BACKGROUND  誇

 いきなり普通科生登場、そして滑車のついた巨大な台を転がして、ステージと繋げる。

 するとステージのPro科ブレザー女子が、モデル張りのプロポーションと美形でランウェイを歩いてくる。

「さすがPro科! 華が違うね」

 うっとりランウェイのモデルに見惚れていると、先端まで来たモデルがいきなり、着用しているPro科のブレザーを脱ぎだした。

「ミカエル・青矢。ようこそPro科へ」

「おっす! で、オレにも、あの制服支給してくれんの?」

「もちろんでございます」

「イェイ! Pro科の制服に体通せば、いよいよオレもPro科生として打倒瞬に、抜かりなしってわけだ。この黒蟻学ラン脱いじゃっていい?」

「ミカエル・青矢。何か勘違いして、ございませんか?」

 急にレディー・オカカの威厳が増して、そのオーロラが更に眩しい。


「どうか、ミカエル・青矢。わたくし共と同じ、Pro科生となった以上、その御力を世のため人のためにお使いください。ミカエル・青矢。あなたの目的は弟様を倒すこと、なのでしょうか?」

「いや! じゃなくて、母さんを、母さんを悲しませたくなくて、瞬に戻ってきてほしくて・・・」

「そのお志、回転扉の試練により、既に確認させてございます。どうか、ミカエル・青矢。そのお志を忘れず奢らず、その強大な御力に溺れることなく、邁進なさってくださいまし」

 レディー・オカカの前に、ぼくは片膝をついた。

「この心臓エンブレムにかけて、誓おう。あれ? なんじゃこりゃ!」

 自分の姿を見て驚愕の事実が判明。

 なんと、すでにPro科ブレザーに着替えているではないか!

「黒子の普通科諸君たちが、いつの間に、着替えさせてくれたん?」

「そうでは、ございません。普通科の制服もわたくしがデザインしたものでございます。どちらの制服にも共通しているのは、生地」

「生地?」

「そうでございます。ミカエル・青矢。あなたは着替えたのではなく、わたくしの生地からPro科の制服へ脱皮したのでございます。自らの御力によって」

「へ?」

「ミカエル・青矢。デザインとは?」

「デザインとは・・・オシャレ?」

「そうでございます。つまりは、ミカエル・青矢にとって、デザインとはオシャレを生地に投影したモノ」

「投影?」

「回転扉とは、部屋の間仕切りにわたくしの生地を貼って、各々の願望を投影させる装置のことでございます。そこでは、正門のランプで告解したネガイゴトとは全く違う、願望が描かれてしまうものです」

「じゃ、じゃあ、オレが見ていたのって?」

「ハイスクールProの最奥の校舎には、わたくしの生地で作られた垂れ幕が下がってございます。その垂れ幕には、学生らの願望が日々投影されているはず。願望は、ネガイゴトに対する戒めでございます。願望に流されていては、ネガイゴトは叶わないのでございます。そうでございましょう? 椿さん」


 レディー・オカカがランウェイのモデルに話しかけると、モデルが脱いだブレザーをぼくに放った。

 次にリボン、次にワイシャツのボタンをポロポロ外して・・・

「ちょっと待った! これって、ストリップだったの? チップ用意してないんだけど」

 かまわず、モデルの姉ちゃんは、ボタンの外れたワイシャツを脱ぎ捨てる。

 ついに上半身露わにして、淡いピンクのブラジャー姿に。

 え? あそこにチップ、挟むん? でへ!

 モデルが、レディー・オカカとぼくの前でくるり、屈んだ背中を見せつけられて、思わず手で口を塞いだ。

 その背中は、モデル張りの容姿とシルクの肌とは真逆に、歪んだ相を描いている。

 火傷の跡・・・

「椿さん用の生地が、完成いたしました」 

 レディー・オカカは言いながら、昆虫が脱皮する時に抜け出る透明な皮のような生地を手にしている。

 な、なるほど、あの生地を火傷の部位に張る。そうすれば、滑らかな肌の部位と繋がって火傷が修復される、とか?


 ぼくは興味深々、ストリップの観客のごとく覗き見る。

「火傷の跡は、わたしの料理で、世界中の子供たちがお腹いっぱい、ポッコリ笑顔になるまで、残しておきます」

 言って、モデルの姉ちゃんはシャツを着なおし、エンブレムの眩しいブレザーを羽織りながら言った。

「これが、わたしのネガイゴト。あなたは、どうなの? この真っ赤なむき出し心臓エンブレムに誓える? あなたのネガイゴト」

 ステージの上から、椿とか言うモデルの姉ちゃんが、ぼくを見下ろして言った。

 ぼくは、真っ赤なむき出し心臓エンブレムに手を当てて誓った。

「誓おう! しかし、チップも払わないことも誓おう。後から請求されても、ぜったいに」

 縞模様のパンツを垣間見て、ぼくは脳天に椿のかかと落としを食らった。


「なんなの! あんた、失礼しちゃう! あの回転扉出てきたって聞いたから、案内役買って出たのに、レディー・オカカ、本当に、この人が回転扉を?」

「本当でございます」

「どうして、こんなヤツが?」

 椿が怒りのこもった顔を近づけて言った。

 う、すぐ顔に出るタイプ。しかも怒るほど、お顔が超綺麗に。

「いい? これから、わたしがあんたのPro科編入案内するから。私は椿。いい?」

「い、いいよ」

「あんた、ホントにいいの?」

「だから、いいってさ」

「なんでいいのよ!」

「なんで、すぐ切れんのよ!」

「わたしから、あんた呼ばわりさてんのよ!」

「あ、これは、失敬。オレは青矢。三ツ矢でもハマ屋でも、なんでも呼びたいようにどうぞ」

 椿はランウェイからフワッと、縞柄のパンツ見せながら床に飛び降りた。

「へえ。じゃあ、ハンドルネーム、三ツ矢サイダーでいい? やっぱ、三ツ矢ダサイダーでいいかしら?」

「なんすか? そのハンドルネームって?」

「一応、案内役の私が面倒見ることになってんだけど。なんでもいいなら、じゃあ、三ツ矢うんこクサイダーってことで」

 椿がメモを取り出して、うんこクサイダーと書き始める。

「いや! それはちょっと・・・青矢で、青矢でいいっす!」

「その名に、Pro科の誇り、賭けられて?」

 急に上目使いに、なんだコイツ、色っぽい。

「Pro科の誇りに賭けよう」

 スカイアロー青矢。うつろに虚空を見やる瞬の佇まいが脳裏をよぎる。

「青矢の性にかけて、弟を助ける! で、どうやって?」

「回転扉から出てきた元Pro科生、みんな大好きさんに、わたし、助けられて今ここにいるのよね」

「みんな大好きさん?」

「覚えておいて、わたしが敬愛して止まないみんな大好きさん、八正人の一人だから。あんたと同じ、回転扉出身。ホント、汚さないでよね。みんな大好きさんの後輩として」

「なんすか? その八生人て?」

「富士山くんを筆頭に、プロ高の運営に携わる八人の運営人。世界中に散らばってるけど」

 辺りを見回すと、いつの間にかレディー・オカカの姿が消えている。

「忍びか?」

「あとは、わたしに任せたってこと。行きましょ」


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