第9話・1ヶ月後
サーベルタイガーを討伐してから1ヶ月後。あの戦闘で負った傷が治り今では普通に動けるようになった。そう、なったのだが……。
「兄上おいしい?」
「あぁ、美味しいよ」
(どうしてこうなった?)
怪我が完治して自分でもご飯を食べれるのにリムがアーンで食べさせてくる。目を覚ました時はボロボロで腕を動かすのも辛かったので仕方ないが今は違う。
だが前よりもリムが懐いてくれたので飽きるまではやってもらう事にする。
(甘いかもな)
次に俺が目を覚ました時には5日経っており父上と母上にはめちゃくちゃ怒られた。それは今でも思い出したくないレベルだが最後に褒められたのでプラマイゼロなはず。
「あらあら、リムはグレイにかなり懐いているわね」
「まるで熱々のカップルみたいだな」
「カップル?」
面白そうに笑っている父上と母上。カップルと聞いて頭を傾けているリムに向かって母上が説明する。
「カップルは互いに好きで一緒にいる人達よ」
「好き?」
「うーん、リムにはまだ早かったみたいな」
カラカラと笑う母上にリムは悔しそうな表情を浮かべた。
(今のうちに離れよう)
これ以上は巻き込まれたくないので俺はそのまま朝ご飯を食べ終わったの席から立ち上がる。すると立ち上がった俺を見たリムが目を輝かせた。
「これから剣の稽古ですか?」
「いや、座学の勉強をするよ」
「……あたしは外で剣を振ってます」
座学の勉強と聞いて苦虫を噛み潰したような表情を浮かべたリムをよそに俺は書斎に向かう。
(ゲームの時の記憶を洗ってみたらサブイベントで過去にサーベルタイガーに村が潰されたストーリーがあったな)
つまりはこのカシャ村も本来ならサーベルタイガーに潰されていた事になる。それをイレギュラーな俺が阻止したという事はストーリーが狂っていくかもしれない。
「まあ、俺は脇役だしそこまで影響は多いかないだろ」
『旋律の勇者と煌めく戦少女』では名前が上がらなかったキャラ。もしかするとサーベルタイガーに殺されていたかもしれないので、俺は今の状況に安堵しながら書斎の扉を開ける。
(さて、今日は魔石や素材の内容を調べるか)
今までは適当にそんな物だと認識していたが、これからイレギュラーが起きる可能性もあるので調べられる事は調べておくのがいい。
俺は本棚に入っている書物の中からお目当ての本を手にする。
「まずは魔物関係だな」
百科事典みたいに分厚い本を開けてみる。中には魔物の種類や魔石の取り方などが書いてあった。
(この本に載っているのは星7までの魔物か)
星7はゲーム終盤で出てくるボスくらいの強さ。やり込みプレイをしていた当時の俺からすれば余裕だが、一からやり直し状態の今では歯が立たないのは目に見えている。
「でもまあ、出会うとしても数年後だよな」
今の状況で出会う事は稀。俺はその事に安堵しながらページをめくっていく。
「魔石は魔物にある魔力が固まった結晶か……」
この辺はゲーム通りだが魔物を倒し時に自動でドロップするわけではないから剥ぎ取らないといけない。そこが手間だなと思いながら読み進める。
魔石にはランクがあって魔物の強さによって等級が変わる。例えば星1の魔物でも弱いやつと強いやつで大きさや魔力の貯蔵値が変わるから、それで値段変動があるらしい。
(なかなか面白いな)
モニター越しでは味わえない感覚に思わずニヤけそうになる。
「まあ、やり方はいろいろありそうだな」
ストーリーの流れ的に主人公キャラが現れて世界を救うはすなので、俺はゆっくり生活していこうと思うが……。
「だけどサーベルタイガーみたいな強モブが現れる可能性があるよな」
ここは辺境で城塞都市や迷宮都市と違って魔物は弱いが、サーベルタイガーみたいにいきなり強モブが現れる可能性がある。
そう考えると強くなっておいた方が得かもしれないし安全だ。
(そうなる前に情報集めをしたいところだ)
母上に呼ばれるまでは俺は情報を集めるために書斎に篭り続けた。
ーーーー
お昼過ぎ。欲しかった情報が集まったので剣を振ろうと外に出た時、遠くの方から見覚えのある馬車を見つける。
(あれって騎士様の馬車だよな)
半月前にカシャ村近くの調査を終えて領都であるロジエに戻って行った騎士様達。彼らが来たので俺は屋敷の中に戻って母上に伝える。
「母上! 騎士様が乗った馬車が来たよ」
「あら、ロンズは狩りに行っているからどうしましょう」
困り顔の母上だが椅子に座ってモグモグとパンを食べていたリムは笑った。
「騎士様に稽古をつけてもらえる!」
「な、なるほど……」
パンのかけらを口に含み水で流し込んだリムは目を輝かせながら立ち上がった。俺はリムの剣への思いを見て苦笑いを浮かべる。
(もうお転婆どころではないな)
サーベルタイガーの時も自分が倒すと思ったらしくて無理矢理フレミーの森に侵入。その事で散々怒られたはずなのに今でも連れて行って欲しそうにしている。
うん、負けん気が強いのかメンタルが凄いのかわからなくなってきた。
「まあ、外で待たせるわけにはいかないし出迎えた方が良さそうね」
母上がため息を吐きながら椅子から立ち上がり出迎える準備を進め始めた。
……そしてこの時から歯車が少しずつ狂っている事に俺は気付いてなかった。いや、思いたくなくて目を逸らしていたかもしれない。
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