第12話・辺境都市・ロジエ

 辺境都市ロジエ。人口15万人ほどが住んでいる大都市で周りには大きな壁が建造されており屈強さが目に入る。


(モニター越しには味わえない感覚だな)


 馬車の窓から見たロジエの外壁を見た時にはその迫力に思わず立ち上がるが、目の前で座っているロイドさんが苦笑いを浮かべていたので座り直す。


「ハハッ! ロジエはすごいだろ!」

「え、ええ……。俺はカシャの村付近しか見た事ないからこんな大勢の人を見るのが初めてです」

「そうだよね」


 実際は前世では日常的に見た事はあるが、この世界に生まれ変わって初めてなので無難な言葉を返す。

 ロジエの街の風景はレンガ状の建物や木製の建物が中心で前世の中世ヨーロッパに近い雰囲気だ。

 

(やっぱりファンタジーだな)


 服装もカシャ村の人達と比べて華やかでおしゃれをしている女性も多い。俺は着ている地味な布の服を見て微妙な気持ちになりながらロイドさんに言葉を返す。


「そういえば辺境伯様に出会う時はどうすればいいのですか?」

「その辺は旦那様が考えていると思うよ」

「旦那様?」

「うん、おれ達の上司であるジャグラン騎士爵様だね」


 ジャグラン騎士爵はシフール辺境伯のルートで出て来た脇役。確か騎士爵の一家で優秀な騎士を輩出しているんだよな……。ただ、ゲームの脇役の宿命なので目立った活躍はしてないが。


(まてよ……。確かジャグラン騎士爵出身のキャラがいたよな)


 記憶を洗い出していると馬車は中方部である貴族街に到着。外にいる騎士が衛兵と何か話した後すんなり中に入れた。

 そしてジャグラン騎士爵家の屋敷に到着したのでロイドさんの手を借りながら馬車から降りた。


「うん、普通に綺麗で大きいですね」

「そうかな?」


 目の前の屋敷は綺麗なレンガで作られており実家であるアーセナル男爵家のボロボロの屋敷よりも大きい。

 爵位的にはアーセナル家の方が上なのだが財政的にはジャグラン騎士爵家の方が持っているみたいだ。


(ウチは貧乏貴族だし仕方ないか)


 辺境伯家の領地に住んでいる家ならそこそこ恩恵がある。俺はため息を吐きながらロイドさん達と歩く。すると屋敷のドアが開き初老の老執事と若いメイドが現れた。


「ようこそ。私はジャグラン騎士爵家に勤める執事長のガウェルです」

「あ、はい! 僕の名前はグレイです」


 ビシッと頭を下げてくるガウェルさんと若いメイドさん3人。俺は彼らの行動に少し驚きながら一礼。頭を上げたガウェルさんはコチラを軽く見つめてきた。

 

「落ち着いてらっしゃいますね」

「いえ、少し諦めているだけです」

「なるほど……。では、屋敷に案内しますね」


 ガウェルさんは硬い表情を崩さずに俺を屋敷の中に入れてくれた。


(さて覚悟を決めないとな)


 ここからが本当の戦いだ。俺は兜の緒を締める感じで周りをチラチラ見ながら歩く。


「おや、屋敷が珍しいですか?」

「え、あ、アーセナル家の屋敷はボロボロなので綺麗だなと思いました」

「そうですか……」


 何か反応に困っているガウェルさんだが、ふと後ろに歩いているメイドさんの方を見ると若干目を輝かせている人がいた。


(なんだこの感覚は)


 目を輝かせているのはオレンジ髪の10代後半の女性。彼女の見た目は小顔で可愛いが若干涎を垂らしているので怖いが、残りのメイド2人はオレンジ髪のメイドを見てため息を吐いていた。


ーーーー


 ガウェルさんの案内で客室に到着した俺はメイドさんから自分の荷物を受け取る。その時、オレンジ髪のメイドさんが舌なめずりをしていたので若干引いた。


「メル! 流石にそれはグレイ様が引くわよ」

「別に減るもんじゃないしいいじゃない!」


 隣にいたメイドさんがオレンジ髪のメイドさんの頭を引っ叩く。オレンジ髪のメイドさんことメルさんは同僚の暴力に涙目になりながらコチラを見る視線を変えない。


(まさかショタコンか?)


 今の俺の見た目は銀髪碧眼の美形ショタ。もしメルさんがショタコンならどストライクな見た目かもしれない。


「ハァ……。グレイ様、申し訳ありません」

「い、いえ」


 頭を抱えていたガウェルさん。彼はため息を吐いた後にメイドさんを部屋から追い出して説明を始めた。


「彼女達は優秀なメイドなのですが……」

「そ、その辺は大丈夫ですよ」

「グレイ様は大人みたいですね」

(精神年齢は大人だからな)


 普通の子供なら親と離れた時点で泣き叫ぶが、俺は精神年齢的に大丈夫なところがある。てか、よくよく考えたら父上と母上がついてこない時点で何かある事が確定なんだが……。


「さて私もそろそろ離れます。何か有ればテーブルのベルを鳴らせば係りの者が来るので安心してください」

「はい! ありがとうございます!」

「では、失礼します」


 ガウェルさんは一礼して部屋から出て行った。俺はソファに座ったまま天井を見上げる。


「サーベルタイガーを討伐しただけでここまで目立つのか」


 相手は強化個体とはいえ星4のサーベルタイガーでこの騒ぎ。ではそれよりもランクが高いドラゴン系とかを討伐した時には英雄に祭り上げられそうだ。


(とりあえず黙っておこう)


 沈黙は金という言葉を思い出して黙っていると廊下の方からドタドタと誰が走る音が聞こえた。


「ん? なんだ?」


 騎士爵家とはいえ貴族。どんなに急いでいても走る事は滅多にないはずだ。俺はそう思って疑問符を浮かべていると部屋のドアが勢いよく開いた。


「貴方ね! サーベルタイガーを倒したとホラを吹くガキは!」

「は?」


 ドアの先にいたのは赤髪ポニーテイルで吊り目の少女。年齢的には同世代っぽいが彼女は鋭い視線を向けて来た。


「こんな小さな子供があのサーベルタイガーを倒したなんて有り得るわけないじゃない」

「……」


 なんかギャアギャア騒いているので俺が取った行動は、無言でテーブルに置かれているベルを鳴らして人を呼ぶ。

 そして係のメイドがコチラを見た瞬間、頭を抱えたので面倒ごとだなと思い始める。


〈あとがき〉


 読んでくださった皆様に感謝を!


 面白いな、続きが読みたいな、と思われた方は星とブックマークを是非よろしくお願いします。

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