第6話・騎士様と緊急事態

 半月後。いつも通りフレミーの森で素材回収をして冒険者ギルドで換金した帰り、屋敷の前に見た事のない馬車が数台家の前に泊まっていた。


(あれが父上が言っていた騎士様か?)


 確か視察で来られると聞いていたので、俺は少しビビりながら近づくと馬の世話をしていた若めの騎士がコチラを見た。


「うん? 君は」

「え、あ、僕はこの屋敷の子供です」

「そうか! 無事でよかった!」

「へ?」


 銀色の金属鎧を着た若い騎士のお兄さんは俺を見て安堵の表情を浮かべた。


(何かあったのか?)


 騎士団は上の貴族が騎士爵の人達に指示を出す。そこで騎士爵の当主が騎士団を作り派遣する。王族の近衛騎士団以外は基本的にこのやり方なのでそこまで驚かないが、肩をバンバンと叩いてくるお兄さんの顔を見て若干引く。


「君の父上も母上もお待ちだよ」

「あ、はい」


 よくわからないが騎士のお兄さんに案内されて自宅の屋敷の中に入る。すると母上が涙を目に涙を溜めながら抱きついてきた。


「グレイが無事でよかったわ」

「は、母上! 何があったのですか?」


 大きな胸に抱きしめられて身動きが取れないが、母上は離してくれなさそうだ。俺はこのまま母上に抱きしめられているとドタドタと誰かが走ってくる音が聞こえた。


「無事だったかグレイ!」

「父上! 無事ではないです!」

「ハハッ! ファマもそろそろグレイを離してやれ」

「わ、わかったわ」


 流石に息がしづらかったので母上から離れて深呼吸。新鮮な空気を肺に入れた後、苦笑いを浮かべている若い騎士に向かって頭を下げる。


「慌ただしくて申し訳ありません」

「いやいや、平騎士のおれに頭を下げなくてもいいですよ」


 騎士のお兄さんはカラカラと笑いながら馬の世話に戻り、俺達家族はリビングに向かって歩き始める。


「それで何があったのですか?」

「それは……」


 父上が言いにくそうにしているとリビングに到着。中には立派な髭を生やした40代くらいの男性騎士が椅子に座っていた。


(この人、かなりやり手だな)


 男性騎士の表情は険しいままだったが、俺の方を見ると少し表情を緩めた。父上は男性騎士の方を向いて軽く頭を傾けた。


「申し訳ありませんアルファス殿」

「いや、位的にはアーセナル様の方が高いので大丈夫ですよ」

「そう言っていただきありがとうございます」


 頭を上げた父上。俺達3人は椅子に座り男性騎士……アルファス殿は険しい表情のまま口を開いた。


「息子様もご一緒でも大丈夫なのですか?」

「ええ、我が息子のグレイも一応戦えますので」

「そうですか……。では、グレイ殿も含めて続きを話させていただきます」


 緊張した面持ちでアルファス殿は話し始める。その内容は思ってもない事だった。


「実はガナ村がサーベルタイガーに壊滅させられました」

「「「!?!?」」」」

(さ、サーベルタイガーだと!?)


 アルファス殿の言葉に驚いた俺は思わず立ち上がりそうになるがなんとか抑える。だが何かに気付いたのかアルファス殿はコチラを見て頭を傾けた。


「グレイ殿はサーベルタイガーを知っているのですか?」

「いえ、その……。昔どこかで聞いた事があるだけです」

「そうか」


 ゲームの知識ですなんて信じてもらえないから当たり障りのない回答をしておき。今はガナ村にサーベルタイガーが現れて崩壊させた事に意識を引っ張る。


(ガナ村か……)


 ここから歩いて3日くらいで到着するガナ村。そこがサーベルタイガーに壊滅させられたならこのカシャ村も危ない。


「あ、アルファス殿。ガナ村がサーベルタイガーにやられたお話しは本当なのですか」

「ええ、壊滅したガナ村を調査するとサーベルタイガーの毛が落ちていたので間違いないです」

「そんな! じゃあこのカシャ村付近も危ないですよね!」

「なので我が騎士団が護衛に着きます」


 煮え切らない表情を浮かべるアルファス殿。父上と母上は悲痛な表情を浮かべており俺も寒気を覚えた。


(サーベルタイガーなんてゲームの中盤レベルの相手だぞ)


