第11話・ロイドさん

 ドングさんは改めて今回の訪問理由を話し始めた。


「端的に申し上げるとサーベルタイガーを倒したのが8歳の少年と聞いた辺境伯様がご子息に興味を持たれたのです」

「!? それって……」

「ええ、グレイ様には辺境伯様が住まわれる領都であるロジエに来ていただきたく存じ上げます」


 俺はチラリと父上の方を見ると首を振っていたので断る事は難しいと察する。


「お断りするのは難しそうです」

「それは……相手は辺境伯様なのでそうですね」

(やっぱりか!?)


 思わず頭を抱えそうになるが気合いで我慢して母上の方に向く。母上は心配そうな表情をコチラに向けて来たので俺はなんとか笑顔を作る。


「わかりました……。では準備する物とかはありますか?」

「準備や費用は辺境伯様からいただいたますので大丈夫です」

「グレイ、お前」

「父上、僕は貴族の責務を果たして来ます」

「そうか! 頑張ってこいよ!」


 振り切った俺の表情を見た父上はニカッと笑顔になった。母上はまだ納得してなさそうだが、ここで断るとアーセナル男爵家の評判が落ちるのは目に見えているので何も言わない。


(さてと上位貴族相手はきついな)


 貴族の礼儀作法なんて全く知らない俺はこれからどうするか悩んでいるとドングさんが立ち上がった。


「では、明日の早朝に出発するので準備をお願いします」

「はい! よろしくお願いします」


 ドングさんはお付きの騎士と共にリビングから出て行く。残った俺達は互いに顔を見合わせる。父上はなんとも言えない表情で母上は少し険しい。

 

(もうなるようにしかならないか)


 辺境伯様が収めているロジエは大都市で『旋律の勇者と戦少女』でもモニター越しに見たことある場所だ。

 そうなればある程度は地形がわかるし迷子にもなりにくいはず。


「父上、母上。俺も準備を整えて来ますね」

「ああ! アーセナル男爵家の恥にならないようにな」

「体調には気をつけてね」


 辺境伯様に出会って挨拶をした後、さっさとカシャ村に帰ってるだけのイベント。

 そこまで面倒な事にはなりたくないので俺は覚悟を決めながら準備を進める。


 ーーーー

 

 次の日。騎士団が乗る場所に乗り込んだ俺は手を振る父上達を見て泣きそうになる。


(いや、一生の別れじゃあるまいし)


 カシャ村付近以外は出た事のなかった俺はこれから始まる長い馬車での旅にため息を吐く。


「どうなるんだろうな」

「うん? どうって?」

「いえ、なんでもないです」


 馬車の中には顔見知りの騎士であるロイドさんが目の前に座っている。彼は中世的な顔立ちの金髪イケメンで女性にはモテそうな雰囲気だ。


「別に辺境伯様は多少の無礼では怒らないと思うよ」

「そうだといいのですが……僕が思う貴族は権力を振りかざす人が思い浮かびます」

「あー、そういう貴族もいるね」


 目の前の席に座ってロイドさんはカラカラと笑う。俺は不安になる中、彼は面白そうに口を開く。


「僕も准貴族だからシーフル辺境伯様には出会った事があるよ」

「そうなのですね」

「うん。まあ、優しそうな方だったよ」


 この人の優しそうは信じられるのか。俺はロイドさんの挙動を見ながら呆れ始める。


「なんか今からでも気が重いです」

「そりゃカシャ村から領都のロジエには5日かかるからね」


 領都は日本で言うところの県庁所在地みたいな物。基本的に領地持ちの伯爵家以上の貴族が収めている地域だ。

 

(そういえば貴族の中でも派閥があったよな)


 王家や有力貴族が集まり王者の貫禄がある王族派。平民を駒としか見ずに見下している貴族派。そしてその両方に属さない自由な中立派がある。確かシーフル辺境伯は中立派に属しており派閥内では大物だったはずだ。


(派閥争いには巻き込まれたくないな)


 辺境の貧乏男爵家であるアーセナル家が派閥争いなんかに巻き込まれたら速攻で潰される。そんな事になれば家族がバラバラになるどころか最悪は奴隷として売られるかもしれない。


「おーい、何を考えているんだい?」

「あ、いえ!」


 自分の世界に入りすぎていたのか頭に疑問符を浮かべたロイドさんに声をかけられる。

 

(話の流れを変えないとな)


 このまま無言で5日間も耐えられないので俺はロイドさんにある質問をしてみる。


「ロジエはどんなところなのですか?」

「どんなところと聞かれてもロジエは人が多く集まるところで賑やかだよ」

「では色々商品がありそうですね」

「まあ、商業も盛んでこの辺では1番の都市だか色んな物は売っているね」


 農作物はもちろん迷宮があるから魔道具関係も有名みたいだ。


(なるほど……)


 ロジエの迷宮は『旋律の勇者と戦乙女』でも出て来ており隠し部屋も覚えている。俺は迷宮に入って隠し階層に隠されているアイテムを回収したいと思っているとロイドさんが熱く語り始めた。


「特に迷宮はロマンがあってね! お宝が手に入れば一攫千金も夢ではない」

「あ、あの」

「他には魔装とかもあって強い剣とかも存在しているよ」


 ロイドさんの熱い語りに若干引きながら俺は長旅を過ごしていく。そう、スキップボタンがないのでクソ長い5日間になった。

 

〈あとがき〉


 読んでくださった皆様に感謝を!


 面白いな、続きが読みたいな、と思われた方は星とブックマークを是非よろしくお願いします。

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