KOROKKE


「て言うか~」

 とか言いながら、パッチリオメメの天野が、椿といっしょに苺ケースのスマホを覗き見て盛り上がっている。ばえったコロッケ画像とかに、キャピキャピしているに違いない。

「んじゃ、眷属君たち。ぼく、普通高校生の輪に戻らないと」

 モンスターの輪から抜け出して「ツバキ~&アマノ~、ぼくもいーれて」内股に駆け寄った。


「だから~青矢くんは~、どこのガッコウなの?ってえ~」

「なーに、なーに天野~、ガッコウがどうしたってさあー。いっしょにプリクラいっちゃうー?」

「どこのガッコウなの?って聞いたら、青葉って答えたんでしょ?」

 椿が間に入った。

「なーに、椿~、そうに決まってんじゃんよー」

「これ、青葉学園、修学旅行の日程表」

 椿が天野の持つ苺ケースのスマホを、見やってあっさり言い放つ。


「わかりやすいように~PÐF化しておきました~」

 天野はパッチリオメメを輝かせつつ、苺ケースのスマホをかざして、眷属どもを見わたす。

 そこには、青葉学園高等学校の保護者用行動スケジュールが・・・

 ここから程遠くないホテルに宿を取っているではないか。

 

 もし、ここに青葉なる、青葉学園高等学校の謎の彼女がいるとしたら?

 眷属どもを見わたすと、天野がかざす苺ケースのスマホが、鉄拳パンチ並みに痛いらしい。ケンシロウは目影に隠れ、湯川は「牛丼屋、戻るか?」と背中を向けた。

 インビジブルに至っては、その名のごとくすでに姿をくらましている。


「これって~人工衛星とか~ドローンじゃなくて~日本語の問題?」

 天野がおっとり言うと、全員ぶっ倒れそうに。察した天野は「ごめんなさ~い。わたし、傷つけるつもりじゃ~」

 パッチリオメメをうるうるにして大粒の涙が溢れた。

 自分でトドメ差しておきながら、泣きだす。ある意味、残忍な敵よりタチ悪いんじゃ?


「あ、天野。ナイス! 泣くなよ。ありがと。な! ケンシロウ」

「ユリアああああああ!」ケンシロウ、ビッリビリのブレザーを更に筋肉膨張させて、裸に。

「湯川、やっぱ基本が大事ってことだ。天野を見習わなくちゃな、てへ!」

「地球内の基本が、全宇宙に当てはまるとは限らない。全宇宙的視野に関して言えば、僕の最愛にして地球外の恋人メーテルのほうが」

「素直に認めろ! 天野、もう泣くな。コイツら懲らしめておくから」

「でも~わたし、なんか余計なことを~」



 更に、嗚咽さえ漏らし始めた天野に「ハイ!」

 椿がコロッケを手渡した。

「あんたたちがごちゃごちゃ言ってるうちに、あのコロッケ屋さんで開発しちゃった。じゃーん、イモグリコロッケ」

 天野が瞳を泣き濡らしたまま頬張ると、その嗚咽が止み、次に涙が止んだ。

 旨そー。

「ハイ、あんたたちのぶん」

 椿からイモグリコロッケを手渡されると、ぼくら男三人無言でがっついた。

「椿、コレ、マジでうめえー!」

「牛丼屋に戻る必要ないな。ケンシロウ」

「ユリアに、もう一つ」

「おまえが食う気だろ」


 ハンドルネーム椿、シングルの母親から幼児の頃、ネグレクトされていた。

 あまりの空腹に、夜の外へ食べ物を探しに出かけると、とある庭先の木に椿の花が美味しそうに咲いていた。

 幼児は寒さに凍える小さな手で椿を摘んで、家に戻り、うる覚えの知識で椿を天ぷらにして揚げてみた。


「おいしい!」

 寒椿は、凍える小さな口を暖め、美味しく胃袋を満たしてくれた。幼児は夢中で天ぷらを揚げて頬張った。

「アツ!」

 夢中になるあまり、台座がひっくり返って、煮えたぎった天ぷら油を、背中に浴びた。

 体に消えない火傷と心に消えない傷を負いながらも、幼児は大好きな料理と食べ物に救われた。

 椿に無味乾燥とした開発室など必要ない。〝お手伝い〟と称して、可愛がってくれる店のキッチンに出入りして、あらゆる味を学んできた。そして自分流にアレンジを加える。


 そんな子が、やがてハンドルネーム、椿に成長して、その料理で皆を笑顔に変える。

 たとえ、地球外に思いを馳せていようとも。椿の作る味が、地球内の舌べろに引っ張り戻してくれる。


 ぼくもいい加減、戻らないと。あの地獄から。


 椿のイモグリコロッケを食べながら思う。

 しかし、そのためには、どうしても、あの灰色がかったグレーの瞳に、会う必要があった。


 

 












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