第8話・サーベルタイガー2

 第2ラウンド。俺は自分の頬を叩いて気合いを入れ直す。


(俺が勝つ方法は……)


 相手は星4+の強化個体のサーベルタイガー。ゲームの序盤で戦って勝てる方法なんてほとんどない。

 

《ガウゥ!》

「はっ! 弱気になっている場合じゃないな」


 サーベルタイガーの飛び掛かり攻撃を転がって回避する。だが相手はそれを読んでいたのか体勢を無理矢理変えた。


「武器さえなんとかなれば!」


 俺が使っているのは折れた鉄のナイフでいつまで持つかわからない。だが素手で戦うよりはマシで俺は水魔法を使い相手の攻撃を受け流してナイフをサーベルタイガーに刺すが毛皮に弾かれる。


《グルルゥ!》

「ぐっ! クソったれ!」


 サーベルタイガーの動きが早いのでなかなか捉えらない。


(防御で精一杯だな!)


 水魔法やナイフを使い防御するのでギリギリ。相手の鋭い攻撃で大量の血が流れて意識が朦朧としてきた。


「こうなったら」


 相手が余裕そうにいたぶっているのがチャンスと考えた俺は相手の隙を窺う。

 だが油断はしていても隙が少ないサーベルタイガーの攻撃……そうか。


(賭けだがやるしかない)


 コチラが有利な点で相手を殺し切る。漫画で見た事があるシーンをいきなり思い出した俺は息を吐きながらサーベルタイガーを見る。


「さあ、こいよ雑魚が」


 俺の言葉にムカついたのかサーベルタイガーら苛烈な攻撃を仕掛けてくる。その攻撃をなんとか受け流しながらバックステップを踏む。


(やるしかない!)


 地面に血を吐き捨てた俺にサーベルタイガーは飛び掛かり攻撃を仕掛けてきた。……そう、飛び掛かりをだ。


《ガウゥ!!》


 飛び掛かりの間は勢いがある分身動きが取りづらい。その事に気づいた俺はサーベルタイガーに向けて手を突き出す。


「残りの魔力を持っていけ! ウォーターキャノン!!」


 サーベルタイガーの牙が俺の体に届く寸前に発動した魔法。今の俺が使える最強魔法である中級魔法のウォーターキャノン。水魔法の中では中級魔法の中ではトップクラスを誇るが魔力消費は激しいので連発はできない。


(なんとか放てたか……)


 なんとかウォーターキャノンを放ちサーベルタイガーは大きく後ろに飛んでいく。その時に何回も木にぶつかっておりダメージも入ったはず。


「あ、後はリムを連れて帰るだけだな」

 

 魔力切れでフラフラだが俺は歯を食いしばりながら歩く。


(これでいつもの生活に戻れる)


 ボロボロになりながらもなんとか生き残れたと思っていた。


《グルル!!!》

「おいおい……。マジかよ」


 唸り声が聞こえたので振り向くと体の至る所から血を流したサーベルタイガーがコチラに睨みつけた。


「もうギリギリなんだぞ」


 さっさと尻尾を巻いて帰ってくれ。そう願うがサーベルタイガーは姿勢を低くした。


(こりゃ無理か?)


 今までの戦いで根本から折れた鉄のナイフ。もう武器もなく魔力もほぼ空の状態。俺は思わず地面に倒れ、サーベルタイガーにのしかかれた。


《ガウゥ!!》

「ガハッ! け、剣さえ有れば……」


 せめて剣さえ有れば対抗できるが、その武器……。そうか!!


「ハハッ! なんで俺は忘れていたんだろうな」


 この状況で巻き返せる手が1つだけある。俺は今にも食らいついてきそうなサーベルタイガーを見て笑った。


《ガウ!》

「悪いが死ぬ気はないんでな!」


 サーベルタイガーが口を開けて食らいついてくる瞬間、俺は右手を突き出す。


「これが最後の力だ!」


 突き出した右手に食らいつこうとするサーベルタイガー。俺は突き出した右手に力を込めて大声で叫ぶ。


「こい! 月光剣クレール!!」

《ギャウ!?!?》


 俺が突き出した右手に現れた白銀の片手剣。最後の切り札である月光剣クレールの刀身はサーベルタイガーの顔に思いっきり刺さった。


「ハアァァ!!」


 俺は右手に持っている月光剣クレールに左手を添えて思いっきり振り抜く。


(これで……どうだ!)


 脳天を貫きサーベルタイガーがズドンと倒れた音を耳にする。俺は頭を動かしてサーベルタイガーが倒れた事を確認。月光剣クレールを消して俺は目を閉じた。


《ロイド視点》


 おれはジャグラン騎士団の同僚と共にアルファス団長の命令を受けてフレミーの森を探索中だ。


「確かこの辺から木が倒れる音がしたよな」

「あぁ、ロイドも油断をするなよ」

 

 今は5人1組で動いており班長の指示に従っておれたちは音のした方に向かって歩く。


(もしかしてサーベルタイガーか?)


 もし目的の魔物なら速攻で引いてアルファス団長に伝えないといけない。おれはいつでも剣を抜ける体勢で班員と共に進んでいると驚きの光景を目にする。


「おいおい、なんでこの辺は木が倒れているんだ?」


 何かが勢いよくぶつかったみたいで太い木が折れている。これはサーベルタイガーの力かと思っていると同僚のブラスが何かを見つけた。


「は、班長! あれを見てください!」

「どうした!」


 同僚の1人が指差した先にはお昼ごとに出会ったアーセナル家の少年と少女。そして血を流して横に倒れている黒い魔物……サーベルタイガーが息絶えていた。


「班長、確認したところサーベルタイガーが確実に息絶えてます!」

「そうか! ならブロンとカナはアーセナル家の子供を見つけた事とサーベルタイガーが倒れている件をアルファス騎士団長に伝えてくれ!!」

「「はっ!」」


 同僚の騎士であるブロンとカナは班長の指示を受けてカシャ村に走って行く。おれは背負っている鞄から回復ポーションを取り出す。


「レイド班長! 彼に回復ポーションを与えます!」

「ああ、わかった!」


 ボロボロで大量の血を流したアーセナル家の少年。おれはこの子にこの命を落としたくないと思い、口元に回復ポーションを運ぶ。


(飲んでくれよ)


 最初に出会った時は変わった少年だと思ったが、今はサーベルタイガーを倒した1人の戦士だ。

 おれは焦る気持ちを抑えて口元に運んでいると彼が口を開いたので半ば強引に回復ポーションを飲ませる。


「あ、兄上……。兄上!?」


 さっきまで気を失っていた茶髪の少女が目を覚ました。彼女はコチラを見るなり立ち上がり少年に抱きつく。


「あたしせいで兄上が!」

「大丈夫だよ……」


 正直、これだけ血を流していれば助かる可能性は低くなる。だが彼の妹の気持ちを考えれば気休めを言った方がいい。

 おれはこの程度しか出来ない自分に腹が立ちながら班長の方を見る。


「班長! おれも彼らをカシャ村に戻ります」

「……わかった! ミラはこの人達の護衛をしてくれ」

「班長!」

「別にここにいるくらいは俺1人でも出来るぞ」


 見るからに痩せ我慢をしている班長は30代でロジエには家族もいるがコチラに笑いかけてくれた。おれとブロンは互いに顔を見合わせて彼らの体を背負って離脱して行く。


 

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