第7話・サーベルタイガー(1)

 行方不明になったリムの捜索隊。まずは村にいないか確認すると……。


「リムちゃんならフレミーの森に向かったよ」

「クソ! やっぱりか!」


 村の助産師兼薬師のマグ婆さん。彼女の発言を聞いた俺と父上は顔を真っ青する。


「マグ婆さんありがとう! 父上急ぎましょう」

「グレイは屋敷に帰れ!」

「でも!」「帰るんだ!」


 珍しく怒鳴った父上に俺は怯みそうになるが、ここで負けると一生後悔しそうなので言葉を返す。


「でも村の探索はするよ!」

「……わかった。でも危ないところには行くなよ」


 父上がマグ婆さんの店舗から出て行く。俺は父上が出て行ったのを確認して外を見る。


(待っていろよ)


 このまま村の外に出てサーベルタイガーに出会ったら勝ち目は薄い。でもリムを見殺しにはできない。俺は覚悟を決めて外に出ようとした時、マグ婆さんに肩をつかまれる。


「!?」

「覚悟を決めた目ですね」

「ええ、リムを見殺しにはできない」


 ここで後悔はしたくない。俺は無理矢理でも行こうと思っているとマグ婆さんが笑い始める。


「やっぱりロンズ様の息子ですね」


 オホホと笑うマグ婆さんは俺の肩から手を離して棚からある物を取り出した。それは緑色の液体が入った試験菅で、ゲームでいう回復ポーションを5本手渡してくれた。


「行きなされ」

「!? ありがとうございます!」


 マグ婆さんから受け取った回復ポーションを鞄に入れた後、村人からどの入り口からリムが出て行ったかを聞く。


「行けるか」


 屋敷から出てきた時から走っているので体力が少しきつい。だがここで諦めたくないので俺はリムを探すためにフレミーの森の中を進む。



 フレミーの森に入ってすぐにグリーンゴブリンの群れと遭遇した。


(なんでグリーンゴブリンが村のそばまで来ているんだ?)


 腰からナイフを引き抜き水魔法を使いながらグリーンゴブリンを迎撃。相手は星1の雑魚なので余裕で倒せるが普通なら浅瀬まで来る魔物ではない。俺はその事を思いながら進んでいく。


 ーーーー


 フレミーの森に入って30分ほど。いつもよりも早いスペースで進んでいると赤い血痕を見つける。


「これは!」


 近くに死体がなかったので血痕が続く方に向かって走って行く。すると茶髪の少女……リムがが血を流して倒れていた。


(遅かったか!?)


 ボロボロで倒れているリムを抱きしめるとまだ暖かくお腹も動いていた。俺は鞄に入っている回復ポーションを取り出してリムに飲ませようとする。だがリムは口が開かないので俺は自分の口に含む。


(悪いなリム)


 この飲ませ方はあまりやりたくないが緊急事態なので俺はリムに口移しで回復ポーションを飲ませる。すると傷が少しずつ癒えてきたので鞄に入っている回復ポーションを全て飲ませる。


「水魔法も使うか」


 最悪の状況を避けたのは良かった。俺はリムの傷を癒す為に水魔法を使った時、茂みの方からガサリと音が聞こえる。


「なんだ……」


 俺はリムの体を木の影に移動させて腰のナイフを引き抜く。ここは雑魚のグリーンゴブリンであって欲しい。そう願うが出てきたのは動物園とかで見た事がある大きなトラ。毛皮は真っ黒で白い縞々が入っており顔はトラを思わせるワイルドな見た目。


(さ、サーベルタイガー!?)


 茂みの奥から現れたのは『調律の勇者と戦少女』で見た事がある魔物であるサーベルタイガー。まさかここに現れると思わなかったので自分の不運さを呪う。


《グルルゥ》

「さっきのグリーンゴブリンはコイツから逃げていたのか……」


 このまま逃して欲しいが相手はコチラを見て涎を垂らしており、俺は覚悟を決めてサーベルタイガーに向かって駆ける。


(どうやって勝てばいい?)


 手に持っている鉄のナイフではサーベルタイガーに重傷を負わせられない。


(なら!)


 俺は目を前に出して魔法を起動。威嚇を続けるサーベルタイガーに向かって水魔法を使う。


「ウォーターボール!」


 魔法の名前を叫ぶとバスケットボールくらいの水の球が出現。サーベルタイガーに向けて放つと顔に直撃した。


「よし! これで酸欠になれば」


 大体の生物は口から呼吸しておりそれを潰せるはず……。俺はそんな考えをしているとサーベルタイガーの体が光輝き顔の水を弾いた。


「おいおい……。まさか強化魔法か!」


 ゲームではサーベルタイガーが強化魔法を使ってくる描写はない。そうするとコイツは。


(まさか強化個体か!)


 屋敷の書斎にある本の中にあった危険度が1段階上がる強化個体が存在している。その事を思い出し俺は体を震わせた。


《ガウゥ!》

「なっ! ぐっ!」


 頭の中で色々考えているとサーベルタイガーが突進を仕掛けてきた。俺は左に飛んでなんとか直撃を避けるが右腕を浅く切り裂かれる。


「ぐうぅ!」


 焼けるような痛みを感じて俺は水魔法を発動。傷を治す傍らサーベルタイガーの追撃に備える。


(この速さだと追いつけない!)


 先ほどの一撃はギリギリ反応出来たがサーベルタイガーは得意の高速戦闘を仕掛けてくる。


「ぐうぅ! この!」


 急所へのダメージは避けているがサーベルタイガーの攻撃で腕や足にダメージ蓄積していく。水魔法での回復も間に合っておらず傷がドンドン増えていく。


「このままだと!」


 1番受けたくないのは噛みつきで腕や足が持っていかれる。俺は相手の顔を見ながら水魔法で反撃するが威力が低いのでダメージが入らない。


「チイィ! もっと火力が高い属性魔法が使いたいな!」


 光魔法や雷魔法なら威力も速度も申し分ない。だが使えるのは攻撃に向いてない水属性魔法。俺は口から血が入ったタンを吐き捨てながら笑う。


「もう笑うしかないよな!」


 サーベルタイガーの爪の一撃をナイフでなんとか受け流す。そのまま反撃しようとするが後ろ足を器用に使ってサーベルタイガーはサイドステップを踏んだ。


(クソ! このままだとコッチがやられる)


 相手は強化個体のサーベルタイガー。正直村を壊滅させる戦闘力を持つ相手にここまで持っている方がおかしな状況だが……。


《ガウゥゥ!!》

「なっ!」


 ボロボロになりながら立ち向かっていたが、サーベルタイガーは攻めきれないと感じたのか大胆な行動をとった。

 それは勢いをつけた突進で俺は地面に水魔法の縄を作って相手を転ばしてサーベルタイガーの脳天にナイフを突き刺す。


《ガァァ!》

「ガハッ!」


 ナイフの一撃を受けたサーベルタイガーは頭から血を流す。だがナイフも芯から折れたので俺は手元に武器がない。


「ハハッ! もう終わりなのか……」


 せっかく転生して新しい家族も出来た。今の俺にはその家族すら守る力がないのか。


(そんなの嫌だよな!)


 無様でもいいが大事な物を守る力が欲しい。俺は痛みが走る体に鞭を打って立ち上がる。


「第二ラウンドだ!」

《ガウゥ!》


 武器は折れたナイフしかないが俺は果敢にサーベルタイガーに立ち向かう。

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