BACKGROUND 憐
「君は世界的大企業、青矢グループ創業者の孫娘を母に持つ」
湯川は窓の外を眺めながら言った。
「だから、なんだよ? オレが裏口入学したとでも?」
「プロ高に裏口などあり得ない。例え大統領の息子であっても。君はまだ、プロ高を理解していない」
「ちょっと急ぎのミッションでね。調べてる暇なかったんだ。ただ、プロ高がいちばん、オレの願い叶えるのに手っ取り早い場所なのはわかってる。と言うかプロ高しか選択肢がない」
「君のネガイゴトが、どうとか。そんな地球内事情に関心はない。そもそもPro科生は受験などしない。全員がスカウトされた逸材たちで、プロ高の資本を自由に享受できる。対して普通科、確かに聞こえは悪いかもしれない。それによって、このプロ高に選ばれた普通科生が蟻に過ぎない印象を与えたしまった。語弊があった。どうも、国語のセンスがなくて、坂木、すまなかった」
親衛隊長、オメメきらん!
「湯川先生! わかってますから、先生のお気持ち!」
「先生! 先生! 先生!」
普通科A、B、C、D、E、F、Gその他諸君、目を輝かせてPro科生湯川を師のごとく仰ぎ見る。だから、それがうっとおしいっつうの。
「青矢、君もそうだったように、ここにいる普通科生はプロ高の正門に設置されたランプにネガイゴトを言って、選抜された」
「それが、なんだって? ネガイゴトってのは叶えなきゃ意味がねえ。ケツで椅子あっためてりゃ、叶うって話しじゃないわけ。オレのネガイゴト」
「青矢、言いたいことはわかった。だがしかし、勘違いするな。ここにいる普通科生たちは全員、Pro科候補生でもあることを」
「先生! 先生!」
「先生! どういうこと?」
普通科生A、B、Cどもの喝采といっしょに、ぼくも旨そうな話しにがっついた。
「そもそもこの校舎は、我がハイスクールPro発祥の聖地。元普通科生にしてハイスクールProの創始者、
「ふ、不可能を不可能に?」
不安であたりを見回す。
誰? Pro高創始者のフジヤマくんて?
そっちの疑問に集中力を奪われた。
「その通り。しかし、それはPro科生に課せられた命題であり、君で言うところの、Pro科生の使命。逆に言えばだ、この過酷な使命から、普通科生は守られ、Pro科生からこのようにサポートを受けられる。日々、時間をかけて、無理なく伸びしろを伸ばしてゆく。プロ高での三年間で、Pro科に上がる者は、全体の3%。これに君は、たったの3%という印象を持つだろうが、Pro科生が五人揃えば、一国を相手に戦える」
「あのさ、オレ、時間ないわけ。聞いてた?」
「それに、残り97%がPro科生になれなかったわけじゃない。Pro科生を選らばないと言う選択肢もある。我がハイスクールPro創始者、富士山くんがそうだったように」
「なんじゃ、そりゃ!」
びっくりこいて、アゴが外れそうに。
「富士山くんは自ら望み、この普通科で三年間を普通の高校生として過ごした」
「またまた、なんじゃそりゃ!」
「なぜなら、それが富士山くんのネガイゴトだったからだ。神童が辿る大人たちの思惑に満ち満ちたすさんだ道を、富士山くんは子供時代から進んできた。嫌気がさして、登校拒否、15才で自分専用の高校を、この校舎から始める。今や世界にその名を轟かせるハイスクールProの礎こそ、ここ普通科にある。青矢、それでも君は普通科を軽んじるか?」
「か、軽んじるとかさ、そういうこと言ってるわけじゃなく。ここ座って、卵あっためてても、ネガイゴト孵化するかなって」
富士山くんなる影がチラホラ、ちょっとビビり始めて、言葉を選んだ。
「くどいぞ、青矢。これ以上は、言いたくない。おまえの国語力では理解できないのか?」
やっぱり、聖女ミッション! そこが一番大事。富士山くんの影より母さんの顔が輝いた。
「ああ! 理解できないね。オレの使命感が」
「では、回転扉に挑む。そう言うことになるが、本当にそれでいいか?」
「回転扉? なんじゃそれ」
「回転扉。それは、普通科生の潜在能力を、一瞬で引き出し、Pro科へと導く禁断の扉」
「それを先に言え! 今までの尺なんだったん? テレビだったら怒られてんぞ」
「では、普通科生、8組全員に尋ねよう。回転扉に挑みたい者は立ち上がってくれ」
「先生!」椅子を真後ろにひっくり返して、いっせいに立ち上がるかと思いきや、しーん。
頭を抱えて俯く者、苦笑する者、「ムリムリ」コソコソ言う者、とにかく全員、回転扉とか言う訳わからんが、絶好の機会へ手を伸ばして立ち上がらず、座ったまま。しーん。
「なぜ、誰も手を上げないのだろうな、青矢?」
「そ、そりゃあ、回転扉とやらに爆弾でも?」
またもや、ビビリに逆戻り。
「答えは、イエスかノーのどちらか一つ。青矢、回転扉に挑むか? それとも、ここ普通科にて、無料の豪華ランチで英気を養いつつ、自分のペースで能力を磨くか。そのうち、回転扉に挑んだ者たちがその後、どうなったか誰か教えてくれるだろう。同じプロ高生として、僕は後者を薦める。しかし、回転扉に挑む権利は、プロ高生である以上、何人にも阻止できないのが、校則だ」
おっかねえ! 挑んだら下りれねーってことだよな?
なんなの回転扉って?
とは言え、なんだろうが、下りるつもりないし。瞬がレースから下りなかったように。あのモンスターを超えるには、まともやってちゃ、とてもとても。
「回転扉が、なんなのかわらんが、挑もう。イエスだ」
湯川はインテリ眼鏡のフレームを押さえて、言った。
「生徒会長、レディー・オカカ。回転扉に、挑みたい普通科生が名乗り出ました」
湯川が妄言みたいに一人ごとをつぶやいた。
「生徒会長から、許可が下りた」
「え? どこ! 生徒会長!!」
「全部、この眼鏡で情報やりとりしていることにも気づけない。そんな有様で、回転扉か。地球内事情だが、君の末路を憐れむ」
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