KENZOKU
「青矢。その話し、このハンドルネーム、インビジブルがのった」
声がして、辺りを見回すが誰もいない。目の前に沸騰寸前の椿が立って、ぼくをガン見しているのみ
「青矢、修学旅行中の女子高生、ストーカーして遅刻したとは。見損なったぞ。まあ、地球内のことに興味はないが」
「湯川! なんでここに?」
「ユリア! 生きてさえいてくれれば・・・青矢、同じ思いの、このケンシロウがついている」
「おいおい、ケンシロウまで。Pro科を代表するほぼ眷属どもが、なんと科のオレになんの用? 今、ごくごくありふれた高校生の営みの最中なんすけど」
「青矢、オレ、こういうの待ってたんだよ。青春!ちゅうの」
また、肩辺りからさっきの声が。きょろきょろ辺りを探しまわるが、まるでわかんらん。
「インビジブル、顔出しNGのPro科生だ」
湯川がなんでも知ってますって、素振りで言ったものだから頭にきた。
「おまえらこそ、オレらのことつけ回して、ストーカーだよな! この学生不適合者どもが、普通科落ち寸前の普通高校生の営みが羨ましいんだろ? なあ、椿」
椿はそっぽを向いて、店先に並んだコロッケをリサーチしている。
「阿多!」
ケンシロウが目にも止まらぬ拳速で拳を振りかざし、頬をマッハの風がかすめた。
「や、やんのか! ケンシロウ。オレはラオウと知り合いなんだぜ」
「脇が甘い!」
ギロっと睨まれ、ケンシロウに一喝されたぼくは、スカイロードをダッシュした青葉の気持ちがわかった。やっぱ、逃げ出したんか?
「は、はなせ! ケンシロウ、これに数億円はかかってんぞ!」
ケンシロウが、万力みたいに親指と人差し指でハエを摘まんでいる。
「インビジブル、相手が悪かったな。ケンシロウの目をかいくぐるには、ナノテクノロジーで細菌レベルに縮小させる必要がある。まあ、しょせん、地球内のことだ。どうでもいい」
「ふん!」
ケンシロウがハエを放すと、ハエは力なく飛びたち、なんとかぼくの肩に止まった。
「ケンシロウ、恐るべし。あのスピードでこのハエドローンを壊さず、よく摘まめたもんだ。ねえねえ! 湯川っち! おもしろいじゃん、地球内のことでもさ。オレ、戦場とか核施設とかスパイの炙り出しとか、もう、うんザリガニなのよ。青矢のさ。謎の修学旅行生への淡い恋っての? これ、手伝ってあげようじゃないの!」
「ケンシロウ、どうする?」
「このケンシロウを強くしたのは、執念! 青矢、手を貸そう」
「だから、食いかけの牛丼、どうするんだ? 地球内のことではあるが、口惜しい」
「ああ、もう! Pro科の眷属どもにめちゃくちゃにされたくないから、椿に頼んだのに。牛丼、食いに戻ってくれ! 牛さんが報われないから」
「青矢、おまえはずっとインビジブルに、その奇妙な動向を、ライブ配信されていた。そして偶然、僕の前を地球内の事情抱えて通りかかる。偶然とは、唯一興味深い地球内の現象。人類を進化へ導いたのは、偶然だからだ。従って必然、牛丼は口惜しいが、偶然手伝ってやるべきだろう」
「なんでそうなんの!?」
ケンシロウが目の周りに真っ暗い目影作りながら、指の骨ボキバキ鳴らして殺る気まんまん。
止めらんねえー、Pro科生をマジにさせたら、もう誰にも止めらんないことを、なんと科のぼくは体で理解している。
終わった・・・
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