第5話・他人視点1

 レンガ状の建物がひしめく辺境都市・ロジエ。人口15万人を超える大都市で中央部には貴族町と呼ばれる国の上位層が住んでいる町。その中でジャグラン騎士爵家の当主であるガイン・ジャグランは手元にある書類を見て目を見開いた。


「ガナの村がサーベルタイガーにやられただと!?」


 サーベルタイガーは黒い体毛に白色の縞々模様の魔物。その牙や爪はかなり鋭く金属装備で固めた重騎士ですら軽く蹴散らされる相手だ。


(このタイミングで星4の魔物か)


 王国内でも王族派か貴族派で揉めている中、新しい火種となるのは危険なので早めに対処したいところだ。


「あの、ご当主様。考えすぎてはございませんか?」

「ん? ガウェルか」


 ふと気づいてみると老年の執事であるガウェルが紅茶セットを持ってきてくれた。私はガウェルから紅茶が入ったカップを手に取り口をつける。


「少しは落ち着かれましたか?」

「あぁ、だが辺境伯様からの情報はかなりマズイ」

「そんなに危険な案件なのですね」

「まあな。ただ、この仕事が回ってきた以上は騎士団を動かさないわけにはいかない」

「騎士団……ご当主様直々に行かれるのですか?」

「いや、そこは隊長達に任せようと思う」


 ただ大きな部隊を動かすのは難しい。ならまずは30人ほどの中隊を作って調査を進めて危険が有れば大部隊を動かすのがいいだろう。

 

(手紙には他の騎士爵達にも動いてもらうと書いてあるが)


 ジャグラン騎士爵家の担当はアーセナル男爵家が保有する領地で馬車で5日はかかる田舎の村だ。


「相手的に騎士団長に動いてもらうしかない……ー」

「騎士団長であるアルファスはリーネ様の稽古をつけてられますよ」

「あぁ、そうだよな」


 娘であるリーネに剣の稽古をつけている。それを無理矢理変えるとリーネは何かに気づくかもしれない。


(難しいな)


 もしサーベルタイガーを相手するならアルファスには動いて欲しい。だがリーネがどう思うか……。


「その辺は私の方でなんとかしてみましょう!」

「悪いなガウェル」


 ここはガウェルに回せて私も体を動かそうと思い立ち上がる。ガウェルは私が立ち上がったのをみてため息を吐く。


「ご当主様は手元にある書類を片付けてください」

「は、はい」


 ガウェルの鋭い視線を受けた私は冷や汗をかきながら椅子に座り直す。


(苦手な書類作業をしなければいけないのか)


 私は体を動かす事は好きだが書類整理は苦手だ。だが他の執事達が新しい書類を持ってくるので嫌でも整理しなければいけない。


「こんな事なら私もサーベルタイガーの討伐に行きたいな」


 自分でも子供みたいな発言だ。そう思っていると呆れた表情を浮かべたガウェルは首を横に振った後、執務室から出ていった。


「さて、改めて私も仕事をするか」


 周りの執事やメイドは苦笑いを浮かべているが、私は渋々書類整理を進めていく。


 ーーーー


 一通り書類整理が終わった後、窓の外を見ると日が落ち始めた。


「ガイン様、そろそろ夕食のお時間ですが……」

「ああ、すぐにいく!」


 ノックをして入ってきたメイドの言葉に受け答えをした私は椅子から立ち上がる。先ほどまでは面倒な書類を片付けていたのでお腹が空いた。


(夜はガッツリした物が食べたいな)


 貴族の階級では1番低い騎士爵だが我がジャグラン家は経済的には悪くない。そのため夕食は豪華な時があるので楽しみだ。

 私は少し気分が高まっていると誰かが廊下をドタドタと走る音が聞こえる。


「父上!」

「ん? あぁ、リーネか」


 赤髪のポニーテイルで吊り目のである我が娘リーネは私の目の前まで走ってきた。


(今日は慌ただしいな)


 貴族の淑女が廊下を走るのははしたない。その事を注意しようと思ったがリーネは目力を強くして睨んできた。


「どうして父上は剣の指導者をアイファスから変えようとしたのですか!」

「それは……その件は夜ご飯を食べ終わってからでも大丈夫か?」

「嫌です! 父上、答えてください」


 今年で8歳になるリーネは聞き分けが良くない。私は叱ろうと思ったがガウェルがさっと近づいて来た。


「お嬢様。アイファス殿はリーネ様の指導者を止めるわけではなく別の任務で離れるだけですよ」

「じゃあ他の人が私の指導をするの?」

「ええ、もちろんです」


 騎士団長のアイファス以外にも優秀な騎士は揃っている我がジャグラン家。リーネはガウェルの発言を聞いて少し落ち着いたみたいだ。


(だが……)


 またいつ駄々をこねるかわからないので私は警戒しながらリーネと共に移動する。


「それでアイファスはどこに行くの?」

「うーん、それはご当主様にお聴きください」

「わかったわ!」

(ガウェル!?)


 目を輝かせている我が娘にガウェルは目を逸らした。私はガウェルに面倒ごとを振られたと思いため息を吐く。


(説明すると厄介だな)


 強力な魔物が現れたなら自分が討伐すると言いかねないリーネを押さえるために私は動き始める。


〈あとがき〉


 読んでくださった皆様に感謝を!


 面白いな、続きが読みたいな、と思われた方は星とブックマークを是非よろしくお願いします。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る