第2話・大切な家族

 俺が生まれてから5年後。


 ベッドの上から体を傾けて窓を見れば、しっかりした木が生えており木の葉が落ちていった。

 俺が生まれたのは5月の頭で時間の感覚は現実世界と同じはずだ


 だから俺の誕生日も間違ってないはずだ。


 この世界……少なくとも『調律の勇者と煌めく戦乙女』のストーリーと同じ名前の王族・貴族名が存在している。つまりはゲームの世界に転生したが一番近いが、やりこんでいてもアーセナル男爵家という名前の記憶がない。


(つまりは脇役か)


 断罪されるカマセ貴族よりはマシと考えるべきか、イレギュラーがはある事でストーリーがおかしくなるかもしれない。プラスかマイナスで考えると微妙だが悪くないと思い始める。


(まあ、それよりもスキルだよな)


 いろんな考えが頭によぎるが置いておいて、今まで発動したスキルである『水魔法』と『月光剣・クレール召喚』の確認。

 水魔法はファンタジーによくある魔法で火力は低いが回復魔法やカウンターが得意な魔法だ。

 月光剣・クレールは1日10分しか召喚できないが白銀の刀身を持つ片手剣。能力は『身体強化レベル1』と『耐性無効化』の2つがついており物理耐性をもつゴースト系でも楽に倒せそうだ。


(かなり使えそうだな)


 最初にしては使える能力だと思い俺はウキウキしながら服を着替える。アーセナル男爵家の屋敷は老朽化が酷いがなんとか使えそうなので建て直してはしてない。


「この屋敷もぎりぎりだな」


 ゴワゴワした布で作られた服に皮のブーツを履いた俺は部屋から出て階段を降りる。階段下のキッチンでは銀髪ロングの女性、母親のファマ・アーセナルが朝ごはんを作っていた。


「母上、おはよう!」

「あらグレイ、おはよう」


 ニコニコと笑顔を浮かべている母親。俺は何か手伝う事がないかと質問してみる。


「あの、母上。何か手伝う事はある?」

「うーん、じゃあこの鍋を見ておいてくれるかしら?」

「わかった」


 この世界ではコンロみたいな物は見たことが無く昔の人達が使っていたような窯を使っている。俺は近くにある薪を窯に入れながら鍋の中身を見る。


(じゃがいもモドキとお父様が狩ってきたチャージボアの肉が入っているのか)


 俺は台の上に乗って木のヘラを使って鍋の中身をかき混ぜる。


「美味しそう」


 朝ごはん前なので食べたくなるがグッと我慢しながら鍋の中身をかき混ぜる。母上は手際よく食材を切り終わったみたいでコチラを見た。


「こっちの準備は終わるしリムを呼んで来てくれるかしら?」

「わかりました!」


 母上の言葉を聞いた俺は木のヘラから手を離して台を片付ける。


(今日は早く起きてくれるといいが……)


 朝に弱い1個歳下の妹であるリム。俺は長期戦にならないように頑張ろうと思いながら寝室に移動する。そしてかわいい妹の姿を見て思う。


「俺は力をつけて大切な人達を守りたいな」


 前世ではできなかった事。力をつけて強くなって大切な人達を守ると決めながら布団に入って気持ちよさそうに寝ているリムを起こす。


 ーーーー


 朝に弱いリムをなんとか起こした後、父上ことロンズがチャージボアを4頭も担いで帰ってきた。


「今帰ったぞ!」

「あら、今日も大量ね!」


 チャージボアはゲームの中では序盤に出てくる雑魚敵。肉は食材になるがレートは低く素材の売値も安い。だがこの村では貴重なお肉になるので冒険者ギルドで売るとそこそこのお金になる。


「とりあえず飯が終わったら解体を頼んでもいいか?」

「別にいいけど何かあるの?」

「そろそろグレイに剣を教えようと思っているんだよ」

 

 父上が剣を教えてくれる。その言葉を聞いた俺はテンションが上がりそうになる。


(おお、やっとか)


 今までは隠れてクレールを召喚して素振りをしていたがしっかりとした型はついてない。でも父上に剣を教えてもらえるならかなりありがたい。


(どちらにしろ力をつけないと生き残れないからな)


 父上が水浴びに行っている間に母親と俺はリビングに戻る。そこにはうつらうつらと眠そうにしている茶髪の幼女。妹であるリムが眠そうにして目を擦っていた。


「大丈夫か?」

「う、うん!」

 

 今年で4歳の可愛い妹だがきびしくしないといけない時があるのは心苦しいところ。俺は心の中で若干苦しくなりながらも母親と食器を並べる。


「ほらほら、朝ごはんよ」

「ねむたい……」


 放置するとリムが眠りそうだが父上が戻ってきたので俺達は朝ごはんを食べ始める。


「「「「いただきます!」」」」


 朝ごはんは固焼きパンにお肉と塩で味付けをしたじゃがいもモドキが入ったスープ。いつもの食事なので俺は物足りなさを感じていると母上が口を開いた。


「そういえアナタ。グレイに剣の稽古をつけるの?」

「ん、あぁ。5歳になったしちょうどいいだろ」

「そうだけど怪我はしないでよ」

「わかっているよ」


 母親のジト目に苦笑いを浮かべている父上。俺は仲のいい夫婦だなと思いながら固焼きパンをちぎってスープにつけながら食べる。


(美味しいな)


 父上と母親が楽しそうに話している仲、リムは父上の方に向き方を開く。


「あにうえは剣をおべんきょうするの?」

「ええ、そうよ」

「!? リムもやりたい!」

「リ、リムは早いかな」

「ヤダヤダ!?」


 剣に興味を持っているのかリムは駄々を捏ね始めた。父上と母親は苦笑いを浮かべながら顔を見合わせる。


「うーん、簡単な素振りだけなら大丈夫か?」

「アナタ! まだリムは小さいのよ」

「そ、そうだよな」


 母上の剣幕に押される父上。だがリムはどうしてもやりたいみたいで暴れ始めた。


「あにうえがやるならリムもやりたい!!」

「……父上、母上。このままだとリムが落ち着かないのでやるだけやろうよ」

「け、見学くらいはどうだ?」


 このままだと収集がつかないので父上が見学を提案。母上は父上とリムを見た後、一つため息を吐いた。


「わかったわ。でも無茶はさせないでよね!」

「も、もちろんだ!」

  

 冷や汗を流す父上は母上の言葉にコクコクと頷く。俺は尻に敷かれているなと思いながらニッコリ笑うリムを見る。


(纏まって良かった)


 このまま喧嘩に発展するのは嫌なので俺は安心しながら朝ごはんの残りを食べていく。


〈あとがき〉


読んでくださった皆様に感謝を!


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