 星4の魔物であるサーベルタイガー。この魔物はそこそこの耐久力に素早さが持ち味で、攻撃力も同レベルの魔物より高くて中盤の強モブだ。


「サーベルタイガーは並の騎士では歯が立ちませんよね」

「騎士団長の私でも1人では勝てるかどうか微妙です」

「アナタ……」

「星3の魔物ならオレでもなんとかなるが星4はかなり厳しい」

「そうですよね」


 父上は剣の腕利きだ。でもその父上からサーベルタイガーを相手するのは難しいと聞いたアルファス殿が唇を噛んだ。


「今は守りを固めた方が良さそうですね」

「ええ、サーベルタイガーが討伐されるまでは動かない方がいいかと」

「村の方にはコチラから伝えますね」


 父上とアルファス殿が立ち上がり部屋から出ていく。重苦しい雰囲気が少しマシにはなったなので口を開く。


「あの母上。リムの姿が見えないのですが」

「リムは2階にいるわよ」

「わかった!」


 母上も少し疲れた表情を浮かべているが俺の方を見て笑顔を浮かべた。この状況で笑顔を浮かべるのはしんどいはずなのに……。


(ここは大人しくしておくか)


 リムなら剣術の相手をすればいいかと思って階段を上がり部屋を覗く。だが部屋の中にはリムの姿がない。


「どういう事だ?」


 他の部屋に行っているのかと思って確認するが姿がない。俺はある可能性が浮かんで急いで母上の元に戻る。


「は、母上!!」

「ど、どうしたの?」

「リムが……リムが見当たりません!」

「何ですって!?」


 リビングでお茶を飲んでいた母上だが、リムが行方不明と聞いて焦り出す。


(どうする)


 最悪の可能性は屋敷の敷地から出てフレミーの森に向かった。これが俺が今考えている中で一番最悪。

 それ以外ならまだ何とかなるが黙って屋敷から出ている時点である程度は察する事ができる。


「母上は家の中を探してください!」

「グレイはどうするの!?」

「俺は父上と騎士様に声をかけます」


 ここでゴタゴタ言っている場合じゃない。俺は急いでリビングから出て行き靴を履いて外に出てる。


「そんなに急いでどうしたんだい?」

「あの、すみません! 父上はどこですか」

「ロンズ様ならアルファス騎士団長と中庭で話されているよ」

「ありがとうございます!」


 先ほど対応してくれた若手の騎士様に頭を下げた俺は急いで中庭に向かい。父上とアルファス殿達が難しそうな顔で話し合いをされているところに突入した。


「父上、アルファス殿。急ぎの用事があるので失礼します!」

「ど、どうしたんだグレイ!」


 父上とアルファス殿達が驚いた表情を浮かべるが、今は気にしている場合じゃないので端的に話す。


「実は妹のリムが屋敷の中にいないのです」

「リムがいない? そんなわけないだろ」

「それが本当なんです」

「アーセナル様。もしかすると部下がリム様の事を見ているかもしれないです」

「おいおい!?」


 アルファス殿が立ち上がり騎士を呼び確認をとった。すると茶髪の少女が屋敷から出て行くところを見たという騎士の発言を耳にした。


「なんだと!?」


 真っ赤な顔から青い顔になったアルファス殿は父上と俺の方を見て頭を下げた。


「申し訳ありません。すぐに探させていただきます!」

「手助け感謝します!」


 事の重大さに気づいた父上は早速剣を装備して立ち上がった。


(無事でいてくれよ)


 俺は最悪な状況にならないように部屋に戻り準備を進める。そして父上の同伴で俺もリムを探しに行く事が決まった。


〈あとがき〉


 読んでくださった皆様に感謝を!


 面白いな、続きが読みたいな、と思われた方は星とブックマークを是非よろしくお願いします。





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