ゲームのモブキャラに生まれた俺は大切な人達を守る為に成り上がる

影崎統夜

第1話・始まりの時

 あなたが行きたいゲームの世界はなんですか?


 誰かにそう質問されたら俺は迷うことなく『旋律の勇者と煌めく戦乙女』というゲームの名前を上げるだろう。


 この『旋律の勇者と煌めく戦乙女』という作品はいわゆる剣と魔法の世界が舞台。本格派のRPGと学園で起こるさまざまなイベントを組み合わせた舞台がウリだ。


 プレイヤーはかつて世界を暗黒に沈めようとする魔王を封印した勇者の末裔であり、物語の舞台であるクロッカス王国にある『セントラル学園』に通う事になる平民の新入生だ。

 学園に入学した主人公はそこで出会うヒロインやキャラクター達とパーティを組みダンジョンを攻略や冒険をしたりする。

 

 ここまでが簡単なあらすじだがこのゲームにはギャルゲーみたいな好感度システムが導入されている。

 自分の好みのキャラクターの好感度を上げていくとイベントが発生したりして特別なアイテムや最終的には結婚までする事ができる。

 その攻略キャラは全シリーズ含めて500人を超えておりダンジョンとは別のやり込み要素となっている。


 さて……長々と話してしまったがこのゲームのウリは細かく練られたストーリーに有名イラストレーターの書き下ろしのキャラクター。戦闘の爽快感が人気を集めて発売した年の人気ゲーム大賞で1位を獲得するほどの大人気ゲームになった。


 もちろん20歳を超えた俺もこのゲームをやりこんでおりプレイ時間が2000時間を突破。家族には働かないニート扱いをされていたがそんな事はどうでもよくてこのゲームに熱中していた。

 その結果、自分がどういう状態か知らずに倒れるとはこの時は思っても無かった。


 ーーーー


 何か温かい感覚。気がつくと温かな湯を浴びせられることがわかった。

 俺は目を開けて周りの様子を確かめようとしたが、全く目が開かない。それどころか体に力が入らずに動かす事もできなかった。


「おお、坊ちゃんは元気ですね」


 ふと耳に入ってきたのはおっとりした女性の声。


「ええ、よかったわ。この子が元気に産まれてきてくれたのが何よりも幸せよ」


 続けて鈴のような綺麗な声をした若そうな女性の声が聞こえる。その声は若干疲れているようだったが嬉しそうだ。

 俺は不安と恐怖で胸がいっぱいになりそうだったが、優しそうな声を聞いて少し落ち着いた。


(なんだこれ……)


 先ほどまで実家の自室で『旋律の勇者と煌めく戦乙女』をやっていた後に寝たはず……。

 夢にしてはお湯や他人の温かな手の感覚がリアルで、これが現実ではないとは思えない。だが大人だった自分が小さな赤ん坊になるなんていう非現実的な事に理解が追いつかない。


(いや、まさかな)


 この状況を見て俺はある答えに行き着く。それはファンタジー小説とかでよくある異世界転生。でもあれはトラックに轢かれたり綺麗な女神様と出会うなどのイベントがあるはず。

 それが全くなくいきなり赤ん坊になっているのは驚きしかない。


(流石にそれはないよな)


 頭の中ではいろんな考えが浮かぶが纏まらない。俺は不安と気持ち悪さを感じているとバンッと勢いよく何かが開いた音がした。


「おお、生まれたか!」

「ちょっとアナタ!」

「ああ、悪い」


 聞こえた声は若い男性の声で先ほどの女性の旦那さんみたいだ。彼は勢いよく走ってきたのか少し息を整え始めた。


「ふう、マグさん。この子は元気ですか?」

「もちろん元気ですよー」

「それはよかった!」


 マグさんと呼ばれた女性……声的にはお婆さんくらいだな。俺はそう勝手に思っていると力強く抱きつかれる感覚を感じた。


「ファマに似て綺麗な銀髪だな」

「そうね! でも顔立ちはアナタに似ているわよ」

「そりゃオレ達の子供だからな!」


 カラカラと笑っている男性の声と奥さんと思われる鈴みたいに綺麗な声。この声を聞いていると俺は安らぐように落ち着く。


(こんな事は前世ではなかったよな)


 嫌な事を思い出したのでその考えを頭から消しながら俺は彼らの話を耳にする。


「あの、旦那様。そろそろ抱き締めるのはやめていただけますか?」

「あ、あぁ、そうだな」

「もう……アナタは外で待っていてください!」

「わ、わかった」


 ガッチリとした腕から柔らかい腕の感触。俺はその感触を受けて眠くなりかけるが大事なことを忘れていた。


(そういや、俺の名前はなんだろう)


 ふと思った疑問。自分の名前がわからないと辛いので彼らの発言に耳を傾ける。


「そういえば、この子の名前はお決めになっているのですか?」

「名前はもう決まっているわ」

「それは何よりです!」


 俺が思っていた疑問をタイミングよく質問してるお婆さん。その言葉を聞いた女性は嬉しそうに言葉を発した。


「この子の名前はグレイ・アーセナルよ」

「グレイ様……良い名前ですね」


 グレイ・アーセナル。聞いた事のない名前だと思っているとお婆さんが笑う。


「アーセナル男爵家を継ぐお方の名前ですね」

「ええ! このクロッカス王国の貴族社会を生き抜ける子よ」

(く、クロッカス王国って!?)


 先ほどまでプカプカと浮かんでいた感覚だったがクロッカス王国と聞いて意識が覚醒した。


(この世界は『調律の勇者と煌めく戦乙女』の世界なのか?)


 たまたま偶然かもしれないが聞いた事のある名前だったので硬直していると頭に何かが響く。


『第一ロック解除。水魔法と月光剣・クレールが使用可能です』


 機械音みたいな声が頭の中に響き、俺は思わず泣き出す。


「あらあら! 元気な子ね」


 俺の鳴き声にお婆さんと女性が明るそうな言葉を発した。そして俺は眠くなってきたのでこのまま意識を飛ばしていく。


〈あとがき〉


 読んでくださった皆様に感謝を!


 面白いな、続きが読みたいな、と思われた方は星とブックマークを是非よろしくお願いします。

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