強面を見たら泣き出します」
「それはつまりグレイは普通の子供じゃないんだな」
「……そうですね」
(いや、今にでも泣きそうですが!?)
てかアシュリーさん。俺を異端の子供みたいにいうのはやめてほしい。
俺は内心で焦りながらお茶を濁すように目の前には置かれた紅茶が入ったティーカップを手に取り口をつける。
「さて、前座はここまでだ」
「今までは前座だったのですね」
「そりゃそうだろ」
先ほどよりは威圧感が減ったので俺は少し安心しながらギルム様と話し始める。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます