EYE
「心の目を開け!」
ついにケンシロウが、その上半身の筋肉を大膨張させ、Pro科プレザーをビリビリに破いた。レディー・オカカ大激怒のパターンだ。
「19秒前へ」
ケンシロウが言いながら、摘まんだハエドローンを更に圧迫する。
「わかった! ケンシロウ、これがピッタリ19秒前の映像、停止画像だ」
「ふん!」ケンシロウがいと逞しき上半身を晒しながら、19秒前の停止画像を指さした。
「ここだ」
「なに? 一人で、オレがあんぐり口開けて、バカ泣きしてるだけじゃん。え、もしかしてケンシロウ、さらした?」
「それは違う。これは、確かに妙だ。青矢の影が」
湯川がインテリ眼鏡のズレを補正しながら指摘した。
「影? 蝋人形から影人間にまで、陰キャ落ちしたってこと?」
「地球外的な発想だが、そうではない。影が折り重なっている。ケンシロウの達観だ」
確かにぼくの影だけボリューム感がある。かと言って、だからなに?
「あーあ、オレが関わる案件て、結局、血の匂いがしてくる。青葉ページ。青春の1ページ、のはずが、なんでこうなるの」
ハエドローンがケンシロウの指に挟まれながら嘆いた。
「青矢、心当たりは?」
湯川が言うと、同時にぼくへ集まった視線が痛い。
「眷属どもの考えに、オレぜんぜん、ついてけなーい。いったいオレが何したって?」
「いいか、青矢、我ら三人の考察は同じだ」ハエドローンが言った。
「青葉と言う、未確認対象物体は、巧みに防犯カメラをよけながら歩いている。常におまえを盾にカメラの死角へと回って」
教壇の上で、推論から答えを結論づけた時のしんとして広がる、湯川独特の間。これ以上ない説得力に羽交い絞めされたよう。
「おまえら、なにほざいちゃってんの? 青葉がくノ一の刺客だったとでも? だとしたら、湯川先生、地球内のCО2で濁った空気、ちょこっと吸いすぎちゃったんじゃ」
「やむをえまい」
湯川が、カバンからタブレットを取りだすと、こちょこちょいじくりまわして、ケンシロウと見合った。
「阿多!」
ケンシロウが唸りを発して指差すタブレットを、ぼくものぞき込む。
なんと、この街を空から俯瞰した、これは衛星画像。
青矢。とマーキングした黄色〇がスカイロードを移動している。そして、その黄色〇青矢の周りを、不自然に動き回る人影らしき点が・・・最後、ダッシュしたように黄色〇青矢からどんどん離れて、画面から消えた。
「青葉の足取り!」
「その通りだ、青矢。今朝、Pro科生の間で最も注目を集めた、おまえの動向を探るべく、ぼくはマイ衛星でおまえの足取りを追っていた」
「国際テロ組織の主犯かよ!」
「確実に、この未確認対象物体、Pro科生の追跡を意識しているよな」
急にハエドローンが生真面目になって、そのPro科生としての謎の顔を垣間見せる。
「異議なし。僕のマイ衛星、メーテルの監視さえ、念頭に置いている節がある。そのエビデンスが、このダッシュだ。建築物だらけの凸凹都市空間において、衛星による解析は脆弱だ。しかし、大気圏の目と称される、抜群の解像度を誇る僕のメーテルが、対象を解析処理する直前、未確認対象物体は駆け出し、メーテルの目が及ばない建物の影に紛れ込んだ。これは、つまり僕の最愛にして地球外の恋人、メーテルの解析速度を把握されていると結論する」
「おまえさ、一言いい?」
「反論か? 受けて立とう」
「この! 変態テクノロジー! スーパーストーカー! 略してスーパーカー! 人のプライバシーなんだと思ってんだ、この天才ボケ!」
その時、このむさ苦しい眷属どもがドロドロにした空気を割るソーダ水みたいに「ねえ、君たち、コロッケ食べない?」
爽やかな笑顔の椿ウェルカム!&なぜか薬草女子の天野がパッチリオメメで我ら、じゃなくてコイツら眷属を見守っていた。
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